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グラミー賞は政治とカネ、それでも夢がある――ある日本人ソウル・シンガーの挑戦

グラミー賞は政治とカネ、それでも夢がある――ある日本人ソウル・シンガーの挑戦の画像1
山内直己(やまのうち・なおき)氏(写真/石田寛)

 今年もグラミーの季節が来た。第64回グラミー賞の授賞式が現地時間で2022年1月31日、日本時間で2月1日に開催され、これに先駆けて先日、ノミネーションが発表された。今度こそBTSの受賞はあるのかがここ日本でも話題の的となっているが、本邦からグラミー賞に挑戦している歌手をご存知だろうか。
※オミクロン株の急拡大により、4月3日(日本時間4月4日に延期)されることが1月下旬に発表された

 彼女の名前はNao Yoshioka(ナオ・ヨシオカ)。大阪出身の日本人女性ソウル・シンガーで、アメリカの大型音楽フェスへの出演経験があり、米ビルボードのラジオチャートにもランクイン、現地のソウル系音楽メディアで最優秀新人賞に輝くなど、着実にその名を自由の国に刻みつつあるアーティストだ。

 彼女が所属する日本のレーベル SWEET SOUL RECORDSの代表であり、プロデューサーとしても彼女の音楽活動を支えている山内直己氏は、本気でNao Yoshiokaのグラミー受賞を狙っている。しかし、はたしてグラミー賞とは一体どういうものなのか。そしてグラミー賞の候補になるためにどんな活動をしているのか。山内氏の実体験をもとに、世界でもっとも権威あるとされる音楽賞の実態に迫る。

「ヒットしたか」よりも「クリエイターたちの評価」で決まる賞

――Nao Yoshiokaは2018年から実際にグラミー賞にエントリーしているということですが、グラミー賞を目指すにはまずグラミーの会員にならないといけないんですよね。

山内 そのとおりです。グラミー会員になるにはアメリカでリリースがなければいけません。昔はフィジカルのCDとかで、(作曲者やプロデューサー、エンジニアなどの)クレジットの掲載が必要となってたんですけど、最近はちゃんとクレジットがあればSpotifyだったりとかデジタルでもいいんです。あと、今はグラミー会員3名以上の推薦状がないと確かダメで。ルールはよく変わっていってるんですよね。Naoの時は推薦状は特に必要なかったんですよ。CDで、クレジットがあって、ちゃんとしたアメリカのディストリビューターからリリースされているっていうので会員になれて。Naoは日本でのデビュー盤『The Light』(2013年)をアメリカで2015年にPurpose Recordsっていうところからリリースしていて、それで2016年にグラミー会員になったんです。

――グラミー会員になって初めて、グラミー賞にエントリーできるわけですね。エントリーについても細かいルールが多くあるようですが、作品の発売日だったり、エントリーの期限があるんですよね。今回で言うと、2020年9月1日から2021年9月30日までにリリースされた作品が対象だったり。

山内 そうなんです。だいたい毎年9月ぐらいまでにエントリーを済ませて。その年によっていろいろ違うんですけど、エントリーできるチャンスは2回あります。

――Nao Yoshiokaは2018年に初めてグラミー賞にエントリーしたんですよね。

山内  『The Truth』という作品で挑戦しました。2016年に日本でリリースした3rdアルバムなんですけど、2018年にアメリカでリリースして。2018年のものだよっていう証明を提出して、クレジットを提出して、それでエントリーしましたね。


『The Truth』収録の“Freedom & Sound”のパフォーマンス映像

――エントリーをした人・作品がいきなり「ノミネート」の選考対象になるわけではないんですよね。

山内 そのとおりで、まず、スクリーニングっていう完全非公開のプロセスでふるいにかけられます。

 エントリーをする時は、どのジャンル・部門に該当するのかカテゴリーを選ぶんですけど。一番最初のエントリーの時は実験でR&Bの曲をジャズのカテゴリーで登録してみたんです。するとグラミーの人から連絡があって、これはこのカテゴリーにeligible(=適格)ではないよ、って言われました。ちゃんとジャンルのプロフェッショナルたちが聞いて、eligibleなのかどうなのかっていうのをチェックしてるんです。

――それは反論できないんですか?

山内 反論できます。あとは、ここの曲のクレジット間違ってない?とか連絡が来たりします。なので訂正したりとか主張したりとかして。でもけっこうシビアですね。

――そしてスクリーニングで残った作品がFirst Round Voting=第一回の投票に進む、と。グラミー会員なら誰でも投票できるんでしょうか?

山内 いや、投票権のあるvoting memberと、投票権のないprofessional memberというのがいて。professionalの人たちは、いわゆる音楽業界で働いている人たちで、エントリーはできるんですけど、投票はできないんです。だから事務所としてアーティストの代わりに作品を登録したりとか。投票できるのは、ちゃんとしたプロデューサークレジットがあったりとか、エンジニアだったりとか、アーティストだったりとか。クリエイターの証明がないとvoting memberにはなれないんです。

――その「投票会員」による一度目の投票の結果、ノミネートが決定。そのノミネートの中から二度目の投票があって、受賞作が決まるわけですね。

山内 そういうことです。第1回の投票はまさに“ノミネートの投票”ですね。アルバム・オブ・ザ・イヤー、ソング・オブ・ザ・イヤー、レコード・オブ・ザ・イヤー、新人賞の4つは「ジェネラル・フィールド」って言うんですけど、この4つのほかに、各ジャンルのカテゴリーがあって、今年は10カテゴリーまでしか投票できなかったんですよ。さらに、自分が詳しいカテゴリーじゃないと投票しちゃダメっていう仕組みです。

――グラミー賞はセールスとは関係なく受賞したりしますよね。

山内 グラミー自体は実はめちゃくちゃコマーシャル(商業的)なんですが、クリエイターが投票する賞なんで、セールスはあまり加味されてなくて。たとえミリオンセールスであっても、エンジニアとかプロデューサーとかアーティストに認められない人は獲れないっていう。“アーティストによるアーティストたちのための賞”みたいなイメージがありますね。ただ、様々な批判を受けてそれが変化しつつあるという噂も内部の人から聞きました。

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