日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > 溝口健二『祇園の姉妹』必見の名作
宮下かな子と観るキネマのスタアたち第26話

溝口健二『祇園の姉妹』戦前から現在にも通ずる女性の悲痛な叫びを描いた一作

「男はんちゅう男はんみんな、あてらの敵や。憎い憎い大っ嫌い」強烈な発言

〈あらすじ〉
 芸妓姉妹、姉の梅吉(梅村蓉子)と妹のおもちゃ(山田五十鈴)。義理堅い梅吉は、倒産し没落した元旦那古沢を居候させるが、おもちゃは古沢を追い出そうと画策する。男たちを巧みな話術で騙していったおもちゃでしたが、男たちから反感を買うことになり……。

 物語は京都祇園の町。威勢の良い男たちの声が響き渡る中、家の中にタンスやら襖やら家具が無造作に置かれている。そこから絵巻物を開いていくかのような、カメラの横スクロールが進んでいくと、倒産した木綿問屋の古沢の家財道具が、競売にかけられている騒がしい様子が垣間見えます。溝口監督の特徴であるこの長回しを初っ端から見せつけられ、もう吸い込まれるように溝口ワールド!

 この家の主人であった、倒産した木綿問屋の古沢は、姉梅吉の元旦那。すがるように姉妹の住まいに転がり込む古沢に同情し、世話する姉の梅吉と、それを良しと思わぬ妹おもちゃ。この妹おもちゃが物語の主人公です。

 姉妹といえども対照的な性格の2人で、それは登場シーンから明確に表されています。頭にタオルのようなものを巻き、居間で家事をしていた姉梅吉は、古沢の話を親身に聞き、お風呂へ促し面倒を見る。対しておもちゃは、白いキャミソールワンピースの下着姿に大あくびをしながらやってくるという大胆な登場で、対照的な姉妹の姿がとても興味深い。

 このシーン一連のおもちゃ演じる山田五十鈴さんのお芝居がとにかく圧巻でして。適当にあしらうように古沢に挨拶し姉と古沢のやりとりを、歯磨きしながら見つめる冷めた目線。また、古沢が家を出てからはっきりとした強い口調に変わり、「姉さんの男はんに対する考え方ちゅうもんが間違うてるさかいなわては言うとるのえ。大体その義理ちゅうんが気に入らん。」と捲し立てる姿など、この長回しで魅せる表現が凄い。京都弁で膨大な台詞量をつらつらと、髪を梳かしながら、化粧をしながら、飲み物を飲みながらの動作と共に部屋を大きく動き回る姿に目を奪われます。この時山田五十鈴さん、19歳というものだから更に驚き。

 義理堅く人情深い姉梅吉と金銭主義な妹おもちゃ。価値観は違えどなんだかんだ姉妹の仲の良さがやりとりから感じられ、確かに女姉妹ってこういうところあるなぁなんて頷かされる。なんと言ってもリズム感があり、言い回しに可愛らしさのある京都弁の耳障りが心地良いです。

「男はんちゅう男はんみんな、あてらの敵や。憎い憎い大っ嫌い」と言うおもちゃの強烈な発言に、華やかな芸妓の世界の裏側と言いますか、生活の窮屈さをも想起させられる場面です。

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