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『統合失調症がやってきた』発売記念インタビュー

「コーヒーを押すと、ミルクティーが出てきた」10年ぶり復活のボキャ天芸人・松本ハウスが語る“統合失調症”のリアル

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――病院には定期的に通っていたんですよね?

加賀谷 はい、思春期精神科というところに通っていて、薬もドンドン増えていたんですが、それをちゃんと飲んでいなかったんですよ。「服薬コンプライアンス」っていうらしいんですけど、お医者さんから指示された用量用法を守らないで、「今日は調子がいいから大丈夫」とか、自分の判断で薬を減らしたりしていたんです。それが一番よくなかったですねぇ。

キック 結果的に僕が知った時には、いきなり「入院します」でしたから。しかも、加賀谷ひとりでは来られないんで、お母さんに連れられて来てたんですよ。

加賀谷 母親には「ボクちょっと調子悪いみたいなんだ」って連絡をしていたんですけど、後になって聞いたら「ここで私がなんとかしなかったら、取り返しのつかないことになる」と思っていたみたいです。だから「潤さん(加賀谷の本名)、もう入院しなさい」って。でも、ボクにはお笑い芸人しかないんですよ。17歳の時にお笑い芸人になって、それしかやったことがなかったんで、お笑い芸人・ハウス加賀谷じゃなくなったら、何者でもなくなっちゃうんです。それが怖くて怖くて仕方がないから「入院しないでなんとかする!」としがみついていて。結局、それでますます調子悪くなっちゃって、「こりゃもう入院するしかないな……」と。

――せっかくお笑いとして売れだした時に活動停止しなくちゃならないということで、キックさんとしてもキツかったんじゃないですか?

キック ちょっと前まで「か・が・や・でーす!」とかいってみんなを笑わせていた人間が、ここまで落ちちゃうのかっていうくらい落ちてたので、自分の心配どころじゃなかったですね。「はよ治して、戻ってこいよ!」なんて言葉はかけられなかったですもん。

加賀谷 症状が悪化していることによる落ち込みと、「これで終わりだ」という落ち込みとダブルの絶望がありましたから……。

キック だからボクも「お前がもし芸人やりたかったら、10年たってからでもいいから、やりたいって言いに来いよ」って言ったんですけど……本当に復活まで10年かかりました(笑)。

――その直後、精神科病院に入院するわけですが、ブームの最中だけに周りには思いっきり気付かれますよね。

加賀谷 入院した初日に「あっ、ハウス加賀谷だ!」って言われましたね。でも、「ボクはもうハウス加賀谷じゃないんです……」って言ったら、それ以降は全く言われなくなりました。

キック そこはみんな当事者なんで、察してくれたんでしょうね。

■ウワーン、またコンビやりたいんですぅ~

――その後、新薬と出会って症状が劇的に改善されたということですが、それまでの薬とそんなに違うもんなんですか?

加賀谷 全然違いましたね。自分の身体を覆っていた“膜”みたいなものがサーッと取れていくような……。それまでは何にも興味が持てなくて、ずーっと部屋に閉じこもって本だけを読んでいたんですけど、急にボクが元気になっていろんなことに興味を持ちだしたから、家族会議が開かれましたもん。「今度は躁になったんじゃないか!?」って。お母さんは「アナタには人間としての感情の機微がなくなってしまったと思っていたけど、それが戻ってきた!」と泣きださんばかりに喜んでいましたねぇ。

――ある意味、そこまで自分に合う薬と出会えたというのは運がよかったですよね。

加賀谷 出会うまでに5~6年はかかりましたけど、それでも早かったと思いますね。いろいろな薬を試しているうちに副作用で大変なことになってしまった人も、たくさん知っているので。

キック もちろん、加賀谷がこれだけ元気になっている薬でも合わない人には合わないですし、症状がひどくなって再入院した人もいるし。薬の効果というのは人によって千差万別なので、そこだけは気をつけてほしいですね。

――新しい薬と出会って元気になってからも、コンビ復活まで4~5年はかかっているわけですが、その間は何をしていたんですか?

加賀谷 もちろん、すぐにでもお笑いをやりたいという気持ちはあったんですが、自分でもとても芸人をやれるような状態じゃないことが分かっていたんで、まず体力をつけなきゃいけないなと。体重も105キロくらいありましたし。……ということで、毎日家の周りをグルグルと5~6時間歩き回ってました。

キック その界隈じゃ、絶対有名人になってたよ!

加賀谷 体力も戻ってきて、調子もよくなって……それでもなかなか「もう一回やりましょう」とは言えなかったですね。やっぱり、せっかくブームに乗っている時期なのに迷惑をかけたっていうのがすごいあるんで。

キック 僕の方も、コイツが入院する直前の状態を見ているんで、症状が悪化した原因となったお笑いを「もう一回やろう」とは言い出せなかったですね。もしまた悪くなったら、責任取れないじゃないですか。

加賀谷 そんな、お互いに言いたくても言い出せないという、甘酸っぱ~い時期をしばらく過ごしましたねぇ。

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