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英国王室問題を叩く日本のワイドショーは、なぜ皇室の“予算組み”を論じないのか?

英国王室と違い、皇室の予算はすべて国家予算

 英国王室の公式ウェブサイトには「王室財政は、曖昧さと秘密主義で隠されることで、王政はときにお金のかかる制度だと述べられてきました。しかし、現実には王室は公金をできるだけ賢く、効果的に費やされるよう、そして王室財政をできる限り透明で理解されるようにすることを約束しています」と書かれている。

 実際に、英国王室の財産や収入はかなりオープンにされている。

 英国王室は多くの資産を保有している。例えば、クラウン・エステート社(Crown Estate社)は英国王室直属の不動産管理会社で、ロンドン中心部の「リージェント・ストリート」で貸店舗などを行っている。競馬のヨーロッパ3大レースの1つが開催されるアスコット競馬場も王室の所有だ。王室はアスコット競馬場のあるアスコット地方に10万ヘクタール(ほぼ青森県と同じ広さ)の土地を所有している。この他にも、王室領のマン島など多くの不動産を所有している。また、王室御用達ブランドなどとの契約金といった収入もある。

 クラウン・エステート社は、国内で143億ポンド(約2兆円)にものぼる不動産事業を行っているが、その収入利益は国庫に入れられ、収入の中の約15%が王室助成金として王室に支払われている。

 だが、これらの国有財産を除いても、エリザベス女王は膨大な個人財産を所有している。中でも、父親のジョージ6世国王から受け継いだランカスター公領から多くの収入を得ているのだ。英国王室の公式ウェブサイトには、「13世紀に創設されたランカスター公領は、ランカスター公爵の名で、王室のためのトラストとして保有されている土地、不動産、資産の独特なポートフォリオ」とされており、約1万8500ヘクタールの土地と、商業用、農業用、住居用の不動産で構成されている。2011年4月の米国フォーブス誌はエリザベス女王の個人資産を5億ドル(約550億円)と推計している。これらから得られる収入は、エリザベス女王が自由に使えるわけだが、そのほとんどは宮殿の修復費や王室で働く人たちの給与に使われている。

 チャールズ皇太子(コーンウォール公爵)も個人財産としてコーンウォール公領を所有しており、テレビ番組「CNN Money」では2018年の公領からの収入を2800万ドル(約30億8000万円)と報じており、チャールズ皇太子のウェブサイトには、「ウィリアム王子とキャサリン妃、ヘンリー王子とメーガン妃の公務活動は、コーンウォール公領からの収入を使用し、公務旅行や財産管理の補助には、女王の王室助成金の資金援助を受けている」としている。

 このように英国王室の場合、公費に頼っている割合は非常に小さい。一方では、イギリス国民の中には、エリザベス女王やチャールズ皇太子の領地も国家(国民)の財産であり、そこから得られる収入を公費だとする意見が多いのも確かだ。しかし、国家予算の中から王室に使われている公費が少ないのも、また事実でもある。

 ワイドショーなどで英国王室の問題に安易なコメントするコメンテーターたちは、こうした事実を知っているのだろうか。筆者にとって何よりも不可思議なのは、これらのコメンテーターが他国の王室についてはコメントするのに、日本の皇室については一切触れないことだ。

 英国王室と違い、皇室の予算はすべて国家予算で賄われている。ヘンリー王子夫妻の公費を問題にするのであれば、皇室に使われる公費については何故言及しないのだろうか。

 2009年に財務省が公表した皇居の資産価値は、2146億4487万円となっている。皇居だけで2000億円以上の資産価値がある。これを実際の土地の売買価格に引き直せば、おそらく軽く10兆円を超えるのではないか。この他にも、赤坂御用地、那須御用邸、葉山御用邸等など、皇室も多くの資産を保有している。

 一方で、2020年度の予算概算要求で宮内庁の要求額は、皇室関連に使われる皇室費と宮内庁費を合わせて215億2400万円。これが国家予算から使われている。確かに、皇室財産は憲法上、国に属するものとされており、天皇家の個人財産ではない。だか、もし皇室財産を活用することにより、皇室が国の予算に頼らずに運営していけるとすれば、いかがだろうか。

 皇室は宮内庁を通して、国家予算により運営されていることで、天皇の発言ですらも時の首相や政権に配慮している面があり、閉鎖性も強い。それに比べ、英国王室は非常にオープンで親しみやすく、人気が高い。発言も、首相や政権を気にすることなく、自由に行われている。

「令和」という新しい時代の中で、新しい皇族のあり方を考えるべきではないか。英国王室の今回の問題が、日本の皇室のあり方に“一石を投じる”ものとなることを期待したいのだが。

鷲尾香一(経済ジャーナリスト)

経済ジャーナリスト。元ロイター通信の編集委員。外国為替、債券、短期金融、株式の各市場を担当後、財務省、経済産業省、国土交通省、金融庁、検察庁、日本銀行、東京証券取引所などを担当。マクロ経済政策から企業ニュース、政治問題から社会問題まで様々な分野で取材・執筆活動を行っている。「Forsight」「現代ビジネス」「J-CAST」「週刊金曜日」「楽待不動産投資新聞」ほかで執筆中。著書に「企業買収―会社はこうして乗っ取られる 」(新潮OH!文庫)。

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最終更新:2020/01/20 09:23
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