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スタンダップコメディアン・Saku Yanagawaとポピュラー音楽史研究の第一人者対談(前編)

朝ドラ「ブギウギ」の決定版本発売! Saku Yanagawaが語る近代の芸能と大衆文化

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(左)Saku Yanagawa氏(右)輪島裕介氏

 連続テレビ小説「ブギウギ」関連書の決定版『昭和ブギウギ:笠置シヅ子と服部良一のリズム音曲』NHK出版新書) 8月10日に発売された。

 ポピュラー音楽史研究の第一人者が、服部家で長年眠っていた楽譜草稿などの貴重資料を渉猟し、「ブギの女王」と「スウィングの申し子」コンビが近代の芸能に遺した決定的な業績を書き尽くした本書。

 その発売に合わせて、著者の近代音曲史研究家で大阪大学教授の輪島裕介氏と、学生時代に同氏の授業を受け、その内容が現在の自身の活動の基礎にあるというスタンダップコメディアン・Saku Yanagawa氏が対談した。

エンタメ産業の日米の違い

――まず輪島先生から本書の執筆経緯をご紹介いただけますでしょうか。

輪島:前著『踊る昭和歌謡 リズムからみる大衆音楽』(NHK出版新書)を出した直後から話はあったんですが、まあ基本は朝ドラありきの企画です(笑)。昨夏、朝ドラの発表があった日の夜に担当の編集者さんから執筆依頼のメールをもらって。僕の笠置シヅ子観は音楽学者・細川周平さんの研究や著作に影響を強く受けているので、最初は執筆にも迷いがあったというか、まだ先の仕事と思っていたんですけど。服部家の資料を実際に見られたことで思い切って書けました。

――その資料はボリューム的にはどれほどのものだったんですか?

輪島:600ページ以上です。服部良一本人が作ったスクラップなど、肉筆の書き込みも多く、国会図書館で見るのとは全く重みが違いました。直筆譜のデータも感動しました。スクラップを見ると、特に初期はラジオの仕事が非常に多い印象を受けましたね。これまでの学術研究などでは言及されにくかった部分です。

Saku:レコードや映画、舞台もラジオもやる脱領域ぶりは、服部良一の特徴ですよね。

輪島:アメリカの音楽産業のあり方を踏まえ、当時のエンタテインメントビジネスの広がりを体現した珍しい日本人だと思います。アメリカの場合は音楽出版社から枝分かれしていくんですが、日本はどうしても業界ごとの縦割になってしまうので。

Saku:エンタメ産業の日米の違いで言うと、エンタテイメント史の知識を持つパフォーマーがアメリカは日本より多いと感じます。そこは僕も輪島先生の授業を受けて培われた部分ですが、現在のパフォーマーとしての仕事にも活きていますね。

輪島:ありがたい話だね。

Saku:僕が受けた輪島先生の最初の授業テーマが、“セルフオリエンタリズム”だったのをよく覚えています。よく授業の導入で時事ネタを取り上げるんですが、一発目の題材がアヴリル・ラヴィーンの「ハロー・キティ」の“親日PV”でした。授業の冒頭でそのMVを流した後、欧米で成功を勝ち取るために自身のアジア性を強調してパフォーマンスしてきた歴史の授業が始まるという。

輪島:ステレオタイプな「日本らしさ」を強調する表現は、いわゆる「日本人」以外がやる場合でも日本国内ではわりと好意的に受けられるけど、むしろ日系アメリカ人やアジア系アメリカ人が抗議するというねじれがある、みたいな話ですね。

「日本語が上手すぎると、ありがたがられない」

Saku:ただ、アヴリル・ラヴィーンの「ハロー・キティ」くらい露骨だと、もう日本でも当時ほどウケない気がします。 僕がアメリカに住み始めた10年前の頃はけっこうセルフオリエンタリズムを実感する機会もありましたが、最近ではそれほどそうした時代の変化みたいなものは現地でヒシヒシと感じますね。

輪島:その潮目が変わったのは、いつ頃のことだろうね?

Saku:やはりトランプとSNSの影響が大きかったのかなと。ただ、今年もグウェン・ステファニーが「私は日本人」と発言し、「カルチュラルアプロープリエーション(文化の盗用)」と炎上しましたが、あれも日本国内ではおおむね、好意的に受け止められていたようでした。

輪島:それらって結局、誰がやるかと言ったら「白人」なんですよね。片言の日本語を話す白人は日本でももてはやされるけど、日本語が上手すぎると逆に、ありがたがられなくなる。

Saku:まあキャラの問題もあるしょうけど……と、デープ・スペクターさんにも言っときます(笑)。

輪島:Sakuくんが今年6月に出した『スタンダップコメディ入門:「笑い」で読み解くアメリカ文化史』(フィルムアート社)は、アメリカ大衆文化史としておもしろく読みました。僕の授業を聞いた人がパフォーマーになって、自分のアウトプットをしてくれるなんて、こんな嬉しいことはないです。

