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名ばかりの「技能実習制度」を問う社会派ブラックコメディ『縁の下のイミグレ』

名ばかりの「技能実習制度」を問う社会派ブラックコメディ『縁の下のイミグレ』の画像1
映画『縁の下のイミグレ』の出演者サイン入りポスター、池袋HUMAXシネマズで 撮影。

 制度を作った時の崇高な理想はともかく、今、「技能実習制度」と聞いて、それが「貧しい途上国から来た若者が日本で働きながら技術を習得し、それを母国に持ち帰り、母国の発展のために寄与する仕組み」と言っても額面通りに受け取る人は少ない。

 「実習」とは名ばかりで、実際は中小企業などの人材不足の悩みを解消し、しかもネックの人件費を抑えることができる便利なシステムであることはみな、腹の底では分かっている。それでも、表向きは、貧しい国からやってきた若者たちに素晴らしい日本の技術を学んでもらい、後に母国でその技術を広めるための「国際貢献」であるふりをする。この矛盾に満ちた仕組みを合法的な現代の「奴隷制度」と言い切る人もいる。

 この国際貢献とは程遠い、合法的な現代の「奴隷制度」を取り上げた社会派ブラックコメディ映画『縁の下のイミグレ(イミグレ)』が6月30日から全国の映画館で順次公開されている。

 監督・脚本は、なるせゆうせい。昨年6月に公開された、消費税をテーマにした社会派青春映画『君たちはまだ長いトンネルの中』を手がけ話題となった。

 原作は行政書士で社会学者の近藤秀将の著書『アインが見た、蒼い空。:あなたの知らないベトナム技能実習生の物語』。映画ではベトナム人でなく、フィリピン国籍のモデルで今回初めて演技に臨んだナターシャが主人公役を熱演した。劇中、主人公の名前も「アイン」から「ハイン」に改められた。

 貧しい家族を支えるために東南アジアの某発展途上国から「技能実習生」として日本にやってきたハイン。ジャパニーズドリームを夢見て工場で働き始めるも、給与の未払いなど夢見ていた状況とは真逆の不遇が続く。青年海外協力隊の一員としてハインの母国に来ていた青年に付き添われ、無料で相談に乗るという行政書士の事務所の門を叩くが、出迎えたのは一癖も二癖もありそうな食わせ者の行政書士と、その部下の真面目だけが取り柄の若い行政書士。そこにおバカな二世議員に、技能実習生を管理する監理団体の職員といった人たちが入り、話が二転三転する。

 ハインが空港に到着し、車に乗せられて以後、登場する舞台は彼女が相談に行く行政書士の事務所のみ。当のハインをよそに、それぞれの登場人物が自らの持論を述べるマシンガン・トークの応酬となるが話は全く噛み合わない。ただ、激しい言葉のやりとりを聞いているだけで、「技能実習制度」についての予備知識がなくとも、制度とその矛盾点が分かる作りとなっている。

 例えば、多くの技能実習生が母国の送り出し機関から多額の借金を負って日本に来ていることや、受け入れ先の会社がどんなにブラックでも、制度が日本での技術を母国に持ち帰ってもらう技術移転を目的としているため、原則転職は認められないこと等々。主人公のハインも平均月収が3万円の国から約100万円の借金をして日本にやってきた。

 それぞれの登場人物がまるで狂言回しの如く述べる長い台詞。誰の主張も正しく聞こえる。おバカな二世議員は「日本のグローバル化」を唱えながら、深刻な労働者不足を外国人労働者で補おうとする政策を推し進めるが、これは日本の現状を考えれば全くもって正しい主張だ。

 二世議員は現行の技能実習制度の問題点を認めつつ、解決策としての特定技能2号(熟練外国人労働者の永住につながる在留資格)を誇らしげに語るが、ラサール石井演じる監理団体の職員に、「特定技能は一見、外国人労働者を思いやっているようで聞こえは良いが、日本人と同じ給与を外国人に支払わなければならないので企業が本気でそんな制度を目指しているとは思えない」と論破される。企業の本音は多少制度に問題があっても安い給与の支払いで済ますことができる「技能実習制度」だろう。

 建前でなく本音の部分を監理団体職員は突き、最後は恩恵を受けているはずの「技能実習制度」を“現代の奴隷制”とまで言い切る。我々が頭の中では分かっていても、なかなか言い出せない本音が登場人物たちの口からどんどん吐き出される。

 これ以上書くとネタバレになってしまうので筆を止める。欧州などでは移民と呼ばれる海外から来る安い賃金で働いてくれる労働者を日本では「技能実習生」や「特定技能」といった曖昧な言葉にすり替え、問題の本質から目を逸らす。売春を援助交際、パパ活といった聞こえの良い言葉にすり替える発想と似ていなくもないと言える。

 技能実習生は日本で3年から5年働いた後、母国に帰る。日本に家族を連れてくることは禁じられている。家族を養う金銭を得るためとはいえ、3年から5年もの長きにわたり離れ離れで暮らすのは辛い。

 流石にこのままではまずいと思ったのか、政府の有識者会議は4月28日、この技能実習制度を廃止して、新たな制度への移行を求める中間報告書をまとめた。

 給与未払い、実習生への虐待などトラブル続きの技能実習制度が「国際貢献」という美名の下になぜこれまで存続してきたのか? 映画『イミグレ』はブラックコメディの形を取りながら我々に問う。

会社員兼フリーランス・ジャーナリスト。政治、経済、社会ネタを気の向くままに執筆

みつけたろう

最終更新:2023/07/20 12:00
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