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コロナに納豆が効果的!? 「ニューズウィーク」で根拠不明な“フェイクニュース”疑惑

イメージ画像/出典:HiC

 今、SNSを中心に「納豆が新型コロナウイルス感染後の悪化に効果がある」という情報が拡散している。だが、論文のデータベースなどをいくら探しても、該当する研究論文等は見つからない。いったい、何が発信源になっているのだろうか。

 「納豆が新型コロナウイルス感染後の悪化に効果がある」と書き込まれた複数のSNSなどを辿っていくと、1つの記事に行きついた。それは、ニューズウィーク日本版オンラインの「納豆が感染後の悪化を防ぐ可能性 新型コロナ」(リンク:https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/06/post-93653.php)という記事だ。

 どうやらこの記事が「納豆が新型コロナウイルス感染の悪化に効果がある」という根拠になっているようだ。

 では、記事の内容はどのようなものなのか。簡単に言えば、ビタミンK2が新型コロナの症状緩和に効果がある→ビタミンK2は納豆に非常に多く含まれている→納豆は新型コロナ感染後の悪化を防ぐ可能性がある、というロジックで書かれている。

 そこで、この記事で納豆との関連がある部分を検証してみる。正確を期すために、記事は原文のママ取り上げる。

 まず、納豆に多く含まれるビタミンKについては、「この度、オランダの医師たちがビタミンKと新型コロナ症状緩和に関連性を見出したことから、にわかに注目が集まっている」と書かれているのだが、「オランダの医師たち」の具体的な素性についての記述はない(おそらく、後段で出ているオランダ医師のことを指していると思われる)。

 また、新型コロナのどのような症状に対して、どのような緩和が見られたのか、についても記述はない。もちろん、ビタミンKが新型コロナ症状緩和に関連性があることの根拠となる研究論文等の参考情報は提示されていない。

 そして、「(ビタミンKには)K1とK2があるが、体内吸収率のより高いK2が非常に多く含まれる納豆が特に注目されている」と続くのだが、納豆を特に注目しているのは誰なのかについては記述されていない(これもおそらく後段のオランダの医師を指していると思われる)。

 さらに、話はドイツでの研究に続き、「ドイツでは、(中略)新型コロナに感染し、入院が必要なほど悪化した人にはビタミンKの欠乏が顕著だということで、この4月くらいから研究が進んでいた」と書かれているが、この研究についても研究主体は明らかにされておらず、もちろん根拠となる研究論文等の参考情報は提示されていない。

 再び話はオランダに戻り、「オランダではまた、ナイメーヘン市の病院で医師たちがビタミンKの欠乏と症状悪化の関連性を発見」と書かれているのだが、ここでも具体的な病院名や根拠となる研究論文等の参考情報は提示されていない。

 そして、いよいよ話は佳境に入り、オランダの研究プロジェクトを率いるロブ・ヤンセン博士の「私はロンドンで日本人科学者と一緒に働いたことがあるが、彼女は日本で納豆をたくさん食べる地方ではCovid-19(新型コロナウイルス)による死者が1人も出ていないと言っていた。だから、試してみる価値はある」とのコメントが出ている。

 ここまで見てきたとおりまず、この研究プロジェクトとはいかなるものなのかについては、まったく触れられていない。その上驚くべきことに、“納豆に効果があるかもしれない”という根拠は、名もない日本人女性研究者の“世間話”のような発言であり、医学的な根拠のない人伝ての話でしかないのだ。さらに、納豆に効果があるとは“一言”もいっておらず、「試してみる価値はある」としか言っていない。

 そして、最後にロブ・ヤンセン博士は「ビタミンKのサプリを取ることをアドバイスする。たとえ深刻なCovid-19の病状には役立たなくとも、血管や骨、そしておそらく肺のためにいいはずだ」と述べている。

 納豆だけではなく、ビタミンKですら、「深刻な新型コロナの症状には“役に立たなくとも”」と効果のない可能性にすら言及しており、“おそらく、いいはずだ”というビタミンKの効果にすら疑問を残した発言で記事は終わっている。

 この記事の見出しは前述の通り、「納豆が感染後の悪化を防ぐ可能性」というものだ。新型コロナは未だにそのウイルスの全容が解明されていない未知のウイルスであり、ありとあらゆる物質に様々な可能性がある。根拠となる研究実績や論文が示されないまま、 “納豆”という商品に可能性を取り上げることに対して、“非常に違和感を覚える”のは筆者だけではないと思う。

 フェイクニュースの検証を目的としたFirst Draftの創設者の一人ウォードル(Claire Wardle)博士らは、フェイクニュースを以下の3つに分類している。

偽の情報だが悪意のないもの=ミスインフォメーションと呼ばれ、メディアの誤報や専門家の勘違い、統計上の誤り等が含まれる

正しい情報だが悪意のあるもの=マルインフォメーションと呼ばれ、意図的に混乱や対立を引き起こしたり、センセーショナルな見出し等が該当する

偽の情報でかつ悪意のあるもの=ディスインフォメーションと呼ばれ、第三者を騙す目的で情報を捏造したり、情報の発信源を偽装することが含まれる

 この分類に当てはめれば、「納豆が感染後の悪化を防ぐ可能性」という記事は、ミスインフォメーションであり、マルインフォメーションにも該当するものと思われる。

 筆者は2月26日付の「詐欺の片棒を担いでいる!? 中部大、『あおさがコロナウイルスに抑制効果』の発表に批判殺到」(リンク:https://www.cyzo.com/2020/02/post_232561_entry.html)で、中部大学の「海藻のあおさのりが新型肺炎を引き起こしている新型コロナウイルスに効果があると期待している」との研究結果が公表され、スーパーマーケットの店頭からあおさのりが売り切れる事態を引き起こしている。しかし、この研究結果は新型コロナウイルスに効果があることを実証したものではなく、「詐欺の片棒を担いでいる」との批判が相次いでいることを指摘した。

 今年2月に中部大学が「あおさのりにヒトコロナウイルスの抗体を増やす効果があることが判明した」との研究結果を公表したが、この研究は「A型インフルエンザウイルス」を対象に行われたものであり、「新型コロナ」を対象にしたものではなく、あおさの新型コロナに対する効果は一切実証されていないにも関わらず、スーパーマーケットの店頭からあおさのりが売り切れ、ネット通販サイトではあおさのりの出品数が急増するなど便乗商法に利用されたことを指摘した。

 新型コロナではそれ以外にも、カレーのスパイスの効用や、モズクに含まれる成分のフコイダンに効果があるなどの医学的な検証がされていない、根拠のない話が拡散され、便乗商法に利用されてきている。

 メディアは自らを諫め律しながら、提供する記事を検証し、正確な内容を心掛けることが必要だ。メディアとしての信頼性が高ければ高いほど、便乗商法などに利用される可能性があることを心に刻み付けておかなければならない。

鷲尾香一(経済ジャーナリスト)

経済ジャーナリスト。元ロイター通信の編集委員。外国為替、債券、短期金融、株式の各市場を担当後、財務省、経済産業省、国土交通省、金融庁、検察庁、日本銀行、東京証券取引所などを担当。マクロ経済政策から企業ニュース、政治問題から社会問題まで様々な分野で取材・執筆活動を行っている。「Forsight」「現代ビジネス」「J-CAST」「週刊金曜日」「楽待不動産投資新聞」ほかで執筆中。著書に「企業買収―会社はこうして乗っ取られる 」(新潮OH!文庫)。

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最終更新:2020/06/18 12:12
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