Saku:日本には膨大なアメリカ文化が流入しているのに、スタンダップコメディほど実態が乖離している芸能ってほかにないと思って書きました。

輪島:確かに言葉だけで笑わせるってすごく難しくて、「お笑いは翻訳不可能」みたいな話って、わりと言うよね。90年代あたりは日本のお笑いが一番進んでいると思い込んでいたような時期もあったし。

Saku:今はNetflixで、アメリカのものが中心ですが世界中のスタンダップコメディを字幕付きで見られるという環境はあるんですけど、文化的な背景がわからないと笑えないネタも多い。その橋渡し役がいません。

輪島:『スタンダップコメディ入門』は歴史のパートも非常に興味深かったです。僕の今回の本でも服部良一と笠置シヅ子の戦前のスウィングと、漫才が「しゃべくり」と「ボーイズ」のような音楽を取り入れてともに発展していったこととの関係を強調して書いているんですけど。

Saku:スタンダップコメディの成り立ちとか、ラジオという媒体が果たした役割とか、非常によく似ていますよね。

輪島:似ているというか、ほぼ同じなんじゃないかというくらい重なるね。

Saku:『昭和ブギウギ』を読んで、笠置シヅ子の生き方って当時のアメリカのスタンダップコメディアンみたいだなとも思ったりしました。

輪島:喋りが達者だったかは置いといて、やはり当時の“女芸人”のあり方が現れていますね。この時代のスイングバンドのちょっと、コミカルなリードシンガーって感じ。

Saku:だから、この時代って実は意外と今より日米のエンタテインメントが似通っていた時代なんだなと。

輪島:そもそも日本の大衆文化って、特に大都市のモダンなほうは日米開戦直前まではアメリカに全振りしていたしね。システムの変化としては、戦前戦後よりも関東大震災前後のほうが大きいですよね。震災前にあった東京の劇場や興行主がほぼ消滅したことで、関西の松竹や東宝が入ってくるという流れを辿るわけですから。

大衆文化を戦前と戦後で分断したものと見なすのは誤り?

輪島:あと、ラジオの普及も震災がきっかけ。やはり震災直後の流言蜚語などが問題視され、一種の情報統制じゃないですけど、信頼できる情報の重要性が増し、そこに外資系のレコード会社が参入して縦割りの業界システムも始まっていく。やはりシステムごと変わったのは関東大震災だと思います。

 その縦割りが戦時中にシャッフルされたり、戦時統合などで有象無象が淘汰されたり、というのもそれはそれで重要な出来事ですけど。基本的に戦前も戦後も大手の興行会社や映画会社は残り続けるし、音楽産業の偉い人たちの顔ぶれも全然変わっていない。制作物もあまり変わっていません。

Saku:そこで先生に伺いたかったのが、笠置シヅ子的な人って現代で例えると誰になると思われますか? もちろん、パチっとハマる人はいないと思うんですけど、今だと誰みたいな感じって説明するのが一番わかりやすいかなって。

輪島:やはり舞台の人間って気もするけど。そういう場自体が今あまりないですからね。

 案外、友近とか? でも、笠置シヅ子って友近ほど器用ではなかったと思います。個性はめちゃくちゃ強いけどストライクゾーンは広くない、というか。自分の中で笠置シヅ子的なものは、北島三郎とかの歌謡ショーに引き継がれているという見立てはあります。実演中心で芝居も歌もやってというところで。

Saku:そう考えると志村けんさんも、そういう舞台のエッセンスを取り入れたかったからずっと明治座で『志村魂』やっていたのかなと思います。

輪島:女性の芸人さんで、司会者になったというところだと上沼恵美子とか(笑)? 上沼さんも大阪のおばちゃんたちにとっての、ひとつの参照点みたいなところがありますからね。昔は歌もかなり歌ってましたし。

Saku:上沼さんか(笑)。上沼さんも現在のようなお立場になってから長いですけど、下の人が出てこないですね。

輪島:「海原やすよ ともこ」は大阪ではすごいですよ。“やすとも”は東京の悪口ばっかりいってるけど(笑)。

(わじま・ゆうすけ)
大阪大学大学院人文学研究科音楽学研究室教授。1974年石川県生まれ。専門はポピュラー音楽研究、近現代音曲史、アフロ・ブラジル音楽研究、非西洋地域における音楽の近代化・西洋化に関する批判的研究。著書に『踊る昭和歌謡 リズムからみる大衆音楽史』(NHK出版新書)など。『創られた「日本の心」神話 「演歌」をめぐる戦後大衆音楽史』(光文社新書)で第33回サントリー学芸賞、国際ポピュラー音楽学会賞を受賞。音楽史観の90度転回を目指し、危険思想を愉快に語る音楽学者。

伊藤綾(ライター)

1988年生まれ道東出身。いろんな識者にお話うかがったり、イベントお邪魔したりするのが好き。サイゾーやSPA!、マイナビニュース、キャリコネニュース等で執筆中。友人や知らない人と毎月1日に映画を観る会(@tsuitachiii)を開催

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いとうあや

最終更新:2023/09/25 15:58
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