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深読みCINEMA【パンドラ映画館】Vol.622

松浦亜弥やモー娘。に人生を救われた人々がいた! 松坂桃李主演の実録コメディ映画『あの頃。』

原作者は「神聖かまってちゃん 」の元マネージャー

松浦亜弥やモー娘。に人生を救われた人々がいた! 松坂桃李主演の実録コメディ映画『あの頃。』の画像2
あやや推しの劔(松坂桃李)。アイドルオタクという居場所を見つけられたことを喜ぶ。

 好きなアイドルを応援し、仲間たちとのバカ騒ぎはとても楽しい。でも、ただアイドルのビデオを繰り返し見ているだけの毎日に、物足りなさも劔は少しずつ感じるようになっていく。将来に対する不安もある。松浦亜弥のコンサートにひとりで出掛けた劔は、隣の席に座っていた中年のオッサン(いまおかしんじ監督)に驚く。オッサンは20年後の劔なのだという。一緒に松浦亜弥を応援していたオッサンは笑顔でささやく。「今のままでいいんだよ」と。

 20年後の自分の姿を見てしまった劔は、一歩だけ前に進むことを決意する。トークライブの仲間たちに声を掛け、バンド結成を提案する。暇とエネルギーを持て余している仲間たちは、面白がってこれに同意。「恋愛研究会。」というバンド名で、恒例のトークライブで初ステージを飾ることに。当初は社会に対する不満を歌詞にしたオリジナル曲を演奏するつもりだったが、根がだらしない顔ぶれだけに、結局のところオリジナル曲は立ち消え。モーニング娘。のコピーバンドとなってしまう。それでも、久しぶりにベースを弾く劔は、演奏に夢中になれた。ステージ上で演奏したモーニング娘。の名曲「恋ING」は、忘れられない思い出の曲となっていく。

 プロへの道は遠いものの仲間たちと協力してのライブ演奏は、劔にとって大きな一歩だった。自分の想いを伝えること、表現することの喜びを思い出すことができた。しばらくして劔は東京に上京し、音楽業界で働くことに。やがて劔は、人気ロックバンド「神聖かまってちゃん 」の名物マネージャーとなる。劔樹人が初めて描いたコミックエッセイ『あの頃。男子かしまし物語』(イースト・プレス)が本作の原作となっている。

 アイドルとアイドルを応援するファンとの関係性は、今や超売れっ子となった今泉力哉監督ならではのモチーフだ。今泉監督は劇映画デビュー作『こっぴどい猫』(12)から、『愛がなんだ』(19)や『his』(20)と一方通行の恋愛をテーマに映画を撮り続けている。片想いは苦しくて、せつない。どんなに相手のことを想い続けていても、その想いは容易には成就しない。でも、そのせつなさは、自分が生きているからでもある。そんなせつなさこそが、今泉監督が撮る映画を特別なものにしている。

 アイドルとは、少年少女が憧れる“理想の恋人”像でもある。心理学用語でいうところの「アニマ・アニムス」だ。理想の恋人に想いを寄せることで、少年少女は大人へと成長を遂げていく。ちょっと遅めの青春時代を過ごしていた劔たちにとって、ステージ上でまぶしく輝くアイドルは欠かせない存在だった。

 松浦亜弥は現在活動休止しているが、日本経済がどん底状態にあった1990年代後半に誕生したモーニング娘。はメンバーの卒業と新加入を重ねながら、現在も活動を続けている。失われた20年とも、就職氷河期とも呼ばれた世紀末~ゼロ年代の日本社会を象徴するアイドルグループでもある。もしも、彼女たちがいなければ「恋愛研究会。」は存在せず、劔たちは生きる希望すら持つことができなかっただろう。

 アイドルオタクであることが、劔たちの最後の砦となった。アイドルオタクにすらなれなかったら、犯罪行為に走ったヤツもいたかもしれない。時代とリンクし、一瞬の輝きを放つアイドルたちが果たす役割は、想像以上に大きなものがある。

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