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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.607

“裏切り者”扱いされたミュージシャンの回顧録青春の終焉『ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった』

文=長野辰次(映画ライター)

ロビーが信じていた迷信

ロニー・ホーキンスは、ロビーとリヴォンを「トム・ソーヤーとハックのよう」と評した。

 映画『ラスト・ワルツ』を観た限りは、美しく解散を遂げたように思えるザ・バンドだが、メンバー間の亀裂は埋めることができないほど大きくなっていたのが実情だった。ロビーとリヴォンは、金銭面でも対立する。ザ・バンドの利権をロビーが独占することを、リヴォンは許せなかった。曲を作ったのはロビーでも、みんなでアレンジを重ねることで完成した曲ばかりではないか。1983年に再結成したザ・バンドにロビーだけ参加しなかったことから、ロビーはファンからも「裏切り者」扱いされることになる。

 本作を撮ったのは、カナダ生まれのダニエル・ロアー監督。ザ・バンドの音楽を子どもの頃から聴いて育ったそうだ。今回のドキュメンタリー映画は、ロビーが執筆した『ロビー・ロバートソン自伝 ザ・バンドの青春』(DU BOOKS)を原作にしていることもあり、ロビー寄りの物語となっている。ロビーとリヴォンの言い分は、どちらが正しいのか。ロビーだけでなく、今も存命のガースへのインタビューも行ったそうだが、今回の映画にはうまくハマらなかったことからガースのコメントは収録が見送られている。いつも物静かなガースは、ロビーとリヴォンの対立をどのような想いで見つめていたのだろうか。

 本作がマーティン・スコセッシ製作総指揮という点も興味深い。スコセッシ映画といえば、イタリアンマフィアの実録犯罪もの『グッドフェローズ』(90)やNetflix配信ドラマ『アイリッシュマン』(19)など、血の繋がりのない男たちが裏社会でのし上がっていく友情と裏切りの物語でおなじみだ。音楽業界を舞台にした本作も、これまでのスコセッシ映画に通じるものがある。ザ・バンドのメンバーは、拳銃やナイフの代わりに楽器を奏でることで絆を深めていったのだ。

 ロビーは『ラスト・ワルツ』の最後に、こう語った。「僕は変な迷信を信じている。偉大なミュージシャンたちは、ツアー中に次々と亡くなっていった。そんな生き方は、僕にはできない」と。ロビーの迷信は的中する。ロビー抜きで再結成したザ・バンドのツアー中、リチャードは1986年に自殺、薬物から手を切ることができなかったリックは1999年に急死を遂げる。リヴォンは咽頭がんを患いながらもタフに活動を続けたが、2012年に亡くなった。ロビーとガースの2人しか、オリジナルメンバーは残っていない。

 晩年まで関係を修復することができなかったロビーとリヴォンだったが、リヴォンが危ないという知らせを聞いてロビーは病院へ駆けつけた。すでにリヴォンは意識を失っていたが、リヴォンの姉がロビーを病室に招き入れた。ロビーはリヴォンの手を握ったという。それは、2人がトム・ソーヤーとハック・フィンに戻った瞬間だった。

 

『ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった』
製作総指揮/マーティン・スコセッシ、ロン・ハワード 監督/ダニエル・ロアー
出演/ザ・バンド(ロビー・ロバートソン、リック・ダンコ、リヴォン・ヘルム、ガース・ハドソン、リチャード・マニュエル)、マーティン・スコセッシ、ボブ・ディラン、ブルース・スプリングスティーン、エリック・クラプトン、ロニー・ホーキンス、ヴァン・モリソン、ピーター・ガブリエル、タジ・マハール、ジョージ・ハリスン
配給/彩プロ 10月23日より角川シネマ有楽町、渋谷WHITE CINE QUINTOほか全国順次公開中
(c)Robbie Documentary Productions Inc.2019
https://theband.ayapro.ne.jp

長野辰次(映画ライター)

長野辰次(映画ライター)

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フリーライター。著書に『バックステージヒーローズ』『パンドラ映画館 美女と楽園』など。共著に『世界のカルト監督列伝』『仰天カルト・ムービー100 PART2』ほか。

最終更新:2020/10/30 17:41
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