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『湯遊ワンダーランド』ドラマ化決定!

まんきつワンダーランドの新作は『犬々(わんわん)』「今までおどけたことを描いてきたのに…!」

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撮影/星亘

『アル中ワンダーランド』(扶桑社)でアルコール依存症の日々を描き、サウナに開眼し自己と見つめ合った『湯遊ワンダーランド』(同)の作者・まんきつさん。自分自身との和解を果たした彼女が選んだ次なる題材は、最も身近な存在である犬だったーー。

 愛犬のポテトちゃん、銀ちゃんと暮らす日々をユーモラスに描きながら、ルポ取材で犬のしつけ現場や、保護犬活動の現状などにも踏み込んだ新作『犬々(わんわん)ワンダーランド』(同)の第1巻が6月6日に発売。まんきつワールドの新たな扉が開いたと話題沸騰中だ。

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『犬々ワンダーランド』(扶桑社)

 さらに前作『湯遊ワンダーランド』が、テレビ大阪・BSテレ東の7月クールでドラマ化されることも決定! サウナにハマる“きつこ”役をともさかりえさんが演じることが発表された。まんきつさんに、ドラマ化への思いと『犬々ワンダーランド』について話を聞いた。


まんきつ

まんきつワンダーランドの新作は『犬々(わんわん)』「今までおどけたことを描いてきたのに…!」の画像31975年埼玉県生まれ。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目され、自身のアルコール依存症体験を描いたエッセイマンガ『アル中ワンダーランド』が話題になる。2019年2月、ペンネームを「まんしゅうきつこ」から「まんきつ」に改名。著書に『アル中ワンダーランド』、『湯遊ワンダーランド』のほか、『まんしゅう家の憂鬱』(集英社)、『ハルモヤさん』(新潮社)などがある。

 

『湯遊ワンダーランド』の次は「気功」マンガを描くつもりだった

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──まんきつさんの『湯遊ワンダーランド』が、今年の夏にドラマ化されますね。サウナに出会ったまんきつさんの心身の変化がユーモラスに描かれた作品でした。ご自身の作品の映像化は初めてですよね。

まんきつさん(以下、敬称略):そうですね。主演はともさかりえさんで、本当にありがたいです。脚本も読ませてもらったんですけど、すっごくおもしろかったです!

──脚本はドラマ『来世ではちゃんとします』(テレビ東京系)の舘そらみさんですね。

まんきつ:私のマンガが本当にアレなので、コンプライアンスの厳しい時代に大変だったと思います……。かなり難航されていたみたいで、Twitterでも舘さんが執筆に苦労されているのを拝見していたんですけど、血を流すような思いをして書いてくださって。原作同様、フェイクプレーン(※)もガンガン飛んでますしね(笑)。実際にドラマを見るのがすごく楽しみです。

(※)飛行機に擬態しているUFO。まんきつさんの頭の中に直接語りかけてくる。

──ちょうど「週刊SPA!」(扶桑社)で連載している『犬々ワンダーランド』の第1巻も発売されたばかりですね。今作もすごくおもしろかったです。

まんきつ:本当ですか?

──本当です(笑)。まんきつ節のユーモアは健在ですが、前作『湯遊ワンダーランド』やアルコール依存症の体験マンガ『アル中ワンダーランド』とは作画や作風が全然違っていて新鮮でした。

まんきつ:やっぱり…作風が落ち着きましたよね? 今までおどけたことを描いてきたのに……! 急に真面目なことを描いたので、今まで読んでくださってた方がついてきてくれるか心配です。おどけた作風が好きだった読者の方は、「まんきつさん、落ち着いちゃったのかな?」って思うかもしれないですね。そういう不安はあります。

──たしかに『アル中』も『湯遊』もブッ飛んだ作品だったので、それに比べるとほっこりする読後感でした。でも、ファンの方はまんきつさんがアルコール依存症から立ち直り、サウナで心身ともに安定していて、安心してると思います。

 ところで、そもそもなぜ今回「犬」をテーマにマンガを描かれたんですか?

