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最後の新木場STUDIO COASTで生まれしベストバウト!

『フリースタイルモンスター』前編・梵頭を迎え撃つ輪入道、リスペクトと殺意と男泣き

DOTAMAとSKRYUの“元サラリーマン対決”

 4人目のチャレンジャーは、SKRYU。元サラリーマンの経歴を持つ技巧派ラッパーである。一方、召喚されたモンスターはDOTAMAだった。つまり、SKRYUとDOTAMA による元サラリーマン対決が実現! 1本目は先攻がDOTAMAで後攻がSKRYU 。結果、4-1でまずはSKRYU が先取した。特に効いていたのは、2バース目ラストにSKRYUが放った以下だ。

「サラリーマンで学んだ事もいっぱいあるけど
 机に座ってパソコン触っても 音が頭から離れねえんだよ」

 こんなパンチラインを締めで言われたら、それはSKRYUに上げてしまう。しかも、DOTAMAは先攻が苦手だ。

 続いて2本目は4-1でDOTAMAが勝利したものの、まだギアは上がっていないよう。しかし3本目になるといよいよ拾える部分が増えたため、ようやくDOTAMAが本領を発揮! 特に耳を引いたのは以下である。

「今日はスキルだぜ 俺のラップが今日 完成する
 そしてSKRYUより見る今日はMountain View」

 SKRYUの楽曲「Mountain View」のタイトルを持ち出して攻める辺り、DOTAMAのらしさが爆発。2本目を取って落ち着きを取り戻した感のあるDOTAMAが、モンスターの意地を見せて勝利をもぎ取った。

裂固への愛を感じる梵頭のフリースタイル

 5人目のチャレンジャーは、梵頭。2代目モンスター・裂固が所属する「HIKIGANE SOUND」の代表を務める重鎮ラッパーだ。バトル前のインタビューで、梵頭はこうコメントしていた。

――闘いたいモンスターは?
「やりたい相手はDOTAMAですよね。まあ、ごっつぁんゲームだからっすかねえ。1回戦で負けたくもないし、『ごっつぁんカード来るかなあ?』って感じで、シャッフルカードですよね。今回は僕がジョーカーになれるようにしたいので」

 大麻撲滅派のDOTAMAをゴリゴリに煽る梵頭。彼はやはり、リアルエンターテイナーだ。

 最初に梵頭を迎え撃ったのは、“隠れモンスター”のS-kaineだ。というか、「隠れモンスター」という久々の響きに泣ける。『ダンジョン』に4代目があったとすれば、彼はモンスター入りしていたと思う。感慨深いのだ。『ダンジョン』終了後に起きた出来事が、ちゃんと『モンスター』と地続きになっている。

 というわけで、バトル開始。1ターン目にはこんなやり取りがあった。

梵頭  「煙巻くマイク エントランス get mark
円のマーク チャリン OK」
S-kaine 「ただの¥のマークじゃサイファー止まりだぜ
     CDに落とせ」

 S-kaineがスゴい。「¥(円)」「サイファー(円)」「CD(円盤)」で掛けているし、「サイファー」はアラビア語で0という意味だ。若干20歳とは思えない技術と貫禄である。

 でも、それ以上に梵頭がエグすぎた。2ターン目でこれだ。

梵頭 「緊張してる噛みまくり キンチョール塗りまくり
殺風景のお前に眼中ねぇ
オイ ジブさん こんな奴呼んでんじゃねぇ
裂固がなんで呼ばれてねぇんだ
ふざけんじゃねぇぞ お坊ちゃん」

 裂固への愛を感じる梵頭のフリースタイル。また、煽りVで梵頭があれだけ裂固の話をしていたら、オーディエンスが“隠れモンスター”に裂固を期待してしまったところもあったと思う。このバトルは梵頭のクリティカル勝ちに終わった。

輪入道と闘いながら梵頭は男泣きしていた

 続いて梵頭を迎え撃ったモンスターは、輪入道。バトル前のインタビューで、輪入道は梵頭の印象をこう語っている。

「梵頭さんは1番ヤマだと自分は思ってますね。向き合ったときの圧っていうのが、『1番この人はやりたくないな』っていう。面と向かいたくないなっていう(苦笑)」(輪入道)

 いや、あなたこそ他のラッパーから「面と向かいたくない」と思われているだろうに……。

 1本目は、先攻の輪入道が4-1で先取した。ドラマが始まったのは2本目からである。ビートは、舐達麻の「BUDS MONTAGE」。梵頭がいてこの選曲だ。絶対、梵頭は草ネタで攻めると思った。バトルは予想外の展開に進む。

梵頭  「そして今 裂固が立ったこの舞台に
大舞台に立った梵頭 羽ばたく瞬間に火をつける」
輪入道 「アイツはずっと待ってたアンタの事
     俺もアンタがムショから送ってくれた音源忘れねぇ
     周りの人間にどう見られてるかが
     そいつ自身の生き方の証明 アンタは間違いがねぇ」

 輪入道の言葉を聞きながら、はっきりと梵頭が喰らった顔をしているのだ。いつも相手をおちょくったような顔をする梵頭なのに、真剣かつ穏やかな表情になっている。感動して、少し泣いていたようにも見える。リスペクトと殺意が同居した表情。「こいつになら負けてもいい」という顔にも見える。後攻の梵頭が返す。

梵頭 「もう1歩 あともう1歩
    届きそうな所でいつも挫けちまった俺だよ
    何回も何回も刑務所って所で反省を繰り返して
    今ここで半生を絵に描きたい
    Anytime 絵に描いた餅は伸びるらしい
    ピノキオの鼻もジョイントで長いらしい
    自分と一緒 太く短くありたい
    だから このマイクも太く短い そういう事らしいぜ」

「反省」と「半生」で踏むところなど、韻自体は簡単なのに心に響いた。「絵に描きたい」「Anytime」「絵に描いた」で踏みながら、「絵に描いた餅は伸びる」、つまり思うようにいかない時期が長かったとも言っている。「ジョイントが長い」は大麻を指しており、鼻が伸びて失敗した事もあったと告白。さらに、ピノキオの鼻は嘘で長く伸びたが、俺は太く短くまっさらな自分自身として生きるという決意表明でもあったのだ。

 梵頭は、いい意味で思ってたのと全然違った。こんな梵頭が見られるとは。そして、梵頭を熱くさせる輪入道もさすがだ。舐達麻のビートの上で感極まった顔で戦う2人の姿は、あまりに美しかった。 この第2ラウンドは、もはや2人が作った楽曲。2本目は4-1で梵頭が取ったが、勝敗など関係ない最高のバトルだったと思う。

 その後、3本目は輪入道が取り、2人のバトルは輪入道の勝利となった。文句なく、感動したバトルだった。『ダンジョン』で行われた試合も含め、かなり上位に入るバトルだったのでは? STUDIO COASTの最後に、こんなベストバウトが来るなんて。昨今のMCバトルは韻の数や音乗りのスキルが重視されがちだが、本当はラッパーが本音をぶつけ合うこんな殺り合いが見たい。2人のさらけ出す勇気に感動した。

【後編へ続く】

寺西ジャジューカ(芸能・テレビウォッチャー)

1978年生まれ。得意分野は、芸能、音楽、格闘技、(昔の)プロレス系。『証言UWF』(宝島社)に執筆。

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最終更新:2022/02/11 18:00
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