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「中央銀行廃止」「銃所持合法化」過激すぎる大統領がアルゼンチンに誕生か?

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アルゼンチンのエセイサ国際空港(「Wikipedia」より)

 「臓器売買市場の創設」「中央銀行の廃止」「自国通貨のドル化」「銃所持の合法化」「性教育の撤廃」――。驚きの公約を掲げる大統領がアルゼンチンに誕生するかもしれない。

 10月に大統領選が行われるアルゼンチンでは、選挙戦の只中だが、極右のリバタリアン(自由至上主義者)であるハビエル・ミレイ下院議員(52)がフロントランナーとして走っている。深刻なインフレに見舞われ通貨危機に陥るアルゼンチンは穀物の世界的産地でもあり、過激な大統領候補の言動は早くも世界経済を揺るがしている。

 ミレイ氏のニックネームは「かつら」。整髪とは無縁なボサボサのヘアスタイルから名付けられた。新興勢力である右派の政党連合「自由前進」から立候補し、8月13日に実施された予備選では約30%の票を獲得し、約28%を得票した野党連合のパトリシア・ブルリッチ元治安相(67)、約27%を得票した与党連合のセルヒオ・マサ経済相(51)の既存政党出身の有力候補2人を抑えてトップになった。

 アルゼンチンの予備選は、各党派内で本選に進む候補を決めるためのものだが、「本選のリハーサル」とも言われる。18~70歳の有権者に投票義務が課せられ、結果は大規模な世論調査として国民にとらえられている。本選を占う大きな指標だ。

 ミレイ氏トップは衝撃だった。結果を受けて、アルゼンチンの中央銀行は翌日14日、通貨ペソを対ドルで約20%切り下げた。ミレイ氏が大統領になれば通貨が切り下げられるとの見方が国内外に広がることに対応した措置だ。同日の米国の株式市場ではアルゼンチン関連株の上場投資信託(ETF)が約3%も下落した。外国為替市場ではペソの下落が加速し、15日には8%ほどのペソ安となった。大統領が決まった訳でもないのに、予備選の結果だけでマーケットは激震に見舞われた。

 ミレイ氏の過激な公約が要因である。通貨危機に陥る自国通貨ペソに国民さえも目を向けなくなっていることから、ミレイ氏は通貨をドルに置き換えることを主張している。これに伴い中央銀行を廃止するとしている。

 国家資産をすべて売却するほか、医療制度を含めて広い範囲で民間化する。年金支給額も大幅に削減する。移植するための臓器が不足し、必要な患者に臓器が届かない現状を変えるため臓器を売買する市場の創設する考えだ。

 また、自らの安全は自らが守るとして、銃などの武器の携帯の自由化を目指す。さらに家族制度の崩壊の原因になっているとして、学校での性教育の義務化を撤廃するとしている。

 ミレイ氏は1970年10月、バス運転手の息子としてブエノスアイレスに生まれた。過激な物言いは少年時代からで、高校では「常軌を逸した人」というニックネームが付いていたという。大学では経済学などを学び、年金会社などのエコノミストとして働いた。大手銀行HSBCでもシニアエコノミストを務め、政府機関の首席エコノミストの任務についたこともある。

 社会の注目を集めだしたのは2010年以降で、エコノミストとしてインタビューを受けてメディアに度々登場したほか、ラジオの司会者としてアルゼンチン社会を鋭く批判した。左右関係なく既存政治にノーを突き付けた上に、ペソのドルへの置き換えという斬新な構想が、若い層やアルゼンチンの政治にうんざりしている労働者層などに受け入れられた。2021年に「自由前進」を結成し、下院議員に当選した。今回の大統領選では第三極として動向が注目されたが、急速に支持を広げた。

 アルゼンチンは年率で100%を超えるインフレに直面しているほか、干ばつによって主力の大豆やトウモロコシの生産が大幅に落ち込んでいる。通貨安で輸入品価格は跳ね上がり、国民生活は困窮している。経済への国民の不満が、過激な政治家への支持につながっているが、アルゼンチンの場合、さらに奥が深い。

 国土は広大、気候は多岐にわたり、肥沃な大地が広がるアルゼンチンは約100年前には世界有数の経済大国だったが、独裁色の強かった左派ペロン大統領時代や、その後の軍事独裁政権、民政化後のそれぞれの時代での失政などにより独立以来、9回も国家財政が破綻している。最近のデフォルトは2020年で、現在も国際通貨基金(IMF)に450億ドル(約6兆6000億円)規模の債務を抱えている。いつまでたっても良くならない社会への失望は、既存政治に対するあきらめと怒りという形に姿を変え始めている。

 ノーベル経済学賞を受賞した米国の経済学者サイモン・クズネッツ氏は「世界には4種類の国がある。先進国と途上国、日本、アルゼンチンだ」と語ったことがある。戦後、驚異の急成長をした日本と、トップにいながら堕落し復活できないアルゼンチンはどこにも分類できない独自の道をたどっているという意味だ。

 歴史的にも稀な国だからこそ、世界でも稀な大統領が誕生してもおかしくはない。アルゼンチン大統領選の投票日は10月22日。結果次第では11月19日に決選投票が行われる。

言問通(フリージャーナリスト)

フリージャーナリスト。大手新聞社を経て独立。長年の米国駐在経験を活かして、米国や中南米を中心に国内外の政治、経済、社会ネタを幅広く執筆

ことといとおる

最終更新:2023/08/30 08:00
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