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『何曜日に生まれたの』野島伸司が描く“フィクションにしか宿らない永遠の愛”

『何曜日に生まれたの』野島伸司が描くフィクションにしか宿らない永遠の愛の画像1
ドラマ公式サイト」より

 テレビ朝日系で日曜夜10時から放送されている朝日放送テレビ制作のドラマ『何曜日に生まれたの』(以下『ナンウマ』)は、ひきこもりの黒目すい(飯豊まりえ)が社会復帰していく姿を描いた物語だ。

 高校のサッカー部でマネージャーをしていたすいは、エースストライカーの雨宮純平(YU)とバイク事故を起こした罪悪感で学校に行けなくなり、10年間もひきこもっていた。そんなすいがサッカー部の仲間と再会したことをきっかけに、過去の自分と向き合っていく様子が描かれるのだが、『101回目のプロポーズ』(フジテレビ系)や『高校教師』(TBS系)といった数々のヒットドラマを手がけた野島伸司が脚本を担当していることもあってか、一筋縄ではいかない複雑なドラマとなっている。

 すいは、売れない漫画家の父親・丈治(陣内孝則)が作画を担当し、顔出しNGの売れっ子小説家・公文竜炎(溝端淳平)が原作を担当する漫画のヒロインのモデルとなることを頼まれる。その後、社会復帰のために高校の同窓会に向かったすいが、帰り道で元サッカー部の江田悠馬(井上祐貴)と再会するまでの様子が、第1話では描かれたのだが、公文たちがすいの様子を盗聴しながら、あれこれ話している場面が印象的だった。

 その様子は『テラスハウス』(フジテレビ系)等の恋愛リアリティーショーで番組出演者の恋愛模様をVTRを見ながら、スタジオで盛り上がっているタレントたちのようである。

 『ナンウマ』は複雑な構成となっており、物語の中に物語が内包された入れ子構造のドラマとなっている。漫画(当初の予定ではピュアなラブストーリー)の主人公のモデルとなるために、ひきこもりだったすいが社会復帰をしていく様子をリアリティーショーのように本作は見せていくのだが、サッカー部の仲間と再会したすいは、10年間ひきこもっていたことを隠して「ゲーム会社で働く幸せな私」という「嘘の自分」を演じることとなる。

 この、主人公が偽りの自分を演じるのは野島ドラマでは定番の流れだ。連続ドラマのデビュー作となった『君が嘘をついた』(フジテレビ系)の頃から、野島は「嘘」というモチーフにこだわってきた脚本家で、「嘘から始まった関係を本物に変えることは可能か?」という物語を繰り返し描いてきた。

 彼がこだわる「嘘」とは、そのままテレビドラマというフィクション(嘘の物語)に当てはめることができる。その意味でも、自分のドラマが作り物だということに対して自覚的な作家なのだが、ヒロインのすいが右往左往する様子を父親の漫画家と小説家と編集者が見守りながらあれこれ話している状況は、そのまま野島が脚本執筆をする時に脳内で起きている思考をトレースしているようで、自己言及的な物語となっていくのではないかと感じた。

 一方、すいの社会復帰の物語を通して細かく描かれるのが、再会したサッカー部の仲間たちの現在の姿と過去の姿だ。すいのバイク事故にまつわる過去の物語は全編モノクロとなっており、事故の背後で何があったのかがじわじわとわかっていくミステリードラマとなっている。

 逆に現代パートでは、すいがひきこもっていた間に就職して働くようになった仲間たちの華々しい姿が描かれていく。広告代理店で働く悠馬、化粧品会社の常務を務める純平、現在は悠馬と結婚してアパレルショップの店長を務める、すいと同じ元マネージャーで親友だった江田瑞貴(若月佑美)たちに、すいは劣等感を抱く。しかし、悠馬と瑞貴は別居状態にあり、瑞貴がビジネスのために不倫をしていたことが明らかとなる。

 元サッカー部の人間関係は『愛という名のもとに』(フジテレビ系)等のドラマで野島が書いてきたグループ交際モノの恋愛ドラマを思わせるが、ヒロインのすいは現実のドロドロとした恋愛に幻滅して、その輪の中に入ろうとせず、漫画やアニメといった二次元のフィクションに救いを求めている。

 一方、公文竜炎も、すいに対して恋心のようなものを意識するようになっていく。クリエイターは作品に入り込むと、物語のヒロインに感情移入して疑似恋愛に陥ってしまうことがあり、公文もすいに対して感情移入して好きになってしまったのではないかと、劇中では語られる。つまり、公文は自作のキャラクターに向ける感情をすいに向けた結果、疑似恋愛に陥ってしまったのだ。現実ではありえない「永遠の愛」が二次元では可能だと公文に言われたすいは、救いのようなものを感じ、癒される。

 おそらく今後は、公文の書く物語のキャラクターになりきることで「永遠の愛」を手に入れようとする、すいの姿が描かれるのだろう。そんなすいの姿は、野島の脚本に書かれたすいを演じる飯豊まりえの姿とも重なる。

 その意味で、公文とすいの関係は脚本家と女優の関係を映していると言える。劇中の設定と作り手の関係をシンクロさせることで、本作はフィクションにしか宿らない永遠の愛を描こうとしている。

成馬零一(ライター/ドラマ評論家)

1976年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。ライター、ドラマ評論家。主な著作に『キャラクタードラマの誕生 テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020』(PLANETS)などがある。

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Twitter:@nariyamada

なりまれいいち

最終更新:2023/09/17 20:00
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