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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.574

路上生活者の肉体言語が街をステージに変える! 表現手段を持つ喜び『ダンシングホームレス』

路上生活者たちが背負っているものとは?

主宰者のアオキ裕キさん。「他人に危害を加えない」以外に決まり事はない。練習や公演に参加するかどうかは、各メンバーのその日の気分次第。

 映画『ダンシングホームレス』では、ソケリッサのメンバーの路上生活の様子もカメラで追っている。メンバーそれぞれにお気に入りの場所があるが、当然ながら路上での寝泊まりは夏は蒸し暑く、冬は恐ろしく寒い。昼間は「ビッグイシュー」などを販売し、ソケリッサの公演が近くと、週1ペースでメンバーは集まり、練習に励むことになる。一度の練習時間は3時間。そのうち1時間はじっくりとストレッチを行う。長年の路上生活で体が硬くなっているため、充分に体を解きほぐす必要があるそうだ。

 ソケリッサらしいのは、この練習は強制ではないということ。気分が進まずに練習を休んでも、アオキさんから怒られることはない。そもそも、メンバーのほとんどが携帯電話を持っていないか、持ってもすぐに不通になるため、連絡のしようがない。練習はおろか、公演当日に現れるかどうかさえ分からない。すべては各メンバーの「踊りたい」という正直な気持ちに委ねられている。社会のルールに縛られない生き方を選択した彼らに、踊りを強要することは本末転倒になってしまうからだ。アオキさんは言う。「社会のルールが正しいですか?」

 ネット上でソケリッサのことを知り、3年間にわたってカメラを回し続けたのは、NHK Eテレの人気番組『ふるカフェ系 ハルさんの休日』などを手掛けてきた三浦渉監督。本作が初の長編ドキュメンタリー作品となる。ソケリッサのメンバーとの付き合いを重ねるうちに、三浦監督は彼らがなぜ路上生活者になったのかも知ることになる。

 西さんはもともとダンスによる肉体表現を極めたいという夢を持っていたが、両親は堅実な暮らしを求めた。西さんの気持ちは理解されず、親子の縁を切られた。以来、実家に帰ることなく、両親が亡くなったことは後から知ったそうだ。他のメンバーも、親からの暴力、家族間の不和などの事情があって、路上での生活を余儀なくされた。

三浦監督「毎日の仕事が嫌になったこと、ありませんか? 僕は思うように仕事ができず、悩んでいた時期がありました。学生時代の友人も同じで、ビルから飛び降りたいという気持ちになったこともあったそうです。僕自身がいつ路上生活するようになっても、おかしくなかった。僕と彼らとの違いは何だろうと考えたんですが、それは家族の存在でした。家族には心配かけたくないなと思いましたし、僕が最悪の事態に陥ったときは親が手を差し伸べてくれたと思います。でも、彼らの場合は心配してくれる親がいなかったり、家族との不仲で家庭内に居場所がなかった。その違いは大きいと思います。西さんを取材する際に、夏と冬、それぞれひと晩一緒に過ごしたんですが、予想以上につらかった。1時間おきに警備員が巡回するので、熟睡することができませんし、冬の路面は恐ろしく冷たい。路上生活するようになると、そこから抜け出すのは容易ではないことも実感しました。でも、西さんたちは絶対に弱音は吐かない。暑いとか寒いとか、口にしません。同情されることを嫌うんです」

 一見すると気楽そうに映る路上生活だが、彼らは目には見えないものを背負って生きている。そのずっと背負ってきたものを、一時的であれ解き放つことができる場がソケリッサだった。ダンスパフォーマンスという表現手法を持つことによって、言葉にはならない感情を解放する。そして、アオキさんをはじめとするダンス仲間との繋がりが、彼らに精神的な安らぎを与えているようだ。

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