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萱野稔人と巡る超・人間学

萱野稔人と巡る【超・人間学】人間の本性としての暴力と協力(前編)

文=構成・橋富政彦

写真/永峰拓也

――人間はどこから来たのか 人間は何者か 人間はどこに行くのか――。最先端の知見を有する学識者と“人間”について語り合う。

今月のゲスト
川合伸幸[名古屋大学情報学研究科教授]

人は他者と協力し合って社会を築き、文明を発展させてきた。その一方で、人類の歴史には凄惨な暴力も――。はたして、人間の本性とは? 比較認知科学の研究者・川合伸幸氏と語り合う。

◇ ◇ ◇

萱野 私はこれまで、人間の社会の中で暴力がどのような役割を果たしてきたのか、という問題を探求してきました。その問題を突き詰めると「人間にとって暴力とは何か」という根源的な問いに行き着かざるを得ません。その問いにとって、川合さんのご著書『ヒトの本性 なぜ殺し、なぜ助け合うのか』(講談社現代新書)はとても示唆に富む書物でした。果たして人間は本性的に暴力的な存在なのかどうか。まずはこの問いに対する川合さんのご意見をずばり聞かせてください。

川合 まず暴力の定義ですが、ここでは「人間が人間に対して行う攻撃」としていいでしょうか。人間は雑食性でずっと動物を狩り、その肉を食べてきたので、それを暴力ととらえると、人間の本質としての暴力の意味は変わってきます。

萱野 ほかの動物を食料のために狩るといった行為は、ここでの議論から除外しましょう。ここでは人間が人間に対して行使してきた暴力について考えることで、人間の本性について迫っていきたいと思います。

原始社会に暴力はなかった!?

川合 これまでに発見されたもっとも古い“殺人”の証拠は、スペインの洞窟から出土したホモ属の頭骨で、約43万年前のものです。その頭骨に残された大きな傷痕が、他人から尖った武器で攻撃されたことによる致命傷になったことが2015年の研究で判明しました。チンパンジーとの共通祖先から分岐して600万年以上になる人類の歴史を見れば、約43万年前というのはごく最近といえます。つまり、人類はかなりの長期間にわたって、ほとんど殺人をしてこなかった。ホモ属だけを考えても200~100万年前に出現していますから、これらを踏まえると、人類はそもそも暴力的な存在ではないと推察できると思います。

萱野 現生人類である私たちホモ・サピエンスの歴史を見た場合はどうでしょうか?

川合 ホモ・サピエンスは15~20万年前ぐらいに地球に出現しましたが、集団同士の戦闘のような規模の大きい暴力が出てきたのは、狩猟採集社会から農耕社会に移行してからだと考えられます。つまり、定住化が始まって富の集積ができるようになり、それを奪い合う形で暴力が発生した。農耕社会への移行は1万2000年前ぐらいとされていますから、ホモ・サピエンスに限っても歴史的には暴力の少ない期間が圧倒的に長かったのではないでしょうか。

萱野 人類が狩猟採集をしていた時代には暴力がほとんどなく、組織化された集団的な暴力は人類が農耕社会へと移行して以降に始まったということですね。ただ、いわゆる未開社会を対象にした人類学のフィールドワークでは、部族同士の抗争などの激しい暴力が多く見られることから、狩猟採集社会も暴力的だったのではないかという意見もあります。

川合 それに関しては、現代の未開社会の多くはある程度の富の集積があり、完全な狩猟採集生活をしているわけではないということがいえると思います。毎日食べるものを探し歩いて定住をしていないような状況では、誰かを襲っても基本的に得るものはなく、逆に反撃されて自分が殺される可能性もあります。そう考えると暴力のコストは非常に高く、ほとんどメリットもないため、大規模な暴力は起こらないでしょう。

萱野 定住化が始まる以前の人類社会には、いわゆるテリトリーの観念もなかったでしょうから、たとえほかの集団と遭遇することがあっても、争って犠牲を払うよりは単純にそこから離れて距離を取るほうが合理的だったのかもしれません。それに対し、農耕社会に移って人類が定住化するようになると、人々の間にテリトリーの観念が生まれ、富の集積もなされるようになる。そうなると、テリトリーや富を守ったり奪ったりすることに合理性が出てきますから、守る側にとっても奪う側にとっても暴力を集団的に行使する必要性が生じていった。そうした図式ですね。

 ではその場合、狩猟採集社会ではたまたま人類は暴力を組織的に行使する必要がなかっただけで、もともと人間には暴力を行使することへの強い傾向性が潜在的にあったというふうにも考えられるのですが、その点はどう考えたらいいでしょうか? つまり人類は、暴力を行使するメリットがない環境ではたまたま暴力を回避しているだけで、一定の条件がそろえば暴力性を発現させてしまうとも考えられるのではないでしょうか?

