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『青天を衝け』堤真一演じる平岡円四郎、実はコミュ障だった? 非正規雇用10年くすぶり続けて開花した才人

すこぶる粗野な平岡を「優れた人物」と見極めた慶喜

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徳川慶喜

 しかし、彼の迷走ぶりを見かねたのでしょう、平岡の生父・岡本忠次郎は昔の知り合いである川路聖謨に連絡。川路は水戸藩の学者・藤田東湖に平岡を紹介しています。藤田は、水戸藩の「烈公」こと徳川斉昭と懇意です。烈公が愛息・慶喜の家臣に「諍臣(そうしん)を得んことを求め給ふ」……つまり、慶喜を正しい道に導いてくれる気骨ある家臣を烈公が雇いたいと考えているのを藤田は知っており、平岡を推薦してくれたのでした。こうして、平岡が慶喜に小姓として仕えることが決まったそうなのですね(『水上昌言談話』)。

 ところが……驚くべきことに平岡は、周囲が連携プレーの末に手に入れてくれた、再就職先のポストを蹴ろうとします。理由としては「近侍は長袖者流(ちょうしゅうしゃ・りゅう)の事にして素志にあらず」……つまり「公家や僧侶のように“お上品な人”に向いている御小姓は私向きではないし、やりたい仕事でもない」というわけです。これはドラマでも描かれていましたが、史実ではさらに酷い突っぱね方ですね。

 ちなみに『青天~』では、慶喜に差し出すご飯の盛り方があまりに汚い平岡が描かれましたが、本当に所作が「頗(すこぶ)る粗野」だったようです。史実ではクビになることを願っていたのかもしれませんが、慶喜のほうが一枚上手で、平岡をなぜか嫌うどころか、「(慶喜)公はそれをも厭(いと)はせられず、親しく教へ示し給ふ」……手取り足取り、色々と教えてくださったのだそうです。

 後には平岡のほうも、慶喜が優れた人物だと見抜き、誠心誠意、彼に尽くすようになったとのこと。やる気になった平岡は出世を重ね、文久3年(1863年)、一橋家の重職である「用人(ようにん)」の一人となりました。

 慶喜が当主を勤める一橋家は、他の大名家などのように、古参の家臣というものを一切持ちません。所領もなく、江戸城内の屋敷に暮らしつづけ、将軍家の身内とのことで毎年10万石分のコメを「賄料(まかないりょう)」として受け取るだけでした。また、一橋家の実務を担当する合計6人いた「用人」も、幕府の役人から適当な人材を斡旋してもらうか、平岡のように私的にスカウトした者ばかりでした。

 それゆえ、一橋家に仕える役人は、当たり障りのない対応しかしてくれなかったそうです。そんな中、平岡の熱心な働きが慶喜の目に留まらぬわけがありませんでした。平岡は、用人となった翌・元治元年(1864年)には早くも「側用人番頭」……名実ともに「用人」たちのトップとなったのです。

 しかしこの年、平岡は京都から渋沢栄一・喜作を関東に派遣し、「お前らの仲間から才能のあるヤツを連れてこい」と、いわばリクルートの旅に行かせるわけですが、その直後に攘夷派の水戸の浪士に暗殺されてしまったのでした。

 享年43歳。あまりに若く、そして「人生これからだ」という時の無念の死だったと想像されます。そんな平岡の次に、慶喜のお気に入りになるのが渋沢栄一なのですが、これについては後の機会に。

<過去記事はコチラ>

堀江宏樹(作家/歴史エッセイスト)

1977年、大阪府生まれ。作家・歴史エッセイスト。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業。日本・世界を問わず歴史のおもしろさを拾い上げる作風で幅広いファン層をもつ。原案監修をつとめるマンガ『La maquilleuse(ラ・マキユーズ)~ヴェルサイユの化粧師~』が無料公開中(KADOKAWA)。ほかの著書に『偉人の年収』(イースト・プレス)、『本当は怖い江戸徳川史』(三笠書房)など。最新刊は『隠されていた不都合な世界史』(三笠書房)。

Twitter:@horiehiroki

ほりえひろき

最終更新:2023/02/21 11:48
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