世界初！宇宙でレタス育成に成功―ISS 内のJAXA研究グループ

　JAXA（国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構）を中心とした研究グループは10月22日、国際宇宙ステーション（ISS）「きぼう」日本実験棟内で、世界で初めて宇宙での袋型培養槽技術の実証実験を行い、レタスの育成に成功し収穫に至ったと発表した。

　月や火星などの天体へ人類の活動領域の拡大を目指すための技術のひとつとして、JAXAでは地球からの補給に頼らず、月面に農場を設営し長期滞在のための食料を生産するという構想を立てて研究を行っている。

　将来的に月面に農場を設置することになれば、作物を安定して生産するために病害虫防止と緊急時食料のバックアップの対応が必要となる。また、地球からの輸送にあたっては栽培システムの積載重量低減も求められる。

　そこで、JAXAを中心とした竹中工務店、キリン、千葉大学、東京理科大学の研究グループが、2017年から宇宙での適用も想定した袋型培養槽技術の共同研究を行ってきた。

　袋型培養槽技術は、小型の袋の内部で植物を増殖させる。この技術を用いた栽培方式は、密閉した袋内で植物を栽培するため、雑菌の混入を防ぎ、臭気発生がないコンパクトなシステムで、設備も簡易でメンテナンスしやすく、省エネルギー性があり、人数に合わせた数量調整も容易となる。

　これまでの共同研究の結果を踏まえ、さらに宇宙空間の微小重力環境下や閉鎖環境下における本栽培方式の有効性や、水耕栽培や土耕栽培と比較した際の優位性を確認するため、「きぼう」船内での袋型培養槽技術によるレタス生育の実証実験を実施した。

　実験は21年8月27日から10月13日までの48日間とし、期間中に培養液の供給および空気交換を行い、生育の促進を図った。9月10日にはレタスの本葉を確認し、その後も順調な生育を続け、10月22日に収穫に至った。

　実証実験用に開発した栽培装置は、打ち上げ時の積載重量低減のため、大きさと重量を抑えながらも、3袋の栽培が可能。内部にはISSの飲料水から培養液を作成し無菌化して各培養袋へ供給できる給液システムおよび生育状況を定期的に自動撮影できるシステムを備えている。

 今後は、生育したレタスと培養液、生育の様子を撮影した記録を回収し、宇宙での適用可能性や本栽培方式の優位性を評価する。また、育ったレタスに食品衛生上の問題がないかの確認や、栽培後の培養液を分析し環境制御・生命維持システムで再利用処理が可能かについての確認も実施する予定だ。

　JAXAでは、「将来的にはこの袋型培養槽技術を用いることで、一度に大量の葉菜類の栽培だけでなく、ウイルスフリーな苗の育成にもつながるなど、惑星探査時の長期の宇宙船内滞在時や滞在施設での大規模栽培への活用が期待される」としており、袋型培養槽技術が持続的な宇宙活動へ貢献するよう、今後も研究を進めていく。

　宇宙関連で開発された最先端の技術は、実用化されることで宇宙関連だけではなく、さまざまな分野での応用されているものも多い。NASA（米航空宇宙局）が開発した技術では、フリーズドライ食品、UVカットサングラス、消防服、太陽光パネル技術などが、今日の我々の生活向上に生かされている。

　今回のJAXAが開発した袋型培養槽技術も応用され、今後、さまざまな形で我々の生活に役立つ可能性を秘めている。袋型培養槽技術が実用化に向け、開発されていくことを期待したい。

鷲尾香一（経済ジャーナリスト）

経済ジャーナリスト。元ロイター通信の編集委員。外国為替、債券、短期金融、株式の各市場を担当後、財務省、経済産業省、国土交通省、金融庁、検察庁、日本銀行、東京証券取引所などを担当。マクロ経済政策から企業ニュース、政治問題から社会問題まで様々な分野で取材・執筆活動を行っている。「Forsight」「現代ビジネス」「J-CAST」「週刊金曜日」「楽待不動産投資新聞」ほかで執筆中。著書に「企業買収―会社はこうして乗っ取られる 」(新潮OH!文庫)。

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