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ラジオ批評「逆にラジオ」第6回

めくるめく複眼思考の、ひとりしゃべりキングダム『宮川賢のまつぼっくり王国』

 だが、複数の視点を持つというのは、単なる技術的な話ではない。自分ではない人間の視点を持つということは実質的には不可能であり、想像力を働かせることしかできない。だから宮川のひとりしゃべりには、彼自身の想像力が生み出した他者の視点が、容赦なくツッコミを入れてくる。いや、実際にはツッコミを入れる人はその場にいないので、ツッコミの言葉は入ってくるはずもないが、彼は明らかにツッコミや反対意見を的確に想定した上で話を先に展開させている。たとえば原発の話をするとき、福島にいる人とそれ以外の人という立場だけでなく、「福島以外の東北にいる人」の複雑な気持ちや、さらには反原発を声高に主張することで利権を追求する企業の思惑にまで想像の網を広げながら、さまざまな角度からの意見を自分の中でぶつけるようにして語っていく。そういったニュースを取り上げる際にも、社会情勢それ自体というよりは、そのニュースに反応したさまざまな人々を自分の中に想定し、彼らと真正面から向き合うように考えが語られる。また、ラジオの理想と現実について語る際には、世間の不景気、ラジオ局側の苦悩、リスナーの要望、パーソナリティーの理想、そしてスポンサー側の思惑に至るまで、各方面に想像をめぐらしながら多角的に考えを進めていく。

 もちろん、自らの本拠地である演劇論に関してもそうで、劇団主宰者としての目線だけでなく、作者、演者、観客、さらには過去未来などあらゆる立場から現状をあぶり出し、展望を見据えていく。そして重要なのは、それら複数視点の中には真面目なものもあれば皮肉やユーモアにあふれた不真面目なものもあるということで、だから真面目な話にも笑いの視点が容赦なく入ってくるし、逆に笑い話が突如として深刻なメッセージ性を帯びることもある。それによって話の深みが増し、ひとりしゃべりがいつの間にかエンタテインメントとして成立する。

 しかも、これだけの多様な視点が、5分程度の話の中で目まぐるしく立ち現れ、曲やリスナーからのメールを挟みつつ話題を変えながら、硬軟取り混ぜた3つ4つの話を繰り広げて30分があっという間に過ぎ去っていく。終わってみれば、まるで10人もの話を聴いたかのような聖徳太子的聴後感すら残るが、短時間の中に複数視点が混線することなく同居できているのは、間違いなく宮川というひとりの人間=パーソナリティーが話をしているからである。大人数で話をすれば豊かな議論になるとは限らないが、だからといってひとりの想像力に頼むのがよいかといえば、それはそのひとりの人間の想像力にかかっているとしかいえない。ラジオのひとりしゃべりとは、自由であると同時に危険なものでもあるが、宮川のような想像力にあふれたパーソナリティーにとって、それが絶好のシチュエーションであるのは間違いない。ここは目に見えぬ無数の声が宮川の中で響き合うことで生まれた、ひとりしゃべりの理想の王国である。
(文=井上智公<http://arsenal4.blog65.fc2.com/>)

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