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安倍元首相銃撃から1年…昭恵夫人がプッシュした“後継者”の問題行動

安倍元首相銃撃から1年…昭恵夫人がプッシュした後継者の問題行動の画像1
国会議事堂(「Wikipedia」より)

 国会議員秘書歴20年以上の神澤志万です。

 2022年7月8日に安倍晋三元総理が街頭演説中に銃撃され死亡した事件から、もうすぐ1年が経ちます。先日、国会閉会を受けて秘書仲間で「お疲れ様会」を開いたのですが、この席でも元総理の事件の話題になりました。

 「まだ1年しか経ってないんだね……」

 みんなで元総理のエピソードで盛り上がり、私たち秘書にも気さくに接してくださった元総理の笑顔が見られたような気がしました。神澤も、この席で「あの時」の状況をようやく冷静に振り返ることができました。

 当たり前ですが、当時は日本中が大混乱でした。事件の2時間後に予定されていた応援演説の準備をしていた大物議員の秘書は「どうすればいいのか、誰に聞いたらいいのかわからずに焦った」と明かし、みんなも同意していました。不謹慎かもしれませんが、ボスのスケジュールだって心配ですからね。まさかこんな事件が起こるなんて、誰も思っていませんでしたし。

 「だいたいどんな警備だったんだよ? 総理経験者だよ?」

 「県警本部長は飛ばされるな」

 「急に決まったからって後ろに誰もいないなんて、ありえない配置」

 などなど、警備の問題にはみんな怒っていました。

 私たち国会女子は7月10日に迫っていた参議院選挙の準備に奔走しており、激務の合間に日焼けやストレスによる体重増加の話題、宿泊施設の愚痴などを情報交換する「選挙らしい」日々を送っていました。超絶多忙ではありますが、ある意味お祭りのように活気ある日常なのです。

 ところが、「あの時」からしばらくは、凍りついたような時間が流れることになります。以前も少し書きましたが、神澤は議員会館の事務所で事務作業をしていました。

 選挙中で陳情客もなく静かで、「ランチはどうしようか」なんて話をしていた、11時半過ぎに廊下から女性秘書の悲鳴のような叫び声が聞こえました。 何だろうと思ったら、近くの事務所の秘書が「安倍さんが撃たれたって! テレビつけて!」と駆け込んできました。

 「撃たれた?」

 言葉の意味がわからず、とにかくテレビをつけると「安倍元総理が銃撃された」と報道されていました。しかも、「心肺停止状態」とありました。まったく信じられませんでしたが、テレビでは現場の映像が繰り返し流されています。

 事件を受けて各党が「選挙活動停止」を指示したので、秘書たちは集会の中止などの連絡に追われながら、元総理のご回復を祈りました。自民党重鎮の議員事務所の秘書に様子を聞くと、「問い合わせがどんどん来てるけど、何がなんだかわからない。報道の方が早いよ」と困惑していました。

 政治家に対するテロ行為は過去に何度もあり、まったくの想定外ということでもないのですが、銃で撃たれるなんて、秘書人生で考えたことはありませんでした。

 死亡の報道は午後5時過ぎとなりましたが、それまで「日本の最先端の医療技術なら安倍さんを助けられる」「参院選が終わるまでは訃報を国民に知らせないようにするかも?」などと考え、街宣活動の再開の指示を待っていました。いろんな思いがあったのですが、死亡を伝える報道を見て「嘘でしょ……」というつぶやきとともに、すべて消え去りました。

「あやしい人物」には秘書が声かけ?

 事件に関する報道も錯綜していましたね。事件から30分後には「心肺停止」と速報が出たのですが、自民党内の連絡網では、早い段階から「死亡」と伝達されていたそうです。

 インターネットの情報のスピードも驚きましたね。日本のメディアが「死亡」と出す前に、アメリカの知人から「安倍元総理が亡くなったみたいだけど、安保政策に変更はあるだろうか」などと問い合わせがありましたし、銃撃後には「使われた銃はハンドメイドなんだね」とメッセージもありました。なんでアメリカに住んでいる人がこんなに早く知ることができたのか、「事件はアメリカの陰謀なの?」と疑ってしまったほどです。

 一方で、元総理の事件を受けて、セキュリティに関してはかなり変わりましたね。野党の党首であっても、施設内での講演では自前のスタッフ20名以上の用意と、参加者には金属探知検査をすることを県警から指示されます。

 でも、これすごく大変ですよ。同じ県内で1日4カ所を回る場合、20名のスタッフがそのまま党首と一緒に移動できるわけではないので、合計で60名程度のスタッフが必要になります。受け入れの準備がとても大変になりました。準備を指示する秘書たちは「この費用対効果が、その党首に果たしてあるのか?」と苦笑いしていたそうです。

 街宣での秘書の任務は重責になってしまいました。付近で「あやしげな人物」を見つけた場合、秘書が職務質問のように声をかけるよう指示されたのには、とても困惑しています。職務質問なら警察がしてくれればいいじゃん……と思いますね。