まんきつ:最初は「気功」のエッセイマンガを描きたかったんですけど……。

──気功って中国の民間療法ですよね。まんきつさんらしい着想ですね。

まんきつ:あのころはだいぶスピリチュアルに振り切れてたので(笑)。それでいろんな気功の先生のところを、取材も兼ねて片っ端から訪ねてみたんです。でもホンモノは一握りで、ほとんどインチキでした。「気功って習うのにいくらかかるんだろう?」と思って聞いてみたら「僕のところは100万円です」って言うんですよ。しかも「僕は年収1千万円です。すぐに元取れるんで、この授業料は安いくらいです」って。それを聞いて、これは描けねぇな……と正気に戻りましたね。

──怪しすぎますね。

担当編集高石さん:上司からも「気功で描いたら売れはするだろうけど、“そっち側の人”のイメージがついてマイナス」と指摘されていたので、まんきつさんが諦めてくれて本当に助かりました。

まんきつ:「マンガ家人生終わるよ」って言われたね(笑)。本当やらなくてよかった。

──「気功」から「犬」というのも切り替えも大胆ですね。

まんきつ:犬のマンガを描こうと思ったきっかけは、サウナ室のテレビで見た悪質なペット業者のニュースだったんです。ペットショップで売れ残って成長した犬は、値段が下がるじゃないですか。ある業者は、そういう犬を買い取って糞尿まみれの劣悪な環境で飼育し、交配させてて。そうして生まれた子犬を売ってお金儲けするらしいんです。

──ひどいですね。

まんきつ:そうなんです。でも、ずっと犬を飼っている私もそんなひどいことが行われているって知らなかったんですよ。このひどい状況に対して、自分も何かできないかなと思いました。もともと担当編集の高石さんからも「身近な話題を描くのがいい」と言われていたので、自分の犬との生活を描きながら、犬を取り巻く負の側面も描けたらなと。それが連載を始めたきっかけなんです。

サウナと犬がいなければ、人として終わってました

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──12年間の付き合いになるポテトちゃんは保護犬だそうですね。

まんきつ:子どものころも拾ってきた雑種の犬を飼っていたので「動物はお金を出して買うものじゃない」って思ってたんですよね。でも、保護とか大それた気持ちはなくて。たまたま出会っちゃったから飼うしかない。そんななりゆきなんですよね。

──『犬々』には、日常回と取材回がありますね。日常回では、まんきつさんが愛犬と過ごす日々が描かれる。一方、取材回では犬の学校「ミナクル」に行ったり、犬を飼うマンガ家の小田原ドラゴンさんや、沖田×華さん・桜壱バーゲンさん夫妻に会いに行ったり。個人的には、犬や猫の保護活動をしている荻原さんの回が印象的でした。

まんきつ:ポテちゃんも荻原さんのところから迎え入れたんですが、荻原さん、本当にすごいんですよね。30年間も保護活動しているだけでもすごいのに、全部自腹でやっている。ご自宅の隣の家も猫たちのために購入されたりとか……。さっきも言いましたが、犬って病気や介護でもすごくお金がかかるので、費用面でも大変なんですよ。

──荻原さんが言っていた、「もし魔法が使えるなら、いっそのことこの世から動物消したい」という言葉は重かったです。この世に虐げられる犬や猫がいるのなら、いっそのこと……という。

まんきつ:あの言葉はなかなか出てこないですよね。私には荻原さんのような保護活動はできない。でも、最初に言ったような悪質な業者をなくすために、マンガで現状を伝えることならできるかなと思ったんです。いつかそういう業者も直接取材しなきゃいけないとは思うんですよね。でも、糞尿まみれで狭い檻に閉じ込められた動物を見ることに耐えられるか自信はないです。

──そういえば『アル中ワンダーランド』でお馴染みの犬・モモちゃんが今作には登場しませんが……。

まんきつ:あ! 実はモモちゃんが、ポテトちゃんなんですよ。モモちゃんは仮名だったんです。ブログ時代からなんでも仮名にする癖がついちゃってて(笑)。たしかに、読者のみなさんは「モモちゃんどこ行ったんだろう?」って心配になりますよね。モモちゃんがポテちゃんなので安心してください。

──アルコール依存症だったときは、モモちゃん改めポテトちゃんのお世話は大変でしたか? 

