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『ブギウギ』とジャニー喜多川の関係

NHK朝ドラが描かない笠置シヅ子の不都合な真実とタブーな実像【前編】

NHK朝ドラ『ブギウギ』が評判になっているが、昭和の人気歌手・笠置シヅ子がモデルと公言していながら、そのままでは放送できないエピソードもありそうだ。ほかにも人気を博した朝ドラモデルたちの実際の人生を調べてみると、驚きの真実が続々と……。
(初出:サイゾー2024年2月号『エンタメの新タブー』より)

NHK朝ドラが描かない笠置シヅ子の不都合な真実とタブーな実像【前編】の画像1
『ブギウギ』 放送:2023年後期 出演:趣里、草彅剛、柳葉敏郎、菊地凛子、水川あさみ ほか 脚本:足立紳、櫻井剛 演出:福井充広、二見大輔、泉並敬眞、鈴木航、盆子原誠 ほか (絵/河合 寛)

 NHK朝の連続テレビ小説『ブギウギ』が好調だ。11月24日に放送された第40回では、16.1%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)の平均世帯視聴率を記録。ヒロインを演じるのは水谷豊と伊藤蘭のひとり娘である趣里で、そのはつらつとした演技に朝から元気が出ると評判は上り調子だ。『ブギウギ』のヒロインの名前は「福来スズ子」だが、そのモデルは、「ブギの女王」として昭和の時代に一世を風靡した笠置シヅ子であることが、制作元のNHKからも明言されている。実際にドラマのスズ子の人生も現実のシヅ子をなぞるように展開していくようだが、あえて名前を変えているのは、あくまでモデルであり、事実をそのままドラマにしたわけではないという、NHK側のエクスキューズだと思われる。後述するように、モデルとなった人物を明らかにしながら、その名前を微妙に変える手法は、これまでの朝ドラでも、頻繁に行われてきた。

 実際、朝ドラが事実そのものかというと、決してそうではないのは明白で、そもそも大正時代や戦後の日本というのは、そのままドラマ化すると、とても朝ドラ枠では放映できない“ヤバい”要素が山盛りになってしまう。過去の文学作品の文庫本には「現代の観点からはふさわしくない表現が含まれています」といった注意書きが必ずといっていいほど付記されるように、さまざまな差別的な言葉が日常的に使われていたし、大半の男性はいつでもどこでもタバコを吸い放題。現代の観点からしてみればとんでもなく不衛生だったり、忠実に再現したらとてもではないがのんきに朝から視聴してなどいられないはずだ。

 今回のヒロインのモデルとなった笠置シヅ子にしても、調べてみると、とてもそのまま朝ドラでは放送できない話がいろいろと出てくるようで……。

草彅剛演じる作曲家の家で……

 まず、笠置シヅ子(1914~1985)の朝ドラでは放送できないエピソードとして、いま真っ先に挙げるべきなのは旧ジャニーズ事務所の創業者・ジャニー喜多川との関係だろう。

 松竹歌劇団(SKD)出身のスターとして、戦時中から活躍し、戦後「東京ブギウギ」で大ブレイクした笠置シヅ子(当時の芸名は笠置シズ子で、のちに改名)。その「東京ブギウギ」を作曲し、長年仕事上のパートナーだったのが、当時の国民的作曲家であった服部良一だった。笠置と服部は、1950年にアメリカ巡業に出かけているのだが、このとき通訳を務めたのが、ロサンゼルス出身のジャニー喜多川だったのである。

 これを機に喜多川は服部と親しくなり、その後来日すると、たびたび服部家に宿泊するようになった。

 その服部の次男が約70年前、8歳の頃から、喜多川よりたびたび性加害を受けていたと告白した服部吉次氏である。喜多川は、服部家に泊まりにくるたび、まだ幼い吉次氏に、決して許されない行為を働いていたのだ。

 ドラマ『ブギウギ』でその服部良一をモデルにした羽鳥善一という人物を演じるのは、くしくもかつてジャニーズ事務所に所属していた、元SMAPの草彅剛である。この人物関係をめぐって、NHKは喜多川をモデルとした人物も登場させるつもりだったが、性加害報道を受けて見送ったのではないかと臆測する報道もあった。いずれにせよ、シヅ子の仕事上のパートナーである服部良一の家で、夜な夜な少年に対する性加害が行われていたなどという事実を、到底朝ドラに盛り込むことはできないだろう。

 笠置シヅ子の朝ドラでは描けないであろうエピソードは、ほかにもある。シヅ子は、あの国民的歌手、美空ひばり(1937~1989)を嫌っていたという。

 少女歌手として11歳の頃から人気を博した美空は、シヅ子の物まねが評判になり、「東京ブギウギ」を歌って喝采を得ていた。これがシヅ子は気に入らなかったようなのである。

美空ひばりを嫌っていた

 ルポライター・竹中労(1928~1991)が書いた『完本 美空ひばり』(ちくま文庫)は、もともと65年に弘文堂より発売された、美空も笠置もまだまだ現役だった頃に書かれた本であるが、同書にはこのような記述がある。

「日劇公演『ラブ・パレード』で、ひばりは笠置シヅ子から『舞台で私の歌を歌ってはいけない』というクレームをつけられた。笠置にしてみれば、こましゃくれた小娘が自分そっくりの物真似をするのが腹にすえかねたのだろう。そういう心のせまい、意地の悪いところのある人であった。

私は、彼女が客からテープを投げられて歌の出だしのきっかけを外し、『アホらし、やり直すわ』と憤然と客席をにらみつけたのを見たことがある。芸熱心といえば熱心だが、思い上がりといえないこともない。」

 続く竹中の文章によると、シヅ子は50年には美空に対し、「いっさい服部良一作曲の歌を歌ってはならない」と、日本音楽著作権協会(JASRAC)を通じて言い渡したとして、服部の次のような談話も紹介している。

「笠置シヅ子という人は、強引でわがままな、他人を許さない人で、特にブギに関しては彼女が専門であり世に出したものでもあったので、強い愛着を持っていた。それが、ぼくの作品、つまりブギ禁止の事件となってあらわれたわけだ。笠置がなんとしてもゆずらず、まさか本人がひばりに直接いうわけにもいかないので、作曲者の私が代行した形となった。」

 竹中労は相当な美空びいきのため、割り引いて考える必要はありそうだが、同時代人の貴重な証言として、シヅ子の人柄を知る手がかりだといえるだろう。

後編はこちら

里中高志(ジャーナリスト)

フリージャーナリスト。精神保健福祉士。メンタルヘルスと宗教を得意分野とする。著書に『栗本薫と中島梓 世界最長の物語を書いた人』(早川書房)、『精神障害者枠で働く』(中央法規出版)、『触法精神障害者 医療観察法をめぐって』(中央公論新社)。

最終更新:2024/01/01 15:00
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