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宮下かな子と観るキネマのスタアたち32話

『パワー・オブ・ザ・ドッグ』演技が難しい怒り―静かな怒りの描き方

文=宮下かな子(みやした・かなこ)

『パワー・オブ・ザ・ドッグ』ホラー映画以上の恐ろしい静かな怒りの描き方の画像1
イラスト・宮下かな子

 気鋭の俳優・宮下かな子さんによる映画コラム『宮下かな子と観るキネマのスタアたち』。宮下さんが今自分の周りで話題になっている中で興味を持った作品を取り上げていただきます。今週は米アカデミー賞で最多の11部門、12ノミネートを果たし、また先程、英国アカデミー賞2022で作品賞と監督賞の2冠を獲得したと発表されたNetflixオリジナル映画『パワー・オブ・ザ・ドッグ』です。

※本稿には若干のネタバレを含みます。

 私は〝怒り〟の表現が苦手だ。昔、お芝居のワークショップでよく「喜怒哀楽を表現してください」と唐突に言われたりして、みんなそれぞれに怒ったり泣いたり叫んだりしていたのだが、〝怒り〟ではどうしても感情を高めることが出来なかった。最近撮影していた作品でも、女性同士でけちょんけちょんに言い争う役を演じたが、かなり苦戦した。お芝居を始めた頃からずっと、私は〝怒り〟に苦手意識がある。

 そもそも今まで生きてきて、相手に直接〝怒り〟を表した経験がないのだ。私の中で〝怒り〟の感情がそもそも気薄なのかもしれない、そう思っていた。しかし今回、担当編集の方におすすめされた『パワー・オブ・ザ・ドッグ』を観て、私の中にもある〝怒り〟の表現を、見つけられた気がした。

 Netflixオリジナル映画として2021年11月に公開されたこの作品、女性監督として初めてカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞したジェーン・カンピオン監督が手掛け、既にヴェネツィア国際映画祭にて銀獅子賞受賞をはじめ、多くの賞レースを席巻している。

 映画を観ての第一印象は、雄大な自然の美しさ。その切り取り方の見事なこと。そして、そこにピンと張り詰める緊張感と流れる不穏な空気に、何度も息が詰まりそうになった。不意に足元を掬われるような驚きの展開に、居心地の悪い余韻が今でもずっと残っている。

 舞台は1920年代のアメリカモンタナ州。ベネディクト・カンバーバッチ演じるフィルと、ジェシー・プレモンス演じるジョージは、牧場を共同経営している。ある日弟ジョージが、キルステン・ダンスト演じるシングルマザーのローズと結婚するのだが、それが気に食わないフィルは、ローズと、その息子ピーターに冷たく接するのだ。ローズを追い詰めていくフィルの嫌がらせはむごく、精神を蝕んでいくような演出は圧巻。見えない不安や恐怖が背後から迫ってくるような感覚には共感できるものがあり、息が詰まる思いがした。

 この映画で表現されている〝怒り〟は、静寂な怒り。精神を病んだローズを救うために、息子ピーターはゆっくりと牙を向け、彼独自の復讐を試みる。コディ・スミット=マクフィー演じるピーターの鋭い眼差しは、鑑賞後もずっと目に焼き付いているほど印象深い。ミステリアスな彼の佇まいと、決して表には出さない、静かに沸騰していくような怒りの表現は、もはやホラー映画以上の恐ろしさを感じた。

 怒りを秘めていたのはピーターだけではない。実はフィルも、自分自身に大きな怒りを抱えながら孤独に生きていたのである。彼自身が己の真の姿を拒み、誰にも知られないよう、大きな壁を築き上げて生きている。カウボーイとして、大自然の中荒々しく振る舞う姿は、自身の本質を隠すための鎧だったのだ。フィルに隠された、自分自身への怒りを知った時、私はやっとこの映画へ感情移入することができた。

 誰にも言えない、大きな秘密を抱えながら、己に怒りの感情を抱く日々は、どんなに苦痛だっただろうか。その怒りの矛先は、自分の大切な家族を奪うローズや、自分とは対照的に、本質を曝け出して生きているピーターに向けられていたのだ。

 相手に直接的に感情をぶつけるだけが、〝怒り〟の表現ではない。表面上には出さず、ふつふつと内側で沸騰し続ける〝怒り〟も、自分自身への怒りが反射して他人に当たる〝怒り〟もある。この映画を観て、自分の中にもある〝怒り〟の表現を見つけられた。

 他人に曝け出すことのできない内なる感情や人間性が、丁寧に紡がれている『パワー・オブ・ザ・ドッグ』。是非登場人物達に心を傾けて観て頂きたい。

宮下かな子(みやした・かなこ)

宮下かな子(みやした・かなこ)

宮下かな子(みやした・かなこ) 1995年7月14日、福島県生まれ。舞台『転校生』オーディションで抜擢され、その後も映画『ブレイブ -群青戦記-』(東宝)やドラマ『最愛』(TBS)、日本民放連盟賞ドラマ『チャンネルはそのまま!』(HTB)などに出演。現在「SOMPOケア」、「ソニー銀行」、「雪印メグミルク プルーンFe」、「コーエーテクモゲームス 三國志 覇道 」のCMに出演中。趣味は読書、イラストを描くこと。Twitter〈@miyashitakanako〉Instagram〈miya_kanako〉

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【アミューズWEBサイト公式プロフィール】

最終更新:2022/05/09 16:27

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