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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.601

被害者と加害者の両視点で描く東海テレビの力作 闇サイト事件を劇映画化『おかえり ただいま』

見ず知らずの男たちの虚勢が招いた凶悪犯罪

拉致された利恵(佐津川愛美)は、極限状態の恐怖の中で犯人たちに「2960」という数字を伝える。

 本作の完成後、東海テレビ報道部を離れ、東京編成部へと異動になった齊藤監督に話を聞いた。

齊藤「被害者遺族という難役に挑んでくれるのは、斉藤由貴さんしかいないという想いでオファーしました。実際に斉藤さんは、娘を持つ母親でもあります。佐津川さんは亡くなった利恵さんとほぼ同年齢でした。クランクイン前に、利恵さんが拉致された事件現場を調べて、ひとりで下見をするなど熱心に役づくりに取り組くんでくれたんです。浅田美代子さんをキャスティングしたのは、実は樹木希林さん。希林さんに『こんな企画を考えているんです』と話したところ、『その役は浅田美代子にやらせるべきよ』とその場で浅田さんに電話を掛けて、決めてくれたんです(笑)」

 ドラマパートでは、少女時代の利恵にせがまれて、富美子がヨーヨーを披露するシーンがある。学生時代から斉藤由貴の大ファンだった齊藤監督が、彼女のブレイク作『スケバン刑事』(フジテレビ系)をイメージして脚本に書いたものだった。

齊藤「実際に起きた犯罪を扱った作品で不謹慎かとも思ったのですが、逆にそんなシリアスなドラマだから、観た人たちを一瞬でもクスッとさせるシーンがほしいと思ったんです。そのことを伝えると、斉藤由貴さんも快諾してくれました。本番ではヨーヨーを披露した後に、決めポーズまで見せてくれました。決めポーズは、斉藤さんのアドリブなんです」

 幼い頃に父親を病気で失いながらも、明るく生きる利恵さんと母・富美子さんとの愛おしい日常生活が描かれる。そして、その分だけ、加害者たちが潜む社会の闇が毒々しく感じられる。名古屋で慎ましく暮らす母娘のホームドラマと並行して、加害者のひとり・神田司の生い立ちもドラマ化している。

 群馬県に生まれた神田は小学生の頃に両親が離婚。祖母は兄だけをかわいがり、兄を連れて家を出ていった。残された神田は、酒に酔った父親に殴られ、学校ではイジメに遭った。中学卒業後は都内のパチンコ店などで働くが、群発頭痛という持病のためどの仕事も長続きしなかった。やがて、闇サイトを通じて、共犯者となる堀慶末、川岸健治と知り合う。

 脚本の第一稿段階では、加害者側の視点は入ってなかった。脚本から手掛けた齊藤監督は、富美子さんに寄り添った作品にしようという気持ちが強かったからだ。東海テレビの劇場公開作第1弾となった『平成ジレンマ』(11)をはじめ、数々のドキュメンタリー作品でタッグを組んできた阿武野勝彦プロデューサーから「加害者視点を入れることで、作品に幅が出る」と指摘され、改稿した。それによって、利恵さんの在りし日の姿を再現した明るいホームドラマに加え、なぜあの事件は起きたのかという社会の闇部分にも迫る重層的な構造となった。

 闇サイトを介して連絡を取り合った神田たちは、ファミリーレストランで顔を合わせる。「詐欺グループを仕切っていた」「俺の父と兄はヤクザで、今は刑務所暮らし」など、お互いに虚勢を張って、悪行自慢する男たち。「お金を持ってるOLを拉致って、殺しちゃいますか」とまるで悪質な冗談のような会話が、それぞれの実名も知らない男たちの思慮のなさによって実行に移されてしまう。闇サイトという非現実空間が、社会の闇に紛れ込んで現実世界に浸透していく不気味さに背筋が冷たくなる。

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