日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > Perfume新曲とシティポップの未来
あのアーティストの知られざる魅力を探る TOMCの<ALT View>#18

Perfume「Spinning World」 US市場との同時代性と“シティポップ的”音楽の未来

アップデートを重ねていくザ・ウィークエンドとPerfume

(2/2 P1はこちら
 ザ・ウィークエンドは、ダークなオルタナティヴR&Bサウンドで2011年頃に頭角を現したが、その後80s色のあるポップ・ミュージックへと音楽性を進化させていった。ダフト・パンクを起用した『Starboy』(‘16)や、先行シングル「Blinding Lights」が大ヒットした『After Hours』(‘20)然り、「80s由来のサウンドをいかに現代的なエレクトロ・ポップに昇華させるか」という観点において、彼の作品群は2010年代後半以降のUS、ひいては世界市場をリードしてきたと言っても過言ではないだろう。

 『Dawn FM』のダンスチューンは「Sacrifice」や「Gasoline」をはじめ、どちらかというとドラムやメインリフのシンコペーションの効いたループでグルーヴを作っていく曲が多いかもしれない。ただ、それ以上に興味深いのがカルヴィン・ハリスやスウェディッシュ・ハウス・マフィアなど、EDM全盛期を支えた音楽家を積極的に参加させている点だ。カルヴィン参加曲である「I Heard You’re Married」はウィークエンド/カルヴィン双方の嗜好が見事に合致した80sヨーロッパ的なダンスポップに仕上がっており、アルバム中でも隠れた重要曲だろう。

 ウィークエンドのこうした歩みは、「テクノポップ」という呼称とともに世に出て以降、「グローバルと張り合える国産ポップ・ミュージック」としての注目を浴びながらアルバムごとに音楽性をアップデートしていったPerfumeのキャリアともどこか重なる部分がある。そして、「Spinning World」はこうしたシンクロ性を感じさせる最高のタイミングでリリースされたように思えてならない。

「Spinning World」が照らす、2020年代型シティポップとPerfumeの未来

Perfume「Spinning World」 US市場との同時代性と“シティポップ的”音楽の未来の画像
写真/Getty Imagesより

 先述のように、シティポップ的な音楽がインターネットのアンダーグラウンドシーンから火が点いてから、すでにおよそ10年が経とうとしている。海外ではアメリカ西海岸を筆頭に、シティポップの源流に当たるヨットロック(日本でいう「AOR」)やシンセ・ファンクを意識した作品がここ10年多数リリースされており、いま80s~シティポップ的な音楽性を発表する際には、そうした先行作品群の厳しいハードルが存在することを忘れてはいけない。

 例えば、カルヴィンの『Funk Wav Bounces Vol. 2』の音楽誌上のレビューには「プロダクション面が贅沢でも曲自体は冴えない」(英ガーディアン誌)、「ディスコやブギーといった音楽性を借りてきた際の彼の音楽性は没個性的で(悪い意味で)ストリーミングのプレイリスト向け」(ピッチフォーク)といった、そのクオリティからすれば驚くほど辛辣なものが多い。一方、ウィークエンド『Dawn FM』は「架空のラジオ局をテーマにしたコンセプトアルバム」として肯定的な評価が多く、ただ特定のサウンドを持ち込むだけでなく、音楽家としてのスタンスや自己プロデュース性も含めて総合的に評価されていることが分かる。その点で、従来のエレクトロポップ的な音楽性も存分に反映させたPerfume「Spinning World」は、個人的にはそうしたハードルを見事に乗り越えた楽曲に思える。

 Perfumeは、『COSMIC EXPLORER』(’16)が米ローリング・ストーン誌の「ベスト・ポップ・アルバム TOP20」において年間16位に選出されるなど、日本のメジャーレーベル所属のアーティストとしては宇多田ヒカルらと並び、比較的海外メディアから好意的なレビューを受ける機会の多いユニットである。Perfumeおよび中田ヤスタカが今後どのような音楽を制作し、世界のリスナーにどのように親しまれていくのか、期待を持っている音楽ファンも多いだろう。常に高い目標を掲げて躍進を続けてきた彼女たちの、さらなる成功を心から願いたい。

♦︎
本稿で紹介した楽曲を中心に、Perfume「Spinning World」を一層楽しむための楽曲をまとめたプレイリストをSpotifyに作成したので、ぜひご活用いただきたい。

B’z、DEEN、ZARD、Mr.Children、宇多田ヒカル、小室哲哉、中森明菜、久保田利伸、井上陽水など……本連載の過去記事はコチラからどうぞ

TOMC(音楽プロデューサー/プレイリスター)

Twitter:@tstomc

Instagram:@tstomc

ビート&アンビエント・プロデューサー/プレイリスター。
カナダ〈Inner Ocean Records〉、日本の〈Local Visions〉等から作品をリリース。「アヴァランチーズ meets ブレインフィーダー」と評される先鋭的なサウンドデザインが持ち味で、近年はローファイ・ヒップホップやアンビエントに接近した制作活動を行なっている。
レアグルーヴやポップミュージックへの造詣に根ざしたプレイリスターとしての顔も持ち、『シティ・ソウル ディスクガイド 2』『ニューエイジ・ミュージック ディスクガイド』(DU BOOKS)やウェブメディアへの寄稿も行なっている。
Spotify
Apple Music

とむしー

最終更新:2023/04/28 16:52
12
ページ上部へ戻る

配給映画

トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • twitter
  • feed
特集

【4月開始の春ドラマ】放送日、視聴率・裏事情・忖度なしレビュー!

月9、日曜劇場、木曜劇場…スタート日一覧、最新情報公開中!
写真
インタビュー

『マツコの知らない世界』出演裏話

1月23日放送の『マツコの知らない世界』(T...…
写真
人気連載

水原解雇に間に合わなかった週刊誌スクープ

今週の注目記事・1「水原一平“賭博解雇”『疑...…
写真
イチオシ記事

さや香、今年の『M-1』への出場を示唆

 21日、『アメトーーク!』(テレビ朝日系)で「賞レース2本目やっちまった芸人」の完結編が放送された。この企画は、『M-1グランプリ』(同)、『キ...…
写真