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『ONE PIECE FILM RED』のアンコール上映が大ヒット アニメ作品のコアなファンに支えられる日本映画界のジレンマ

『ONE PIECE FILM RED』のアンコール上映が大ヒット アニメ作品のコアなファンに支えられる日本映画界のジレンマの画像1
ONE PIECE(写真/Getty Imagesより)

 近頃、日本映画界でちょっとしたブームとなっているのがヒットアニメ作品のアンコール上映だ。すでにソフト化されている作品が大きな規模で全国の映画館で上映され、興行収入ランキングの上位に入るなど、大人気企画となっている。

 代表的なアンコール上映では、2022年11月に公開された新海誠監督『すずめの戸締まり』は、ブルーレイ&DVDの発売を記念して“おかえり上映”と銘打ち、9月20日から10月5日の間全国100館の映画館で上映。また2023年2月公開の『BLUE GIANT』も、やはりブルーレイ&DVDの発売を記念して、10月27日から11月2日にアンコールリバイバル上映を実施している。

 さらに2022年8月公開の『ONE PIECE FILM RED』は、10月20日から1カ月限定で、全国300館という大規模のアンコール上映を実施。上映初週の週末興行収入ランキング(2023年10月20日~2023年10月22日、興行通信社)では、1位を獲得。翌週も2位となるなど、変わらぬ人気を見せつけた。

「多くのアニメ映画のアンコール上映は、ブルーレイ&DVDの発売後に行われているもので、ソフト化された映像からの新バージョンを上映するケースが多い。また“応援上映”のような形で、映画館ならではの上映方式をとるパターンもあります。いずれにしろ、映画館で複数回鑑賞するような熱心なファンに向けられていることが多いんです」(映画関係者)

 昨今の日本における年間映画興行収入ランキングを見るとシリーズ化されているアニメ作品がばかりで、日本の映画界は“アニメ頼み”と言われることも多い。だからこそ、ヒットアニメ映画のアンコール上映はドル箱企画となっているのだ。

「最近ではいわゆる“推し活”の一環として、同じ作品を複数回見ることもアニメファンの間ではごくごく当たり前になりつつある。つまりヒットしたアニメ作品であれば、推し活としてファンが再び劇場に足を運んでくれる可能性が高いということであり、新作映画を上映するよりも、確実な集客が見込めるわけです。ほかに話題になるような作品がない時期であれば、映画館としてもアニメのアンコール上映をやって空席を埋めたほうがよっぽど助かる」(同)

 ちなみに、最新の全国週末興行ランキング(2023年10月27日~10月29日)では、フジテレビ系ドラマの映画化『ミステリと言う勿れ』が1位、2位が『ONE PIECE FILM RED』となっている。ドラマの映画化作品もまた、アニメ作品同様に日本映画を支える存在となっている。

「現在の日本映画界では、シリーズもののアニメ作品が“もっともヒットが堅い”作品で、その次に堅いのはドラマの映画化作品です。そこに続くのが、人気マンガやアニメの実写化映画といったところですね。ドラマの映画版でもなく、マンガやアニメの実写版でもない、日本の実写映画が年間興行ランキングの上位にくるのはかなりのレアケースです」(同)

 アニメ作品も映画化されるドラマも、どちらも共通しているのが、公開前から相当数のファンが存在しているということだ。ドラマ関係者はこう話す。

「テレビ局にとっては、ドラマの放送だけで収益化するのは難しく、配信、映画化、グッズ展開でいかにして、収益を出していくかが重要となる。そんななか、TVerや各局の配信サービスの再生数を見ることで、視聴率だけではわからない“ファンの数”がある程度把握できるため、視聴者を購買行動に向かわせられる作品かどうかの見極めがしやすくなっている。つまり、よりヒットしやすいドラマの映画化ができるようになっていて、だからこそドラマの映画版が以前よりもヒットするという仕組みです。ヒットが確実視される作品ならば映画界のリソースもそこに集中させられるので、さらに盛り上がる。こういった流れがある中で、映画界におけるアニメ作品やドラマの映画化の存在感がどんどん増していくわけです」

 ファンの数や売上などの“実績”が重視され、映画化される作品が決まり、そしてそうした作品の上映館数が増え、アンコール上映も含め、公開期間も長くなっていく。その結果、“オリジナル”の実写映画作品の存在感がさらに薄まっていく傾向にある。

「アニメやドラマの映画版が日本の映画界を盛り上げているし、支えているのは間違いないものの、結果としてそのほかの実写映画が衰退しつつあるというのも事実。これこそが、いまの映画界が抱えている最大のジレンマと言えるでしょう。アニメのアンコール上映のように熱心なファンに依存する形の企画が増えると、さらにそのジレンマから抜け出せなくなっていきます。単純に集客のための企画としてはいいと思うのですが、もしもアニメのアンコール上映ばかりになっていったら、いま以上に“オリジナル”の実写映画を上映するスクリーンは減り、大ヒットする作品も出てこなくなっていく。日本映画の将来を考えると、少し不安が残る状況ですね」(前出・映画関係者)

 アニメやドラマの映画版にこそ観客が集まる状況はまだまだ続きそう。日本映画の未来はどうなっていくのだろうか──。

田井じゅん(エンタメウォッチャー)

1985年生まれ。神奈川県出身。専門学校在学中より、ミニコミ誌やフリーペーパーなどでライター活動を開始。一般企業への就職を経て、週刊誌の芸能記者に転身。アイドル業界や音楽業界を中心に、その裏側を取材中。

たいじゅん

最終更新:2023/11/06 08:00
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