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『さよならマエストロ』最終話 「奇をてらわない」という制約の中で

最終楽章 たくさんのありがとうとさよなら | TVer

 TBS日曜劇場『さよならマエストロ~父と私のアパッシオナート~』17日の放送分は最終話。今回はシューマンの「ライン」でした。ドイツを流れるライン川のラインですね。マエストロ(西島秀俊)にとって「希望」の曲だそうです。まだ何者でもなかったころ、「生きてていいんだ」と感じさせてくれた「朝の光」のような曲だそうです。

 振り返りましょう。

■最後まで信用できるドラマだった

 第1話の冒頭、マエストロが海外のオーケストラで指揮を執るシーンで、団員が楽器を構える瞬間の複雑な音がちゃんと挿入されていて、この作品は丁寧に作ろうとしている、信用できそうだとこのレビューに書きました。そのときに感じた信頼感は、結局最後まで失われることはありませんでした。

 廃団寸前の地方オケに天才指揮者がやってきて、オケを再生させていくというベタな筋立ても、特に奇をてらうこともなく、人物を掘り下げることでこのドラマなりの美点を生み出していました。

 というより、終わってみれば『さよならマエストロ』は「奇をてらわないこと」「ベタであり続けること」を自らに強く課していたように感じます。

 仲違いしていたコンダクターの父とバイオリニストの娘がいて、2人とも音楽を奏でることから離れている。そういう配置が最初にあったとすれば、ドラマの最後には2人が音楽への情熱を取り戻し、仲良しになり、父のタクトで娘がバイオリンを弾かなければならない。

 そんなドラマはちっとも革新的じゃないし、話題性だってない。第1話から、ネット上のメディアには「既視感しかない」「去年の日テレの『リバーサルオーケストラ』と同じ」「だから駄作」といった声が多く見られました。メディアはいつだってアバンギャルドやアナーキーを求めているし、ノスタルジックやメランコリックに飢えている。話題性こそがメディアのメシの種です。だから、この作品のような目新しい要素のない、旨味に尻尾を振らない作品を敵視することになる。

 一方で多くの視聴者にとって「ドラマを見る」という行為は生活でしかありません。生活は常に普遍的であり、生活の中にある悩みや人々の抱える澱(おり)なんて、たいていはベタなものです。そういう生活者と向き合い、実直に「回復」や「再生」の物語を描くことを、『さよならマエストロ』というドラマは選んだのだと思います。

 テレビ屋として番組を当てることより、ドラマ屋として物語を伝えることに知恵を絞り、労力を費やしている。日曜劇場というブランドを背負って、ドラマとはどうあるべきかというメッセージを力強く放ち続けていたと思います。

 まあ、最終回はあんまり細かく書くような感じじゃないですけど、いいドラマだったと思うんですよね。

 設定がベタだから簡単に見えますけど、情報の出し引きとか、シナリオ的にもすごく難しいことをやってたと思います。『さよなら』という言葉を冠したドラマが、最後にみんなで「さよなら」を言いながら、笑顔、笑顔のハッピーエンドで幕を閉じていく。

 脚本を生き物としてとらえたとき、「必然にたどりつく」のが生涯なんだろうなと感じたんです。そのときみんな笑顔だったら素敵だし、人の人生もそう、自分の必然を見つけて、そこにたどり着こうとするものなんだろうなと。

 そんな感じです。おわり。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

どらまっ子AKIちゃん

どらまっ子です。

最終更新:2024/03/18 17:00
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