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榊英雄・性加害報道を受けての『ハザードランプ』公開中止の意義

被害者や関係者を支配する構図

 性加害報道においての榊英雄の言い訳も吐き気を催すものだったが、園子温が示した直筆での声明も醜悪という言葉でも足りなかった。謝っているのは関係者とファンに対してであり、被害者への謝罪が全くないどころか「しかるべき措置を取る」と記す内容は、もはや「宣戦布告」であり「脅し」だ。

 これまでも、恐怖で被害者を支配し、関係者も押さえつける構図があったからこそ、性加害が今まで明るみに出なかったのだろうと、この文面からも容易に想像ができる。それを裏付けるかのように、園子温の性加害報道を受けて「園子温の噂は有名」などといった関係者の証言や、あわや性被害を受けそうになった俳優たちからのSNSでの告発も相次いでいた。つまり、「ようやく言えるようになった」のだから。

 映画界で活躍したいと願う方々の気持ちにつけこんで、性加害を繰り返していたことも最悪だ。強い権力を持つ監督や関係者が、その立場を利用して性行為を要求することそのものがまかり通っていて、それを「合意」の上での「与えられた当然の権利」だと正当化してきたかのような浅ましさも、木下ほうか、榊英雄、園子温それぞれの報道と、それぞれの「事実と違う点がある」という一文が共通している声明からも伺い知れる。

 3者は紛れもない性犯罪者であり、映画界からの追放はもちろんのこと、法律により罰せられることが必要だろう。それほどでなければ真の反省も謝罪もしないことが証明されたも同然であり、まだ業界内にいるであろうと同様の行為を続けてきた人間も断罪されるべき、ここで「膿」を出し切らなければらないだろう。

『ハザードランプ』を観たからこその絶望、そしてこれからの希望

 筆者は『ハザードランプ』を試写で鑑賞していたが、劇中では女子中学生連れ去り事件が発生したという設定があり、心神喪失や性被害を受けた女性の気持ちをおもんばかろうとすることが物語に大きく関わっていた。その作品の精神性が尊いものであったからこそ、榊英雄の性加害を踏まえると最悪な気持ちにさせられる。

 脚本家が別の方とはいえ、作品内で性加害をひどいものとして描く作家が、なぜ現実でそのひどいことができるのだろうと、絶望を感じるほどだったのだから。しかも、その前に公開中止になった『蜜月』もまた、性被害を描いた作品であったという。

 そして、『ハザードランプ』の劇中では山田裕貴と安田顕が、他のどんなことよりも「苦しんでいる(おそらくは性被害を受けたであろう)女性を助けることを何よりも優先する」というシーンがあった。不遜でミステリアスな役に扮した山田裕貴と、生真面目だが暗い影を感じさせる安田顕の演技は掛け値なしに素晴らしく、その2人の姿はとても美しいものとして、目に焼き付いていた。

 だからこそ、被害者の方を苦しめ、作品に関わったすべての人はもちろん、山田裕貴と安田顕のファンも裏切り、もはや人間とも認めたくないほどの悪逆的行為を働いた榊英雄のことを絶対に許せない。できる限りの重い罰が下ることを願うばかりだ。

 また、今回の一連の性加害報道を受けて、これまで容認されてきた監督やワークショップにおけるパワハラや暴力も問題視されるようになってきている。まだまだ、日本の映画業界が変わる「過渡期」だ。作り手も受け手もそれを強く意識し、ムーブメントを起こせば、きっと変わっていける。そのことを、希望としていきたい。

ヒナタカ(映画ライター)

「ねとらぼ」「cinemas PLUS」「女子SPA!」「All About」などで執筆中の雑食系映画ライター。オールタイムベスト映画は『アイの歌声を聴かせて』。

Twitter:@HinatakaJeF

ひなたか

最終更新:2022/04/16 17:20
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