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伊丹十三が不気味に卵の黄身をチュウチュウ…奇妙な演出に釘付け「家族ゲーム」

有名な家族が横並びで食事をするシーンほか異様な演出だらけ!

〈あらすじ〉
 中学3年生の沼田茂之(宮川一朗太)は、父・孝助(伊丹十三)母・千賀子(由紀さおり)兄・慎一(辻田順一)の4人家族。茂之の成績を上げるため、家庭教師を頼む。そこにやってきたのは三流大学生の吉本(松田優作)という奇妙な男だった……。

 家族に無関心で息子達に良い学校に行けと言うだけの父親、そんな父親の言いなりになっている母親。両親の期待に応えた高校に通うも怠け癖のある兄。そしてイジメを受け、成績も悪く悪知恵の働く次男。それぞれが自己中心的で、他者と向き合おうとしない家族の物語です。

 冒頭、〝家中が、ピリピリ鳴っててすごくうるさいんだ〟そんなナレーションと共に映し出されるのは、この4人家族の食卓の様子。これがどうも普通の食卓風景ではない。長テーブルに、4人が横並びに並んでいるのです。家族全員揃っての食事、というのは一般的に幸せの象徴だと思いますが、それを逆手に取り、家族全員が集まっているのにも関わらず、それぞれが孤立して食事している4人家族の様子は、異様な不気味さを醸し出しています。この食卓の構図はとても衝撃的で、この映画を代表する演出のひとつです。

 私、人と横並びで会話するほうが好きで、対面ではなく横並びの食事だったり歩きながら人と会話するのを好むのですが、そんな私でもやっぱり、家族は別。私の家は5人家族ですが、みんなでラーメン屋さんに入ってカウンター横並びだったりするだけで、落ち着かない心情になります。家族との食事は、食卓を囲みたいものです。

 この異様な食卓風景で、食事をするシーンが多く登場しますが、この映画の食事シーンや食べ物は、驚くほど美味しそうに見えない!これもまたこの作品の特徴。映画のご飯シーン好きの私にとって、これはかなり衝撃的でした。加えてこの映画、音楽が一切使われないんですよね。レコードをかけ聴いているシーンでさえ音楽は流れず、代わりに脳裏に焼き付くのが咀嚼音。家族と向き合わない食事というのは、どれほど無機質で冷たいものかと驚かされ、貪るように食事をする彼らのその咀嚼音が強調されていて、更に不気味さを感じます。

 唯一食べ物のシーンで肯定的に見れたのは、父親の目玉焼きの食べ方。

 黄身の部分に唇を直接付け、ちゅうちゅう吸い上げるその仕草はかなり異様ですが、そういえば私も子供の頃、こんな風に先に黄身を吸う食べ方をしていた気がするなぁと、このシーンを見ながら不意に思い出しました。父親役の伊丹十三さんの食への愛情は、彼の監督作品やエッセイでも知られていますが、この目玉焼きの食べ方関しては、著書「女たちよ!」(新潮文庫)の中の〝目玉焼きの正しい食べ方〟に記載ありますので、気になった方はこちらも是非とも。

 そんな独特の目玉焼きの食べ方をしている父にある日、焼きすぎて黄身が固まった目玉焼きを出した母。

父「こんな固くちゃ、ちゅうちゅう出来ないじゃないか!」
母「ちゅうちゅうって……」

父「知ってるだろ、俺がいつも黄身を吸うのが好きなこと」
母「はぁ、好きだったんですか……」

 なんとも滑稽なやりとりですが、何十年も共に生活をしてきているのに、いかにこの家族が向き合っていないか示されている会話でもあります。少し例を挙げただけでおわかりなように、登場人物それぞれが印象に残る特徴的な言動をするキャラクター性。しかしながら、「実際にこういう人いるよなぁ~」と思わせる人物像で、その現実感と奇妙さのバランスが絶妙なんです。

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