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特別インタビュー

元NMB48 木下百花 × プロレスラー 坂口征夫──それぞれのタトゥーとアイデンティティ

(撮影=川合穂波)

 医師免許なく客にタトゥーを施したとして、医師法違反の罪に問われた彫師の裁判は、2020年9月最高裁によって無罪が確定した。

 草野裁判長は、判決の補足意見として「タトゥーを身体に施すことは、古来我が国の習俗として行われてきたことである。(中略)タトゥーに美術的価値や一定の信条ないし情念を象徴する意義を認める者もおり、さらに昨今では、海外のスポーツ選手等の中にタトゥーを好む者がいる。タトゥーの施術に対する需要そのものを否定すべき理由はない」とも述べている。

 昨今なにかと賛否両論の議論を巻き起こす「タトゥー」だが、寛容・不寛容は世代によって異なるうえに、それを扱うメディアや業種によってもさまざまである。 

 ここでは、御法度な業界から一線を画す、アーティストの木下百花氏とプロレスラーの坂口征夫氏をお招きし、それぞれのタトゥー観について『TATTOO BURST』(コアマガジン)元編集長の川崎美穂が話を聞いた。年の差24歳、2人が人生のターニングポイントに選んだタトゥーと自分らしさとは何か──。

プロレスラーの道を断ち切るために入れた刺青

──坂口さんには、過去に『TATTOO BURST』というタトゥーの専門誌でインタビューをしています。そのときタトゥーを入れようと思った動機を「プロレスを辞める踏ん切りのためだった」と語られていたのが印象的で。あれから10年以上たちましたが、今まさに現役でプロレスのリングで闘っていらっしゃる。

坂口征夫(以下、坂口):時代が変わってきてるのは、すごい実感します。なんか不思議ですよね。もともと(プロレスラーへの道を)断ち切ろうと思って入れたものが、今では自分の武器になっている。30年かけて「これが坂口です」という、名刺代わりみたいなものになった。初めてタトゥーを入れた20歳のときは、専門誌もなかったし、まだネットが普及する前で。どこに彫師がいるのかわからなかったし、入れても人に見せることはしなかった。なによりプロレスのリングに上がることは絶対にないと思っていましたから。

木下百花(以下、木下):プロレスを断念するためにタトゥーを入れたっていうのは、えっ!? て感じで衝撃。格闘家の方って、普通にみんなタトゥー入れてるから。そこが今回の取材を受けるにあたって1番最初にびっくりしたとこでした。

坂口征夫(さかぐち・ゆきお):1973年7月26日生まれ、東京都出身。DDTプロレスリング所属。父は元プロレスラーの坂口征二、弟は俳優の坂口憲二。06年に総合格闘技のリングでデビュー。12年、プロレスラーデビュー。俳優としても映画『Pure Japanese』、WOWOWドラマ『TOKYO VICE』(共に22年)に出演している。

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 坂口の父はプロレス界のレジェンド、坂口征二である。父の背中を追うように、将来はプロレスラーとしての活躍が期待されていた。しかし、身体が小柄だったことも影響し、断念する。

 腕にタトゥーを入れることで自ら敷かれたレールから外れ、格闘技とは無縁の生活を送っていたが、転機が訪れたのは27歳のときだった。働いていた建設会社の上司に誘われ、近所の空手道場に通うことになる。空手を始めるにあたり、背中に『闘魂』の文字を刻んだ。坂口が一番好きな言葉だという。これは日本のプロレスの礎を築いた力道山が好んで使っていた言葉であり、その精神を受け継いだアントニオ猪木のキャッチフレーズでもある。自分との戦い、常に挑戦する精神、先達がこの二文字に込めた想いは、それぞれの生い立ちや人生航路をなぞると、とてつもなく大きくて、そして深い。

 そんな闘魂の導きなのか、生まれ持ったファイターとしての宿命なのか。空手の大会で2回目の出場にして優勝を果たすと、今度は総合格闘技団体パンクラスから声がかかった。プロのリングに上がるには相当な訓練と努力の積み重ねを要したが、年齢的には遅咲きともいえる33歳にして、ついにパンクラスでのプロデビューが決まる。

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坂口:リングに再起するにあたって、自分の背中を押してくれるようなものを入れたいと思って。それで背中一面に日本刀を。本来は鞘に入れるものなんだけど、常に闘える状態でいたいから、あえて鞘から抜いた。やっぱ俺はずっと攻撃していきたいから。なんだけど、のちに試合でKO負けしたとき「守りが足りねぇな」つって、鎧兜を足したんです。ただ、当時は俺の体に刺青が入っていることで、めちゃくちゃ叩かれましたね。

木下:そうなんですか。見た人がなんかアレルギー出ちゃうとか? それこそ背中とかだと、なんかこう、信念みたいなの感じますけどね。意味がすごい詰まってるようなイメージがあります。私、本当は、人から見えないところをビッシリ和彫りで埋めたかったんですよ。でも金額も時間もすごいかかるんで、どっちか悩んで、最終的に今のこのモチーフを選んだんです。

坂口:首のほうがファーストタトゥー? 

