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ユーモア、皮肉、哀愁…現代ヤクザの「ナマの姿」に我々が興味を惹かれるワケ

写真はイメージ

 8月25日、サイゾーから『令和ヤクザ解体新書 極道記者が忘れえぬ28人の証言』が上梓される。著者は20数年、実話誌業界でヤクザを取材してきた佐々木拓朗氏だ。同氏は、これまでのヤクザライターと違った角度からヤクザの組員たちを取材し続け、他では決して語れなかったヤクザの人間模様にスポットを当てている。佐々木は言う。

 「サラリーマンと同じで、ヤクザといえどもさまざまな人がいるわけです。一般人同様に子どものことで一喜一憂したり、奥さんから『あんた、いつになったらヤクザをやめるの!』とつめられ、『わかっとるがな、いろいろ考えとんねん……』と言い逃れしたり、頭を悩ませて暮らしてるんです。使い古された言葉ですが、ヤクザといえど、十人十色です。ですので、抗争事件をめぐるドラマや取り繕った言葉で飾られたヤクザ礼賛記事は、書きたくなかった。暴排条例で締め付けられ肩身の狭い思いをしながらも、ヤクザは一般社会で、時にその素性をひた隠しながら共存している。それはこれまで書き尽くされた、任侠として生きる男たちへの美辞麗句とはかけ離れたものかもしれません。だけど、そういった姿こそ共感を持てたり、惹きつけられたりするのではないでしょうか。ヤクザといえど人間です。本書に登場する幹部や組員たちは、心に葛藤を抱えながらもヤクザとして生きている、あるいは生きてきた人たちです。ユーモアがあり、皮肉があり、哀愁があります。ヤクザに全く興味がなかった人たちにも、関心を持ってもらえるのではないでしょうか」

 確かに佐々木が言うように『令和ヤクザ解体新書』には、ありがちな威勢の良い言葉は踊っていない。皆が皆、現在のヤクザの置かれている現状を憂いながら、ユーモアを交え、時に毒つきながらも、今を生きている。それは、ヤクザといえど人間だ、と世間に訴えかけているのかもしれない。どこからでもさらっと読めて、かつ何気ない一言が胸をつく。これは佐々木が作った新たなノワールなのかもしれない。その一端をここに綴ってもらった――。

ヤクザたちが放つ人間的な魅力と吐息とは?

  ヤクザに限ったことではないが、ヤクザは基本的に文句や皮肉が多い。それでいてユーモアに富んだ一面を発揮してくる。だからこそ、聞き手を飽きさせることがない。少なくとも私がこれまで取材してきた組員たちの多くは「仮に抗争事件が起これば、無期(懲役)を覚悟にジギリ(体)をかけれますか?」という私の問いに、このように即答するのであった。

「嫁はんや子どももいとんねんぞ、行けるかい、そんなもん」

 もちろん実際はわからない。数年前にそう答えていた幹部が、その後、抗争事件の渦中に飛び込み、現在は長期服役を余儀なくされているケースも事実としてある。だが、確かにその時はある種、軽蔑したような眼差しで「組のために懲役なんて行くわけないだろう」と言っていたのだ。人間の心理とは理屈の上に構築されているわけではない。

 カタギになることを考えていると言っていたある組員は、暴力沙汰に巻き込まれ命を落とした。取材では目尻を下げながら、小学生の子ども2人の写メを見せてくれていた。LINEで写メの送り方がわからないと言うので、私がそのやり方をレクチャーしてあげた。

「お前、なかなか使えるやないか。編集部をクビになったらウチくるか」

 そうユーモアを交えながら、彼独自の褒め言葉をかけてくれたのだ。

 こういう仕事をしていれば、取材対象者が抗争事件で命を落とすといった経験も何度か体験してきている。そういった訃報に接するたびに襲われるのが虚無感である。そして、いつも思い出されるのが、威勢の良い言葉ではなく、何気ない一言だ。

「身体に悪いから、禁煙しようかおもてんねん。にいちゃんもあんまり、スパスパ、タバコを吸うなよ。身体に悪いぞ」

 そんなことを言ったヤクザもいたが、「そういうあんたは命を落としてもうてるやんけ!」と胸の内で激しく突っ込み、哀しみに襲われるのだ。言葉にするとやりきれないが、それがやはり命を賭けてヤクザをやっている、ヤクザとして生き方なのだ、とその度に実感するのであった。

 一般人同様に、妻や子どものことを考えているヤクザは多く存在する。時折、そこに組員の素顔や本音が垣間見れたりするのである。

「懲役に比べれば、シャバなんて好きなもの食えて好きな時に寝れて、マンガやないか」

 こう吐き捨てるように言い放った組員は、突然、連絡が取れなくなった。何かあればワシに言えよ、と言っていたある組長も今では連絡がつかない。「どうせにいちゃんは独身やろう」と私の見てくれだけで不躾なことを言ってきた組員もだ。今はどこで何をしているのか。

 それでもヤクザは存在している。その生き様はやはり、刹那的といえるだろう。老後のこと、10年後のこと、いや明日のことすら考えてないような人たちばかりだ。そして、刹那的だからこそ、そこに魅力を感じるのは必然なのかもしれない。

 今回まとめた『令和ヤクザ解体新書』は、拙い書き物かもしれない。決して世に語り継がれるような本ではないだろう。だが本書に登場する組員たちは、確かにそのとき、ヤクザとして生きていた。考えや立場はそれぞれだ。ヤクザはこの時にはこう考える、ヤクザはこうしないといけない、などとは誰も言わなかった。匿名を条件にしたからこそ、無防備なほど裸で生の声を聞かせてくれた。そんな彼らの吐息を本書を通して少しでも伝えることができたら、なによりの書き手冥利である。

(文=佐々木拓朗)

『令和ヤクザ解体新書 極道記者が忘れえぬ28人の証言』
佐々木拓朗/定価1400円+税/8月25日発売→amazonで予約受付中

 

佐々木拓朗(ライター)

アウトロー取材経験ありの元編集者のフリーライター。自身の経験や独自の取材人脈を生かした情報発信を得意とする。

ささきたくろう

最終更新:2021/07/30 18:47
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