まんきつ:いえ、むしろポテちゃんがいたから、なんとか生活を保っていたんです。散歩だけは毎日めちゃくちゃしてたから。当時は結婚していて、栃木のど田舎に住んでいたんですけど、夕方の畑道をほろ酔いでポテちゃんと散歩するのがすっごい気持ちよかったんですよ。犬の散歩がなかったら、家に引きこもって飲んだくれていたはずです。

──犬と暮らすことで、否が応でも外に出ないといけない状況に助けられた。

まんきつ:私が今こうやって健康的に生きているのは、犬たちのおかげです。今でも外出といえば、近所のイトーヨーカドーと銭湯と犬の散歩だけ。サウナと犬がいなかったら、人として終わってたと思います。

──ポテトちゃんに加えて、3年前からペットショップで出会った黒柴の銀ちゃんもまんきつ家に加わったそうですね。

まんきつ:黒柴ってずっと憧れてたんですよね。ポテちゃんが本当におとなしくて手がかからないので、1匹増えても大丈夫だろうと思ったんですが、2匹になると大変でした(笑)。雨の日も雪の日も台風の日も散歩に連れていかなきゃいけないし、お世話にはお金もすごくかかりますしね。

──黒柴への憧れはいつからですか?

まんきつ:だいぶ昔なんですけど、女優の寺島しのぶさんが愛犬の黒柴と並んだ写真を見て、それがすごく素敵だったんですよ。七五三で撮った親子写真みたいに見えてたんです。私はずっと雑種しか飼ってこなかったので、最初はそれが黒柴だって言うのも知らなかったんですけど。それからずっと、いつか犬を迎え入れるなら黒柴かハスキー犬だと決めてました。

──シベリアンハスキー犬にも憧れてたんですね。

まんきつ:佐々木倫子さんの『動物のお医者さん』(白泉社)を読んでましたからね。子どものころはいつかハスキーを飼いたいって思ってたんですけど、実家がいつも雑種ばかり飼っていて。ポテちゃんにも出会ったし、飼ってみれば雑種も何も関係ないですけどね。

今はまだ犬と縁のない人も、いつかのために読んでほしい

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──『犬々』で描かれる愛犬との日々は、まんきつさんらしいユーモアがあって笑いながら読めました。僕は犬や猫と暮らしても、動物との距離感がつかめなくて。でも『犬々』で動物のかわいさや、彼らと暮らすことの楽しさが少しわかった気がしたんです。

まんきつ:私もポテちゃんが来てからしばらくは、かわいいと思えなかったんですよ。それまで猫を飼っていたから、「犬って本当に手がかかるな……」とうんざりするところもあって。最初の数年は「家に犬がいるだけ」という感じでした。でも、ジワジワとかわいくなってきて、気づいたらとても大切な存在になっていて。

──そうだったんですね。

まんきつ:今思うと、お世話をしなくちゃいけないので、慣れるまでは「かわいい」って感じる余裕もなかったんでしょうね。動物を育てるって、わからないことがたくさんあって大変じゃないですか。インターネットを見ても、本当にいろんな意見がありますし。YouTubeには虐待まがいのことをしながら真顔で「しつけ」だと言い張る人もいます。

──ネットにはウソの情報も蔓延しているし、初めて飼う人は、何が正しいのかわからず困りますよね。

まんきつ:そうなんですよ。だから“啓蒙”なんていうと偉そうだけど、犬のことを何も知らない飼い主さんにとって、ちょっとだけ参考になるようなマンガを作りたかったんです。なんの気なしに読んでくれた人の頭の片隅に『犬々』が残って、いつかのタイミングで「そういえばなんか犬のマンガあったな」と記憶がよみがえって、またページを開いてもらえるような。だから、今はまだ犬と縁のない人にも読んでほしいですね。いつか『犬々ワンダーランド』が、犬と飼い主さんの役に立ったらうれしいです。

安里和哲(ライター)

1990年、沖縄県出身。ポップカルチャーを中心にジャンルレスで取材執筆を行う。アイドルや映画関連の仕事を増やしたい。執筆媒体は『クイック・ジャパン』『QJWeb』『BRUTUS』『週刊SPA!』『Maybe!』など。テレビ朝日『logirl』では、芸人インタビュー連載『First Stage』を担当する。ブログ『ひとつ恋でもしてみようか』 も再開予定。

Twitter:@massarassa

あさとかずあき

最終更新:2023/06/14 10:20
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