川合 人間が人間に対する強い暴力的な傾向を潜在的にでも持っているようなことはないと考えています。人間は言語や文化、文明を持ち、ほかの動物とはまったく違う社会に暮らしていますが、それでも基本的にはやはり“動物”です。そして、動物はほとんど同種で殺し合いをしないんですね。ケンカですら大抵は儀式化されていて、実際に激しい争いを起こすのはまれといえます。もちろん、獰猛な動物はいっぱいいます。

 たとえばライオンは戦う相手をひと噛みで殺せるような力を持っています。しかし、そういった力を持っているからといって、ライオンが本質的に暴力的な傾向を持っているということにはなりません。同種に対する暴力への傾向性を持っていると、必然的にお互いに殺し合うことなり、そもそも種として存続ができないんです。ひょっとしたら絶滅した他のホモ属の中にはそうした暴力的な傾向性を持っている種もいたかもしれませんが、ホモ・サピエンスにはそうした傾向がないと考えるほうが自然です。もちろん、暴力性や攻撃性がまったくなかったというわけではなく、環境の変化によってそれが増幅されてきたというべきでしょう。

萱野 遺伝子的に人間にもっとも近い動物であるチンパンジーは非常に暴力的な動物であるといわれていますよね。メスの奪い合いで激しいケンカをしたり、ほかのグループと戦争のような殺し合いをしたりすることで知られています。こうしたチンパンジーの存在を考えると、動物とのアナロジーでいえば、人間も系統的に暴力的な性質を持っていると考えることはできないでしょうか? もちろん、他方でボノボのように、チンパンジーと同じように遺伝子的にヒトと近縁でありながら、争いをほとんどしない平和な動物もいるわけですが。

川合 チンパンジーとボノボの系統が分岐したのが300万年ぐらい前だといわれており、これは人類がチンパンジーとの共通祖先から分岐したずっと後です。もし、チンパンジーとボノボの両方が暴力的だったら、この系統がもともと暴力的な傾向を持っていたと考えることもできますが、おっしゃる通りボノボは非常に融和的な性質なので、そうはいいきれません。実はほかの霊長類と比べてみても、チンパンジーはちょっと極端に暴力的なところがあるんですね。これはチンパンジーの暮らしに根ざしたところに原因があるのかな、と。ただ、それでも縄張りを荒らされるとか、よっぽどのことがないと、ひどい暴力は起こりません。

萱野 人間を動物として位置づけるなら、暴力的な傾向を持った存在とはなかなか考えにくいということですね。

川合 人間は基本的に集団で行動しないと生きていけない生き物です。他者に対して攻撃的であるよりも、むしろ協力し合うことで進化してきたといえます。

萱野 これはひとつの仮説ではあるんですが、人類が土地を占有するようになったことが、人類の暴力性に大きな影響を与えた可能性はありますよね。農耕にはできるだけ肥沃な土地が必要になりますが、肥沃な土地はそれほど多くはありません。その点で土地の占有は排他性がとても強いものです。どこかの集団が肥沃な土地を占有していたら、それを奪うことなしに自分のものにすることはできませんし、占有しているほうにしたら、それを武力で守る必要がある。こうした土地の占有と暴力との結びつきが、人類社会に大きな転換をもたらしたといえるのではないでしょうか?

川合 確かに、人類は縄張りを持つようになってから暴力的になったといえるかもしれません。狩猟採集民は縄張りを持たず、移動しながら食べものを探し、なくなったらまた次の土地へ移動していくだけです。それが、農耕をするようになって「ここが自分たちの縄張りだ」と意識するようになり、侵入してくる者を排除するようになった。その排除が暴力の激化につながっていった可能性はあるでしょう。

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