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ラップと映画の禁忌

スラング、コカイン、大麻栽培まで…ラッパーの“禁忌”な生き様、SEEDAが語る映画『花と雨』

写真/cherry chill will

――SEEDAが2006年にリリースした傑作アルバム『花と雨』を原案とした同タイトルの映画が封切りとなった。ドラッグディールの細かな描写から、ヒップホップムービーへのリスペクトまで、彼のリアルな生き様が映像として大成した。

 誤解を招く表現かもしれないが、自他共に認めるSEEDAの珠玉の名作『花と雨』を映像化することは、一種のタブーなのかもしれない。極めてパーソナルな作品でありながら、嘘偽りなく綴られたリアルなリリック、すでに腕利きであったトラックメイカーのBACHLOGICが全編のプロデュースを担ったことも相まって、当時の日本語ラップ・シーンのクオリティを底上げする揺るぎなき起爆剤となったのは、いまだ記憶に新しい。

 ラッパーにありがちな「生まれ育った環境が不遇」でなかったとはいえ、ドラッグディールというイリーガルな仕事でメイクマネーする行為、最愛の姉の死を経て、ラップで成功したいと願うひとりのラッパーの物語が公開となった今、リリースから14年の歳月を経てSEEDAは何を思うのか――。

◇ ◇ ◇

ヒップホップのカルチャーに精通していないとわかりづらい描写もあるが、どこか長編のミュージックビデオを観ているかのようにまとめあげられているのも特徴だ。

――『花と雨』を映像化しようと思った経緯から教えてください。

SEEDA 何年も前から『花と雨』のムービーを撮りたかったんですよ。僕の世代はディプロマッツ【編註:アメリカのラッパー、キャムロンやジム・ジョーンズ、ジュエルズ・サンタナを擁するヒップホップ・クルー】や50セントとかの影響が強いんで、「ラッパーが映画を制作する」というのがキャリアにおける夢のひとつだった。でも、(映画を)作るお金もなければ、自分の思い描く映像や描写を形にしてくれるようなクリエイターが周りにいなかったんです。それからだいぶ時間が経って、土屋(貴史)監督の作品と出会い、「この監督にお願いしたら自分の理想に近い作品を作れるかもしれない」と思って、そこから具現化していこうと思ったのがきっかけですね。

――SEEDAは音楽家として成功しているものの、映画を作るには莫大な予算が必要になるわけで、その製作資金というのは?

SEEDA 10年以上前に藤田(晋)社長(※株式会社サイバーエージェント代表取締役)に「日本のヒップホップのためになることがあれば、一度だけなら出資したい」と言ってもらえていたので、映像化の話をしたところ快くOKしてくれたんです。本当、感謝してます。それで自分はエグゼクティブ・プロデューサーという立場で映画の制作に携わることになりました。

――日本にはまだ「ヒップホップ映画」と呼べる作品が少ない中で、描写に関して意識したことや腐心したこととは?

SEEDA 監督と話したのは『ムーンライト』【編註:黒人のゲイの少年の成長を描いたアカデミー賞受賞作。16年公開】のような世界観をもった映像にしようという意見が一致しました。脚本に関しては、脚本家たちから10数回にわたる聞き取り取材を受けて、「もっとハードな内容のトピックはなかったか?」とか、ディテールなども含めて完成させていった形です。脚本は物語として優れた内容になったんですけど、いざそれを映像に落とし込む作業は、本当に苦労しましたね。実際に映像にはできなかった話もあったくらいなので。

 描写する上で意識したのは、普通の人が見たらなんとも思わないようなシーンであっても、僕のことを知っている人間、もしくはヒップホップやストリートのカルチャーを理解している人間が観たときに、「ああ、わかってないな」と思われることだけは避けたかった。例えば、コカインの使い方がおかしい、そんなスラングは使わない、ジョイントがタバコにしか見えない、登場人物の名前は実名じゃないけど、ディスリスペクトにならないような役名に差し替えたりとか。正直、プロデューサーと険悪になる場面もありましたけど、映画の制作は多くの人がかかわっているし、自分のエゴだけを押しつけるのもよくないと思い、7:3で納得した部分もあります。

――実際に主演の笠松将さんは「親切な映画ではないかもしれません」というコメントをし、監督も「一般のニーズに合わせて映画を作る意味はない」と語っています。

SEEDA 僕が生きてきたことを映像化したら、それは親切な映像にはなりにくいかもしれませんよね。なので極論を言ってしまえば、オチなんてなくてもよくて、映画を見終わったときに何かを感じてもらえれば、それでいいんです。

――劇中では大麻の栽培をはじめ、幻覚に襲われる、ドラッグディールに手を染めて逮捕される、そして実姉の死なども描かれていますが、SEEDAがこだわったディテール含め、どこまでが実話に基づいた話なんでしょうか?

SEEDA すべてが本当ではない。誇張している描写もあれば、抑えている描写もあるので、“Based on a True Story”という感じですね。例えば、レコード会社のスタッフと揉める描写が出てきますけど、実際にすげえ揉めましたから。そこの描写は……だいぶ抑えてます。ただ、当時の僕が「右も左もわからない不満の多い若者だった」ということだけは伝わると思います(笑)。それを主演の笠松さんは、僕と身長も顔もまったく違うのに、最高の演技をしてくれました。

――笠松さんのインタビュー(こちらの記事)でも伝えたんですが、当時の「触れただけで激怒しそうなSEEDA」を見事に再現しているなと感じました。

SEEDA そこが笠松さんが僕の役を演じた大きな理由だったと思いますね。また、制作が進んでいく上で、姉の役を演じてくれた大西礼芳さんの演技にはとても救われたんですよね。実の姉について声をかけてくれたこともうれしかったです。彼女が出てくるすべてのシーンが秀逸だから、僕はこの映画に納得できました。

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