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安倍晋三元首相の訃報、メディアは政治家を“偶像化”してはならない

安倍元首相の死を心から悼んでも、メディア政治家を“偶像化”してはならない

 安倍晋三元首相の突然の死で、永田町の勢力図がガラッと変わるかもしれない。

 新潮のこの記事は安倍元総理が亡くなる前の観測記事だが、安倍の実弟である岸信夫防衛相は、前の内閣改造では「人事の検討対象にならなかった」(総理周辺)そうだ。

 だが、本人の健康もすぐれず、車いすが欠かせない状況では、次の改造では外れるのは間違いないようだ。

 岸田首相は、その後任に同じ広島出身で当選6回の寺田稔を据えようと考えているという。寺田は財務省の出身で、官僚時代に防衛担当の主計官を務めた経験を持つ。

 新潮にいわせれば、財政規律を重んじる岸田首相は、安倍らが声高に唱えていた防衛費を「GDP比2%」への増額には、「数字を先に決めりゃあいいっていうのはおかしいでしょ」と周辺に語っていたという。

 また岸田首相は、安倍とそりの合わなかった福田康夫元首相の息子である福田達夫党総務会長の名前も上げているという。

 新旧首相の対立は深刻化しようとしていた。それが、安倍元首相の死で、力関係が崩れ、岸田一強の時代が来るのか、それとも、安倍の支えがなくなった岸田を追い落とそうという動きが表面化してくるのか。まだ予断は許さない。

 ところで、安倍晋三元首相が奈良県で応援演説中に狙撃されたという第一報を聞いて、社会党委員長の浅沼稲次郎が壇上で右翼青年に刺された事件を思い浮かべていた。

 青年の名は山口二矢という。後年、沢木耕太郎が彼のことを取材して書いた『テロルの決算』の中で、麻生良方という野党政治家のことが出てくる。浅沼の秘書をやっていた関係で、沢木が話を聞きに来たのだが、その場に、偶然だが私も居合わせた。

 週刊現代で麻生の連載を担当していた関係で、麻生のところへ遊びに行っていたのだ。

 事件が起きたのは1960年。安保闘争の火が燃え盛り、野党・社会党の存在感が増していた時代だった。

 浅沼には国民的人気もあり、彼が生きていたら、日本の政治も変わっていただろうと思わせる政治家であった。

 安倍元首相はウルトラ保守派だから、容疑者は左翼青年か。または、安倍がモリカケ問題をはじめとする数々の疑惑に答えないことに怒った人間の犯行か。一瞬そう思った。

 だが、今の時点で流れている情報では、安倍元首相の政治信条や疑惑に答えないことに反発してやったということではないようだ。

 同じ日の夕方。安倍元首相亡くなるの報が流れた。それを聞いて、今回の参院選は自民党が大勝するだろうが、安倍元首相の悲願であった「憲法改正」は、かえって難しくなったのではないかと思った。

 なぜなら、自民党が改憲派の日本維新の会、国民民主党を取り込んでも、公明党が同調するとは思えないからだ。支持母体の創価学会は当然のこと、改憲に賛成してしまえば、公明党がなぜ与党にいるのかという存在理由が失われるからである。

 どちらにしても、ここ10年、日本の政治の中心に居座り、道徳の教科化や集団的自衛権の行使、戦争のできる国への変容を推し進めてきた安倍長期政権の功罪は、彼の悲劇的な死を悼むこととは別に、冷静に評価されなくてはいけない。

 NHKはもとより、テレビ、新聞は、安倍元首相の死が発表されると、一様に、翼賛化してしまった。まるで、9・11の後のアメリカが「愛国法」をつくり、政府への批判を一切許さない、批判する奴は“売国奴”だという同調圧力を作り上げたのと同じようだ。

 ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポストさえもそうした世論の前に屈服したが、日本では、そんな法律ができる前に、メディアが率先して安倍元首相がいかに優れた宰相だったか、世界の首脳たちから高く評価されていたかを挙って報じた。

 人の死、それも非業の死を遂げた人を、心から悼むのは当然である。私も、彼の死を知って、思わず涙した。

 だが、安倍元首相を批判する奴は“非国民”という風潮がメディアに広がっているように感じられるのは、決していいことではない。

 選挙中ということもあるのは分かるが、山上徹也容疑者(41)がこれまでどういう人生を辿り、なぜ、安倍元首相を殺そうと考えたのかという「動機」を、メディアはなぜ総動員して取材しなかったのだろう。

 母親が特定の宗教団体に入れ込んで、カネをつぎ込んでしまったため、宗教団体と親しいという安倍元首相を殺そうと考えたという警察情報は流れてくるが、宗教団体名や事の真偽、彼がこれまで生きてきた人生について、すぐに突っ込んだ取材をしたメディアはなかった。

 宗教団体が統一教会だというのは、私が知る限り参院選の後である。

 もしこの警察情報が事実なら、山上容疑者に政治的な背景はないことになる。

 日本的な心情では、亡くなればみんないい人になるが、政治家はそうであってはいけない。

 悪戯に“偶像化”せず、安倍という政治家の功績はもちろんこと、負の遺産も検証することが求められているはずである。

 安倍政権時代に擦り寄り、媚びへつらったメディアの人間やトップたちは、安倍元首相からの呪縛を解き放ち、本来メディアがやらなければいけない役割を今一度、思い出すべきである。

 そうできなければ、この国の将来は危うい。そのことを肝に銘じるべきである。

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