木下:そうです。

坂口:素晴らしくインパクトありますね!木下さんの手の水色も、こんなに発色の良いインクは初めて見たんで、感動しました。めちゃくちゃ綺麗。これも時代なんですかね。

木下:たしかに今っぽい色だと思います。このモジャモジャみたいな水色のモチーフは、自分で描いたデザインで、持ち込みして入れてもらいました。絡み合っている紺色のところは、同じタイプのものが足にも入ってるんですけど、タトゥーアーティストがその場のインスピレーションで考えたもの。これ全てハンドポーク(手彫り)なんです。ハンドポークはアホみたいに時間かかるので7~8時間ずっとチクチクやって。

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 ハンドポークとは、電動式のタトゥーマシンを使用せず、マシン用の針を使ってあえて手彫りでゆっくりと彫り進めるタトゥーイング法である。マシンの場合、1分間に50~3000回針が肌を突くが、ハンドポーキングは毎分100~150回程度。時間は要するが肌への当たりが柔らかく、ここ数年で世界的に人気が上昇している。

 日本にも手彫りの伝統技法があるが、どちらかといえば大きい面積を効率よく彫れるよう針の本数や組み方をセッティングすることが多く、一方のハンドポークは画材でいうところの面相筆のような用途に重宝し、小さなく細かな図案のオーダーに向いているのが特徴。どちらも19世紀に電気エネルギーが発明される以前から行われていた手法であるが、ハンドポークはここ数年で技術者が増えたこともあり、若い女性を中心に注目を集めている。

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坂口:色は綺麗に出る人と、出ない人がいて。俺が同じ水色のインクを入れても肌の色が違うから同じような発色はしない。だから、とてもよく似合ってると思います。

木下:最初は首にだけ入れてるとカッコいいなと思ったんですけど、やっぱり、なんか増やしちゃった。

坂口:俺も最初は腕にワンポイントを入れて、徐々に増やしていったんですよ。だからもともとは、ぽつんぽつんと点在してた。それを波とか桜とかでシレッと埋めて、最終的に全部ドッキングした感じ。

木下:そう、なんか空白が怖くなるって聞いたことあります。埋めたくなるって。和彫りは和彫りですごい綺麗だから、羨ましいって思うんだけど。それこそ自分はワンポイントを点々と入れていったら歯止め利かなくなっちゃう自信があるんで(笑)。だから侵食タイプにしたんです。

タトゥーへのアプローチは「かわいいから入れよう、みたいな」

木下百花(きのした・ももか):1997年2月6日生まれ、兵庫県出身。2010年9月にNMB48オープニングメンバーオーディションに合格。以降、17年9月までNMB48のメンバーとして活動。グループ卒業後はソロアーティストとして始動、22年2月には最新曲「天使になったら」をデジタルリリース。ライブ活動も積極的に行う。

──木下さんはそもそもタトゥーに対してどういうイメージを持っていましたか。

木下:NMBにいたときは、周りにタトゥー入れてる人はいなかったけど、偏見もなかった。でも腕にピアスを埋め込むマイクロダーマルをやったときに、スタッフから「ファンにもメンバーにもスタッフにも隠して活動するように」って言われたことがあって。その大人の言葉から「あ、体に何か傷がつくってそんなにダメなんや、人から見てマイナスなんや」みたいなことを感じたことがありました。結局は隠さずに活動しましたが(笑)。

 逆にプライベートの友人にはタトゥーを入れてる子、めっちゃ多いし、増えてます。しかもみんな、ほんとにノリで入れるんですよ。それこそもうフラッとスタジオに行って、遊戯王の『遊』だけ入れるわーって。なんでそれ入れたのって訊いたら「え?一生遊んでたいから」みたいな感じで。その子たちがタトゥーを入れてない人に対して、なんか言うかっていったら、全然そんなことないし。逆もそう。自分の周りでタトゥーの入ってない子が、タトゥー入ってる子に対して偏見はないし。そういう世界線で、わりかしずっと生きてるんで。

──実際に入れてみてどうでしたか。

木下:すっごいテンション上がりましたね! 自分に自信が持てたり、鏡を見てカッコいいとか、かわいいとか、自分を愛おしく思えることが大事だなって思うので。タトゥーは自分の気分を上げてくれるところがいいですね。それにやっぱ、映えるんで。見た目がというより、自分自身の存在が映えるようになる、みたいな感覚ですかね。あとは別に意識してないっていうか、常につけてるアクセサリーがあるぐらいの感じです。タトゥーを入れるまでの経緯の中で、積み重ねた気持ちはありますが、そこに確固たる信念があるわけでもなかったんですよね。かわいいから入れよう、みたいな。

──以前、テレビ番組『アウト×デラックス』(フジテレビ系)に出演されたときに「タトゥー入れて変わった?」との質問に「タトゥー入れて人生変わったって奴、めちゃくちゃ薄っぺらいと思いますよ」と答えたことが話題になりました。タトゥーを入れようと思ったきっかけは?

