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極限状態に放り込まれるエンタメ盛り盛り映画『人質』と『ビースト』の魅力

『ビースト』:お父さんのイドリス・エルバVS憎悪に満ちたライオン

極限状態に放り込まれるエンタメ盛り盛り映画『人質』と『ビースト』の魅力の画像3
C) 2022 UNIVERSAL STUDIOS. All Rights Reserved.

 この『ビースト』の内容も「妻を失ったばかりの男が、娘2人と友人と共に、サバンナの僻地に取り残され、決死のサバイバルを繰り広げる」とシンプル。死体が映ったり、深い傷を負うなどのショックシーンはあるものの、過度の残酷描写は避けられており、親子で楽しめるファミリームービーと言ってもいい仕上がりになっていた(さすがに小さいお子さんには、怖すぎると思うのでおすすめはしないが)。

 賞賛すべきは、本物そのものとしか思えないライオンのCGIと、カットをあまり割らない「長回し」の撮影だ。ライオンと人間のバトルそのものがド迫力であるし、その前に登場人物の側を追うカメラワークで舞台の「構造」をじっくりと見せておき、「その場所でライオンに襲われたらどうなるか」を想像させることで、よりハラハラドキドキのシチュエーションに没入できるという効果も生んでいた。

 また、序盤には長女が『ジュラシック・パーク』(1993)のTシャツを着ているという場面がある。子ども2人が(大人の助けも借りながら)恐るべき生物と戦いつつも逃げる様が『ジュラシック・パーク』そのものであるし、さらに終盤にはそのオマージュと言えるサスペンスシーンが用意されているのもたまらない。加えて、主人公が医者という設定が作劇に活かされている様は、サメ映画の近年の傑作『ロスト・バケーション』(2016)を思わせるところもあった。

 そして、 『ワイルドスピード/スーパーコンボ』(2019)や『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結。』(2021)などで活躍が目覚ましいイドリス・エルバの演技力を存分に堪能できる内容でもある。屈強な体つきは(それでもライオンには敵わないと思うも)頼りになる一方、妻を失った自責の念による精神的な弱さも序盤の振る舞いから大いに伝わってくる。その友人役のシャルト・コプリーも、主人公や少女2人から慕われる説得力を持たせていた。

極限状態に放り込まれるエンタメ盛り盛り映画『人質』と『ビースト』の魅力の画像4
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 基本的には「怖くて面白かった~!」と観終えることのできる娯楽作であるが、「密猟」という現在進行形の社会的問題にも鋭く斬り込んでいる。劇中のライオンは密猟の「被害者」と思える背景もしっかり描かれていて、本来は捕食のためだけに動物を襲うはずのライオンが、強い憎悪のために人間を襲おうとしている様は恐ろしくも悲しいものがあった。

 そして『人質』も『ビースト』も、やはり「一手を間違えば死ぬ極限状態に放り込まれる」からこそ、そのシンプルなアイデアを最大限に生かして観客を楽しませようとする作り手の意志が存分に伝わるからこそ、映画館という没入できる環境で観てほしいと強く願う。良い意味で「こんな目には絶対に逢いたくない!」擬似体験をすることも、映画の魅力の1つであることも、改めて認識できるだろう。

 

 

極限状態に放り込まれるエンタメ盛り盛り映画『人質』と『ビースト』の魅力の画像5
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『人質 韓国トップスター誘拐事件』
9月9日(金) シネマート新宿ほか全国ロードショー
監督・脚本:ピル・カムソン
キャスト:ファン・ジョンミン、キム・ジェボム、イ・ユミ、リュ・ギョンスほか
2021年製作/韓国/韓国語/94分/シネスコ/5.1ch/原題:인질
字幕翻訳:根本理恵/提供:ツイン、Hulu/配給:ツイン
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『ビースト』
9月9日(金)全国公開
監督:バルタザール・コルマウクル
出演:イドリス・エルバ、シャールト・コプリー、イヤナ・ハーレイ、リア・ジェフリーほか
製作:ウィル・パッカー、ジェームズ・ロペス
脚本:ライアン・イングル
製作総指揮:ジェイミー・プリマック・サリヴァン、バーナード・ベリュー
原題『BEAST』
配給:東宝東和
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ヒナタカ(映画ライター)

「ねとらぼ」「cinemas PLUS」「女子SPA!」「All About」などで執筆中の雑食系映画ライター。オールタイムベスト映画は『アイの歌声を聴かせて』。

Twitter:@HinatakaJeF

ひなたか

最終更新:2022/09/09 11:00
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