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社会がみえる映画レビュー#25

『トランスフォーマー/ビースト覚醒』はシリーズのミックス定食的なおいしさ

『トランスフォーマー/ビースト覚醒』はシリーズのミックス定食的なおいしさの画像1
C) 2023 PARAMOUNT PICTURES. HASBRO, TRANSFORMERS AND ALL RELATED CHARACTERS ARE TRADEMARKS OF HASBRO.(C) 2023 HASBRO

 8月4日より『トランスフォーマー/ビースト覚醒』が劇場公開中だ。本作はハスブロ社の同名の玩具を題材とした、SFアクション映画『トランスフォーマー』シリーズの通算7作目。その6作目かつスピンオフ作品『バンブルビー』の続編的な立ち位置なのだが、人間のキャラクターは一新され、物語も独立しているので、関連作品をまったく見ていなくても問題なく楽しめるだろう。

 結論から申し上げれば、小学生ごろのお子さんを持つ親御さんは安心して一緒に観に行ってOK。良い意味で気楽に楽しめる、それでいて見せ場たっぷりでお腹いっぱいになれる、良質なファミリー向け大作映画であり、後述するように今までのシリーズの“良いとこ取り”的な魅力も備えていたのだ。

 なお、筆者は吹き替え版で観たが、これが文句なしの素晴らしいクオリティだった。中島健人は主人公の誠実な内面をその声からにじませているし、仲里依紗も芯のあるヒロインを好演。おしゃべりっぷりが良い意味で“ウザキャラ”の域に達している藤森慎吾にいたっては、かつてないほどのハマり役だ。さらに玄田哲章や子安武人など、豪華声優陣による個性豊かなキャラがたっぷりと活躍するので、声優ファンにもたまらないだろう。本編のさらなる見どころを記していこう。

感情移入しやすい、巻き込まれ型で弟思いな主人公

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C) 2023 PARAMOUNT PICTURES. HASBRO, TRANSFORMERS AND ALL RELATED CHARACTERS ARE TRADEMARKS OF HASBRO.(C) 2023 HASBRO

 本作のあらすじは、1994年のブルックリンに住む青年が、車から変形するロボット“オートボット”たちと出会い、博物館の研究者も協力者となり、世界を救うための冒険へと向かう……という、ハリウッド映画の王道とも言えるシンプルなものだ。

 この主人公はいわゆる“巻き込まれ型”。彼は就職に失敗して生活はどん詰まりになり、車の窃盗の話に乗ってしまう。冒頭部で就職活動が描かれるのはシリーズ3作目『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン』と一致しているが、比較的ノリが軽かったそちらと比べて状況は切実だ。加えて「何がなんだかわからない目にあった挙句、車が巨大ロボットに変形する」までの戸惑いは(特にシリーズ初見の)観客と一致しているので、非常に感情移入がしやすくなっていた。

 しかも、直近の大ヒット作『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』がそうだったように、主人公に「弟を誰よりも大切にしているお兄ちゃん」という属性がプラスされているのが大きい。その弟は病弱ということもあって世界を救う冒険には参加しないのだが、その存在がしっかり生かされている展開に大いに感心した。病気がちな子どもや、はたまたきょうだいがいる人が観れば、自分たちの境遇と照らし合わせる形で、少し勇気や希望がもらえる内容なのかもしれない。

はちゃめちゃさと友情の物語がちょうどいいバランスに

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C) 2023 PARAMOUNT PICTURES. HASBRO, TRANSFORMERS AND ALL RELATED CHARACTERS ARE TRADEMARKS OF HASBRO.(C) 2023 HASBRO

 映画『トランスフォーマー』シリーズを語るにあたって、何よりも外せないのは、マイケル・ベイという監督の存在だろう。1作目から5作目までを担当し続け世界的な超大ヒットヒットを飛ばしていたが、その作風と言えばまったく穏当なものではなく、時に「ラーメン二郎」に例えられるほどに過剰なサービスが“メガ盛り”だった。『トランスフォーマー』シリーズに限らず、その多くが“はちゃめちゃ”な作風で、お腹いっぱいどころか胃もたれするのである。

 特にアクション部分はカメラワークがオーバーで、味方と敵の位置関係がよくわからなくなったりするし、それに手伝ってか映画『トランスフォーマー』はシリーズを重ねるほど物語のほうも“大味”になっていった。ただ、それがもはや欠点というよりも、「はちゃめちゃで胃もたれもするんだけど、なぜかまた食べたくなる」感じの“マイケル・ベイ監督の味”として、一部の映画ファンからは“病みつき”的な評価もされていたりもする。

 ところが、シリーズ6作目にしてスピンオフ作品『バンブルビー』になると、作風はガラリと変わる。アカデミー賞長編アニメ賞にもノミネートされた名作中の名作『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』のトラヴィス・ナイトが監督を手がけたおかげもあり、少女とロボットの心あたたまる友情の物語が丁寧に綴られた、シリーズ最高傑作の呼び声も高い“ウェルメイド”な1作となった。こちらは古き良きジュブナイルSF青春映画、特に「秘密の友だちとの交流を描く『E.T.』が好きな人も大いに気にいるだろう。

