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2018年の日本映画を英国人プロデューサーが語る「今後は俳優もロイヤリティー契約を結ぶべき」

■才能ある俳優を生かすも殺すも事務所次第

──アダムさんが日本でプロデュースした『獣道』(17)でヒロインを演じた伊藤沙莉は、今や映画やテレビドラマに引っ張りだこ状態。助演した『寝ても覚めても』も評判がいいですね。

アダム 『寝ても覚めても』のキャストの中では、伊藤沙莉がいちばんよかった。伊藤沙莉は演技がうまいし、人間的にも好感が持てる。彼女自身も素晴しいけど、彼女のマネジャーや所属事務所もいい。でんでん、毎熊克己とか他にもいい役者がいるし、事務所が映画のことに理解がある。あと、『寝ても覚めても』を面白いと思った人は、ぜひ濱口竜介監督の過去の作品も観てほしい。『PASSION』(08)や『THE DEPTHS』(10)はもっといいから。観たら、きっと驚くと思う。

──アダムさんは前回のインタビューでも、日本は芸能事務所の力が強すぎることを問題点として挙げていました。事務所の力がいくら強くても、脚本の善し悪しを判断できないマネジャーだと俳優は伸びることができない。

アダム 俳優にいくら才能があっても、所属事務所がダメだといい作品に出会うことができないよね。ジャニーズや吉本興業はタレント数が多いから、マネジャーも大変だと思う。でも、事務所が所属タレントの舞台あいさつの際に写真撮影を禁じるのはどうかと思う。本人の判断に任せればいい。舞台あいさつはSNSなどで話題が広まるから、すごくいい宣伝になる。もったいないよ。

──2018年は白石和彌監督の活躍も印象に残ります。

アダム 今、日本でいちばんいい監督だよね。『凶悪』(13)のときから才能があることは分かっていたけど、年々レベルアップしている。東映で全国公開された『孤狼の血』もよかったし、『止められるか、俺たちを』はすごくよかった。『止められるか、俺たちを』は若松孝二(井浦新)を主人公にしたら、よくある伝記映画になっていたし、若松孝二のファンしか興味を持たない作品になっていたと思うけど、若い女性助監督(門脇麦)の視点から描いたことで、若松孝二のことを知らない人でも楽しめる作品になっていた。こういう発想を出来る白石監督はすごくいい。日本ではフレディー・マーキュリーの生涯を描いた『ボヘミアン・ラプソディー』が大ヒットしているけど、海外ではあの映画は評価がそれほど高くない。英国人はクイーンに関するエピソードたくさん知っているから、映画を観ても驚きがない。俺は『止められるか、俺たちを』のほうが面白いと思った。

白石和彌監督が師匠・若松孝二への惜別の念を込めたバックステージもの『止められるか、俺たちを』(参照記事)。(c)2018若松プロダクション

■日本の監督は、作品を厳選したほうがいい

──アダムさん的に気になった日本映画は?

アダム 俺が今年いちばん好きだったのは、『ドブ川番外地』。渡邊安悟監督が大阪芸術大学の卒業制作として撮った作品。映画祭での上映だけだったから、観た人は少ないと思う。あと、村上春樹原作の『ハナレイ・ベイ』も意外とよかった。松永大司監督は面白い映画を撮る人。吉田恵輔監督はオリジナル作『犬猿』がよかった。吉田監督の『純喫茶磯辺』(08)や漫画原作の『ヒメアノ~ル』(16)も面白かったけど、『愛しのアイリーン』の後半はやりすぎだと思う。武正晴監督の『銃』はオシャレだし、見やすかった。武監督みたいにマジメなエンタテインメント作品を撮れる監督は日本では少ないと思う。

──是枝裕和監督の『万引き家族』はどうでしたか。

アダム 『万引き家族』は観てない。是枝監督や河瀬直美監督は海外配給がすでにしっかり付いているから、俺が出る幕じゃない。福田雄一監督の『銀魂2 掟は破るためにこそある』は機内で観たよ。俺は漫画を全然読まないから分からないけど、原作漫画をそのまま実写化しているんでしょ? 漫画やアニメが好きな人は実写映画を観ないけど、福田監督の演出だったら抵抗なく観られるのかもしれない。逆に実写映画が好きな人は興味を持たないと思うけど。

──日本映画を愛するあまり、海外配給だけでなく日本で映画をプロデュースするようになったアダムさんですが、今の日本映画の置かれた状況をどう感じていますか?

アダム 日本映画は年間600本も公開されている。いくらなんでも製作本数が多すぎると思う。英国では年間40本、フランスでは80本、ドイツでは50本ぐらい。製作本数は絞られている。もちろんつまらない作品もあるけど、面白い作品に当たる確率は50%くらいはある。日本映画を俺は年間200本くらい観ているけど、面白いと思う映画は20~30本くらい。確率は10~15%。たまにしか映画館に行かない人が、つまらない日本映画に当たってしまう確率が高い。ギャラが安い分、たくさん映画を撮る監督がいるけど、それも問題。撮る映画はもっと選んだほうがいいと思う。お金を稼ぐために撮るのなら、テレビドラマを撮ればいい。テレビドラマまでは海外の人は観ないけど、映画は海外でも観られるから、自分のクオリティーを下げるようなことは避けたほうがいい。日本は評論家が厳しいことを言わないのもダメ。あと映画の配給会社や宣伝スタッフは試写やサンプル映像で済ませるのではなく、お金を払って劇場で映画を観るべき。そうしないと、どんなお客さんが来て、どんなシーンで盛り上がっているのか分からないよ。

──2019年はアダムさんがプロデュースした『ばるぼら』の公開が楽しみです。

アダム 俺、1980年代にデビューした日本の監督たちが好き。80年代は塚本晋也、石井岳龍、山本政志みたいな個性的な監督がいっぱい出てきた。彼らの撮った作品にはパッションがあった。中でも手塚眞監督の『星くず兄弟の伝説』(85)は大好き。それで手塚監督に頼まれて、『ばるぼら』をプロデュースした。撮影もポスプロも終わり、あとは国内での配給が決まるのを待っているところ。これが難しくて、なかなか決まらない(苦笑)。ばるぼら役の二階堂ふみはクレバーだし、英語も話せるから、海外でも充分活躍できると思うよ。2019年は1月から『カメ止め』の英国公開が始まるし、俺もがんばるしかないよ。
(取材・文=長野辰次)

●アダム・トレル
1982年英国ロンドン生まれ。22歳で映画配給会社「Third Window Films」を設立。中島哲也監督の『下妻物語』(04)や園子温監督の『愛のむきだし』(08)などの海外配給を手掛けた。資金集めが難航した園監督の『希望の国』(12)に共同プロデューサーとして参加。2014年より日本での映画製作を始め、藤田容介監督の『福福荘の福ちゃん』(14)、内田英治監督の『下衆の愛』(16)と『獣道』(17)をプロデュースしている。最新プロデュース作である手塚眞監督の『ばるぼら』が公開待機中。

最終更新:2018/12/26 18:54
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