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窮地の地方大学が学費無償化方針で起死回生?兵庫県立大ほかが計画発表

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 兵庫県立大学と芸術文化観光専門職大学が、26年度から県内在住者に限定して、学部学生、大学院生の入学金、授業料を完全無償化する方針を打ち出した。兵庫県の斎藤元彦知事と兵庫県立大学の高坂誠学長が8月21日に共同記者会見で公表した。大学院生の博士課程までの無償化は全国で初めてとなる。
 https://www.u-hyogo.ac.jp/topics/important/20230822/index.html

 発表によると、完全無償化の対象となるのは、学生本人と父母ら世帯の生計維持者が入学日の3年以上前から兵庫県に在住していることを条件としている。

 授業料の無償化については、在学生と新入生の支援格差を考慮し、先行して24年度から高学年から段階的に実施していく。具体的には、24年度に大学生は4年生、大学院生は20博士課程後期3年生の授業料53万5800円が無償化される。

 その後、段階的に対象者の学年を引き下げていき、26年度には新入生の入学金と以降の授業料を完全無償化する計画だ。

 これにより、入学年度別の納付金は、20年度の入学者が入学金(28万2000円)と卒業までの4年間の授業料の合計で242万5200円かかるが、26年度の入学者からはゼロになる。また、大学院に進学した場合には、19年度の入学生は大学院卒業までの5年間で入学金と授業料で296万1000円かかるが、25年度の入学者からはゼロになる。

 同時に県外の在住者で兵庫県立大と芸術文化観光専門職大の両校への入学者については、現行の入学金42万3000円を28万2000円と国立大学並みに引き下げる。

 26年度に入学金と授業料の無償化と県外からの入学者の入学金引き下げが完全に実施された場合に必要となる費用は約22億4000万円と見込まれている。

 今回の施策は斎藤知事が知事就任3年目に打ち出した「若者・Z世代応援パッケージ」の施策のひとつだ。

 斎藤知事は記者会見で、現在、大学、大学院では、高額な学費が発生しており、多くの方々が奨学金の返済に苦慮していることをあげ、「県内の学生が不安なく教育を受け、安心して将来設計を描けるよう、一刻も早く無償化を打ち出すことが大事だと考えた」として、所得制限を設けず、大学、大学院ともに完全無償化へと踏み出した。

 だが、今回の施策に対して、地元では反対の声もある。斎藤知事は完全無償化の財源について、「県税収入のアップ、行財政改革の進展により、ようやく実質収支が増え、財政基金も約30年ぶりに100億円を超え、2期連続で実質収支も30億円を超え、さらなる歳出改革もやりながら、税収アップを見込むことで財源は確保できると考えている」と述べている。

 確かに、同知事の手腕もあり、県の財政状態は良好かも知れない。しかし、税金の使い方として反対する県民も多い。

「今回の完全無償化は、若い世代の流出防止にもつながる」と斎藤知事は協調するが、果たして本当にそうだろうか。

 20年ぐらい前から、少子化の影響と若者が大都市の大学、特に東京の大学へ進学するため、地元を離れることで、地方の私立大学が経営難に陥り、地元自治体が支援して県立大学や市立大学として存続するケースが増えている。

 地元の大学が減少、あるいはなくなることは、地元の若者離れを加速する要因になるとの判断もあり、地元自治体が大学存続に動いた結果だが、これで地元の若者離れが止まることはない。

 今回の大学、大学院の入学金、授業料の完全無償化は魅力的な施策でもあり、ある程度の入学者を集めるだろう。だが、大学を卒業しても地元兵庫県に留まるかは、甚だ疑問だ。

 兵庫県は大阪に近いことから、無用の心配かもしれないが、卒業後の進路、就職や魅力ある仕事、生活環境、果ては結婚や子育てを行う上での条件や環境によっては、大学の無償化を行っても、卒業生が地元に残らずに大都会へと出ていくことは十分に考えられる。

 今回の試みがどのような結果を生み出すのかは、地方における大学無償化への大きな試金石となりそうだ。

鷲尾香一(経済ジャーナリスト)

経済ジャーナリスト。元ロイター通信の編集委員。外国為替、債券、短期金融、株式の各市場を担当後、財務省、経済産業省、国土交通省、金融庁、検察庁、日本銀行、東京証券取引所などを担当。マクロ経済政策から企業ニュース、政治問題から社会問題まで様々な分野で取材・執筆活動を行っている。「Forsight」「現代ビジネス」「J-CAST」「週刊金曜日」「楽待不動産投資新聞」ほかで執筆中。著書に「企業買収―会社はこうして乗っ取られる 」(新潮OH!文庫)。

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最終更新:2023/09/04 07:00
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