 その『バンブルビー』にはもちろん迫力の巨大ロボット同士のバトルもあり、人間と共闘するアツい展開も備えていて、そのアクションでは誰がどこにいるのかといった状況も掴みやすい。だが、理不尽な文句だとわかっているのだが、そんな風にとてもよく出来た、みんながよりおいしくいただける内容へとシリーズが進化したはずなのに、前述した胃もたれするほどにメガ盛りなマイケル・ベイの味が恋しくなってしまったところもあるのも事実だった。

 前置きがすっかり長くなったが、今回の『トランスフォーマー/ビースト覚醒』は、そのシリーズ5作目までのマイケル・ベイの味と、『バンブルビー』のウェルメイドな作りのちょうど中間、その“良いとこ取り”かつ“バランスもちょうどいい”印象なのだ。物語はちょっと大味でツッコミどころもあるし、巨大ロボットが四方八方から乱闘する様ははちゃめちゃそのもの。だけど、ちゃんとアクションの状況が見やすく整理されているところもあるし、青年とロボットの友情の物語にもグッときたりもするし、しっかり伏線が回収される丁寧さもある。

 そんなふうに「どちらの味も一緒に楽しめるミックス定食としてお出ししてきた」感じの内容を、シリーズを追ってきた人ほど期待してほしいのだ。

『クリード 炎の宿敵』の監督によるリスペクト

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C) 2023 PARAMOUNT PICTURES. HASBRO, TRANSFORMERS AND ALL RELATED CHARACTERS ARE TRADEMARKS OF HASBRO.(C) 2023 HASBRO

 さらなる注目は、今回の『トランスフォーマー/ビースト覚醒』の監督であるスティーブン・ケイプル・Jr.が、過去に『クリード 炎の宿敵』という生身の人間同士が闘う人間ドラマを手がけていたことだろう。巨大ロボットたちによるSFアクション大作とは畑違いにも思えるかもしれないが、なるほど今回のバトルにおける駆け引きやケレン味のある魅せ方など、そのキャリアが存分に生かされた演出が見受けられたのだ。

 さらにケイプル監督は、実写映画では今回が初登場となる、動物の姿をした“ビースト戦士”が活躍するアニメシリーズ『ビーストウォーズ 超生命体トランスフォーマー』が大好きだったそうで、そのリスペクトを本編に込めているのはもちろん、アニメ映画『トランスフォーマー ザ・ムービー』のオマージュも入れ込んでいるらしい。

 それらを知らなくても、「目的を同じくした者たちが共闘する」流れはシンプルにアツい。そもそも、巨大ロボットが車ではなくゴリラやチーターやサイなどの動物から変形することも実写映画シリーズでは新機軸であるし、大きな見せ場だ。それをもって、何も知らずに観ても楽しめるし、『トランスフォーマー』のファンこそが嬉しいポイントも存分にあるというバランスは、その最新作として“正解”と思えたのだ。

 ちなみに、ケイプル監督によると、おしゃべりなキャラ“ミラージュ”がポルシェから変形するのは、マイケル・ベイ監督の『バッドボーイズ』へのオマージュでもあるのだという。そのような作り手の既存の作品へのリスペクトや愛情も、ぜひスクリーンで観て感じてほしい。

『トランスフォーマー/ビースト覚醒』8月4日(金)より全国公開
監督:スティーブン・ケイプル・Jr. 『クリード 炎の宿敵』(18)
製作:ロレンツォ・ディ・ボナヴェンチュラ『トランスフォーマー』シリーズ、スティーブン・スピルバーグ『ジュラシック・パーク』、マイケル・ベイ『トランスフォーマー』シリーズ
出演:アンソニー・ラモス 『イン・ザ・ハイツ』(21)、ドミニク・フィッシュバック 『ユダ&ブラック・メシア 裏切りの代償』(21)
吹替キャスト:中島健人(ノア役)、仲里依紗(エレーナ役)、藤森慎吾(ミラージュ役)、玄田哲章(オプティマスプライム役)、子安武人(オプティマスプライマル役)
配給:東和ピクチャーズ
C) 2023 PARAMOUNT PICTURES. HASBRO, TRANSFORMERS AND ALL RELATED CHARACTERS ARE TRADEMARKS OF HASBRO.(C) 2023 HASBRO

ヒナタカ(映画ライター)

「ねとらぼ」「cinemas PLUS」「女子SPA!」「All About」などで執筆中の雑食系映画ライター。オールタイムベスト映画は『アイの歌声を聴かせて』。

Twitter:@HinatakaJeF

ひなたか

最終更新:2023/08/14 13:01
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