木下:入れたのは2年前、アイドルをやめて3年後。私は親に「勉強、どうせできへんやろうから」って言われて、幼少期から俳優養成所に行ってて、13歳でNMB48のメンバーになって、アイドルしかしたことがなかったから。アイドルやめた後、急に何していいかわかんなすぎて、もう路頭に迷うしかなくて「教祖になります」って口走ってたんです(笑)。そっから迷走の時期が始まっちゃって、でも自分が好きなものはずっと音楽とファッション、そこはブレずに変わらなかった。だったら音楽を自分で作ってみたらどうなるのかなと思って、知識ゼロから手探りで作詞作曲を始めました。

 でも音楽を作って1年ぐらい、またそこで音楽の迷走の時期があったんですけど、その後に自分のちゃんと好きな音楽を見つけられてたときに「ああ、これで大丈夫」と思っちゃって。すごい確信があったわけでもないんですけど、自分自身にすごい自信がついた。そのときの自分の自信の表れから、急にここ(首)に入れるっていう。テレビに出演することとか、考えてなかったんですよね。ただ、音楽で表現したかった。

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 アイドルグループNMB48の創設メンバーだった木下百花は、奇抜な派手髪やファッション、中性的な魅力を表現するなど、アイドルという大舞台で自身が持ちえる才能を存分に発揮し、2017年グループを卒業。奇をてらうキャラクターに思われがちだが、その媚びない姿勢が多くのファンを惹きつけ、今なお絶大な支持を得ている。

「タトゥーを入れて人生変わるか?」というような類の問いに対するアンサーは、人は外見だけでは中身まで判断できないということを、実はすでに作品として見事に昇華させている。世の中の矛盾や裏側にある物語を音楽とパフォーマンスで紡ぎ、新しい世界の見え方を提案してくれる、希有な表現者であり、クリエイターである。

 その最たる例が2021年に配信リリースされた『えっちなこと』のMVであり、その強みがより強調されたのが公開2週間でMVの再生回数が100万回を突破した最新シングル『悪い友達』ではないだろうか。

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──テレビに出た反響はいかがでしたか。

木下:かわいいっていう人と、すごい批判する人、両方いるのは当たり前なんですけど。一番記憶に残ってるのが、友達がデザインを考えてくれた喉のタトゥーを「お金なかったのかな」と言われたこと。

坂口:あー、筋彫りでやめたと思われたのか。世代による認識の違いでしょうね。

木下:それだと思います。まあ好みとか、好き嫌いはあると思うんですけど。タトゥーってこうじゃなきゃいけないっていう決まりはない自由な表現だし、感覚的なアートだから。デザインに対して他人がなんか言うのって、ほんとに野暮だなーと思ったりしましたね。偏見をもたれることは全然そんなに、受け入れてるんですけど。でも中には「私、あなたの親でも殺した?」ってくらいカンカンに怒ってくる人とかもいたけど、それに対して同じようにめちゃくちゃ怒っちゃったら、幼稚なケンカになるしかないんで。やっぱそこはね、なんかおかしいなーと思うけど、一回ぐっと飲み込んで。こっちがちゃんと理性を保って説明しないといけないんだと思う。ちょっと納得はできないですけど、そういうもんだよなーとか思って。

──否が応でも、ちょっと大人になっちゃいますね。

坂口:そういう反応も、これからゆっくりゆっくりと変わっていくんじゃないかな。きちんと仕事できてれば、それでいいっていうふうに。

木下:そういう傾向は徐々にあると思います。

坂口:俺も初めて総合格闘技の試合に出たときは、みんな俺のことまったく知らないじゃないですか。リングインした瞬間に肩からかけてたタオルをパッと取ったら、会場がすごいザワついて。普通なら「なんかスミ入ってる奴が出てきたな」くらいの反応だったのかもしれないけれど、うちの弟が役者として全盛期のときで。試合には勝ったんですけど、翌日の報道は勝敗よりも全部イレズミの話っす。

 一応弟には「ごめんねー」と謝っておきましたけど、弟は「ああ(笑)別に迷惑かけたわけでもないし。しょうがないっしょ」って。めんどくさいですよね。でもそれが世間のものの見方。総合格闘技なんて、勝ちゃ神様だし、負ければ糞。勝った負けたで叩かれるだけじゃなくて、弟の名前があって、親父の名前があって……。だから対戦相手以外に、観客との精神的な闘い、目に見えない世間との闘いもあった。まあ、真に受けなきゃよかったんですけど、やっぱ当時は真に受けちゃったんですよね。心も体もボロボロの状況になって。今考えると自分のメンタルがすごい弱かったと捉えることもできるのだけれど。そのときに腕のタトゥーを手首まで埋めたんですよ。そしたら心境の変化が訪れて。俺は俺で、これを背負って、満足できて、自分自身の糧になっている。なにを言われようと自分の生活や生き様から「闘い」ってものを取り除くことはできないんだ、ということに気づいた。そっからは人様の声を気にせずにいることも、自分との闘いだなって思うようになりました。

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