 この背景には、2019年7月の参院選で街宣中だった安倍総理(当時)にヤジを飛ばした男性を北海道警の警察官たちが強制的に排除したことが批判され、民事裁判にまでなったことがあるようです。警察は積極的に動けなくなったんですね。

 それで「女性の方が相手も身構えないから適任だろう」ということで、神澤のようなベテラン女性秘書にその役目が回ってきたわけですが、凶器とか持っていたらどうしてくれるんでしょうか。しかも、この4月に岸田文雄総理が襲撃された時は、SPでなく漁師さんに助けられていましたよね。

 200人もの聴衆が集まる中で、とっさに「あやしい動き」の男性を見つけてタックルした漁師さんは大絶賛されましたが、これも警備側の反省点は多いですよね。

 G7サミットなど国際会議招致も予定されていたのに、「治安の良さが売り物にならなくなった」と嘆く関係者もいました。円安もあって、日本のおいしいものや清潔なホテルを求めて訪日観光客は増えていますね。複雑な心境ですが、インバウンド需要は高まっています。

元総理の事務所の「一年生議員」

 国会も閉会し、何事もなかったような感じもありますが、議員会館の安倍元総理の事務所には、4月の補欠選挙で元総理の後継として出馬した吉田真次議員が入られています。これも前に書いてますが、この事務所にも「謎」がありましたね。

 国会議員は落選したら3日間で議員会館の事務所から退出するのが決まりです。ただでさえ落選してガッカリしているのに、短時間で荷物をまとめなくてはなりません。椅子やソファなどは国会が用意した「官物」なので、「差し押さえ物件」のように白いカードを貼られ、冷たい態度の職員が1時間ごとに「何時に出ていきますか?」とやってきます。これは経験した人でないとわからないと思いますが、「あのみじめな退出はイヤだよね……」と秘書仲間たちと話しています。

 引退が決まっている議員も退出のスケジュールはタイトなのですが、安倍事務所だけは国葬が行われた9月27日を過ぎても退出されていませんでした。前例がないので事務局も配慮したのでしょうが、議員が任期中に死亡した場合は、死亡の当日から公設秘書の登録もなくなり、お給料もストップします。「記章カード」という身分証も使えなくなるので、事務所に出入りできなくなります。ところが、安倍事務所関係者は特別な「記章カード」を与えられていたのか、国葬が終わっても事務所には出入りがあったのです。

 この謎すぎる事務所の主となった吉田議員は、山口県下関市出身の38歳。大学卒業後に大阪府議会議員の秘書を経て、2011年から下関市議会議員を務め、市議会副議長などを歴任した方です。安倍元総理の昭恵夫人が後援会長を務めたことも話題になりましたね。もともと昭恵夫人が後継者としてプッシュしていたようです。

 今も安倍事務所のベテラン秘書が吉田議員を補佐しているそうですが、安倍元総理時代にはなかった「試練」があるようです。たとえば「差し替え」問題。議員が委員会に出席できない時に、自分よりも期数が同じか少ない後輩の議員に出席をお願いすることがあるのですが、「1年生」の吉田議員は、この「差し替え」を頼まれることが多いそうです。

 ベテラン秘書によると「差し替え依頼がすごく多くて、手続きしたことがないから大変」だそうです。確かに安倍元総理はお父様の晋太郎議員の後継者ですし、誰も差し替えをお願いすることはなかったでしょうね。吉田議員は二世ではなさそうですし、安倍元総理の後継でも、扱いはあくまで「新人議員」なんだとほんわかしてしまいました。

 ただ、秘書さんとのコミュニケーションが取れていない印象はありますね。自撮り棒つきスマホを持った若者たちと一緒に議員会館のエレベーターに乗り込んできたからです。そこは撮影禁止の場所です。本来なら、撮影に限らず国会や議員会館でのマナーは秘書が随行して注意するのですが、この時の吉田議員は秘書も連れず、二人の若者とエレベーターから本会議場へ向かう地下通路を歩いて行ったのです。

 居合わせた人たちは「ここ撮影禁止だよね?」「あれ? 安倍さんの後継の吉田議員だよね?」と顔を見合わせました。すぐに衛視が気づいて追いかけ、撮影できないことを説明したので録画はやめましたが、衆議院本館への通行証を持っておらず、地下通路の入り口で衛視に「通せんぼ」されていました。

 普通は議員会館に入る通行証とは別の許可証を秘書があらかじめ用意して、切り替えるものです。もしかして「若手議員あるある」で、秘書のことを見下して、なんでも自分でやろうとしちゃうタイプなのかなと心配になりました。

 これが原因なのかはわかりませんが、次の衆議院に向けた区割り変更に伴う山口県の新3区の候補者は、林芳正外務大臣となりました。吉田議員も希望していましたが、議員の質という意味では、林大臣にまったく太刀打ちできません。党本部の判断はとても現実的だったと思います。ただ、吉田議員は比例で調整するそうですから、当選のハードルは高くないと思います。

経験20年以上の現役国会議員秘書

かみざわしま

最終更新:2023/07/02 07:00
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