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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.595

故人と対話するための装置。大林宣彦監督の遺作『海辺の映画館』、いまおか監督『れいこいるか』

文=長野辰次(ながの・たつじ)

 

大林監督の遺作『海辺の映画館 キネマの玉手箱』。主人公たちは上映中の戦争映画の中に迷い込む。

 人は息を引き取る直前に、その生涯が走馬灯のように脳裏をめぐると言われている。2020年4月10日に亡くなった大林宣彦監督の遺作『海辺の映画館 キネマの玉手箱』は、大林監督自身が生前に用意しておいたポップでカラフルな走馬灯を、客席にいる観客も一緒になって楽しむといった趣きの不思議な映画となっている。

 前作『花筐/HANAGATAMI』(17)のクランクイン時に末期がんと診断され、「余命3カ月」と宣告されながらも、大林監督は故郷・尾道で20年ぶりとなるロケを敢行し、『海辺の映画館』を完成させた。『野のなななのか』(14)以降、大林組の常連となっていた常盤貴子、『青春デンデケデケデケ』(92)以来の大林作品となる浅野忠信、初めての大林作品となる成海璃子ら、新旧キャストが集結。賑やかな生前葬を思わせるが、上映時間3時間のうち前半パートはかなり混沌としたものとなっている。

 物語の舞台となるのは、閉館が決まった瀬戸内海沿いの古い、小さな映画館。閉館記念として戦争映画のオールナイト特集上映が行われることに。そこは、映画好きな人たちだけでなく、人間ならざるものの姿もあり、生者と死者が共に映画を楽しむパラダイスと化している。この世とあの世とのボーダーはないに等しい。大林監督の遺作が、大きな円を描くように商業デビュー作『HOUSE ハウス』(77)的世界へと帰っていることが感慨深い。

 主人公となる毬男(厚木拓郎)たち3人の若者は安全なはずの客席から、スクリーンで上映されている映画の中の戊辰戦争、日中戦争、太平洋戦争末期の沖縄戦へとタイムリープすることになる。まるで『時をかける少女』(83)のヒロイン・芳山和子のように。余命宣告されていた大林監督は、もはや誰にも気兼ねする必要はなかったのだろう。これまで以上に、より自由奔放に大林ワールドが炸裂することになる。

 混沌としていたエピソード群は、やがて後半パートで描かれる移動劇団「桜隊」の物語へと収斂していく。1945年8月6日、広島に原爆が投下され、広島を拠点に地方で慰問公演を重ねていた「桜隊」をはじめ、多くの人たちが散っていった。毬男たちは何とか「桜隊」の人たちだけでも救おうとするが、過去を改竄することは許されない。映画の中のヒロインたちには、モデルになった実在の人たちがいたことに毬男らは気づく。戦争で亡くなった人たちの想いが、余命宣告されていた大林監督にこの映画を撮らせていたことが分かる。

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