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社会がみえる映画レビュー#2

豊川悦司が惚れ惚れするほどの暗殺者に…『仕掛人・藤枝梅安』が描く人殺しの無情さ

豊川悦司が惚れ惚れするほどの暗殺者に…『仕掛人・藤枝梅安』が描く人殺しの無常さの画像1
C)「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社

 2月3日より映画『仕掛人・藤枝梅安』が公開されている。原作は池波正太郎のベストセラー時代小説であり、「必殺シリーズ」の翻案元としても知られた作品だ。

 出演者は主役の豊川悦司を筆頭に、片岡愛之助、菅野美穂、早乙女太一、柳葉敏郎、天海祐希など豪華。池波正太郎生誕100年という記念すべき年に映画として蘇った本作は、娯楽として楽しめるだけでなく、現代で観られる意義も確かにある作品だった。その理由を記そう。

暗殺者を主人公にしたダークヒーローもの

 あらすじはこうだ。表向きには腕の良い鍼医者である藤枝梅安は、生かしておいてはならない者を闇に葬る冷酷な仕掛人という裏の顔があった。ある日、料理屋のおかみの仕掛を依頼された梅安は、3年前に自身が仕掛けた人物との因縁を思い知ることになる。

 端的に言えば、この『仕掛人・藤枝梅安』は「暗殺者を主人公にしたダークヒーローもの」だ。しかし、依頼を受けて、その依頼通りに悪人を暗殺して、それで解決して終わり、という単純な話ではまったくない。

 料理屋で働く者たちの愛憎渦巻く感情、主人公である梅安の生い立ち、とある「秘密」までもが絡み合い、かなり複雑な人間関係と心理が描かれている。過去と現在も交錯する、非常に入り組んだ物語ではあるが、一方で語り口そのものは理路整然としているので大きく混乱することはないだろう。豪華俳優陣の演技と、劇場映えするリッチな画もあって、のめり込んで観られるはずだ。

 そして、直近で『あちらにいる鬼』『そして僕は途方に暮れる』と映画で立て続けに良い意味でドン引きしてしまうほどの(でも色気たっぷりの)クズを演じていた豊川悦司が、今回は打って変わって惚れ惚れするほどにカッコいい。仕掛をする時の裏の顔だけでなく、本格的な鍼の指導も受けたという、表向きの鍼医者としての姿の説得力にも注目してほしい。

人は善と悪の両面を持つ矛盾した存在である

豊川悦司が惚れ惚れするほどの暗殺者に…『仕掛人・藤枝梅安』が描く人殺しの無常さの画像2
C)「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社

 もちろん、この複雑なプロットは、ただいたずらにこんがらがっているというわけではない。その根拠の1つが、エグゼクティブ・プロデューサーを務めた宮川朋之が、池波正太郎が作品の中で描き続けたテーマについて「人は悪いことをしながら、一方では善いこともする矛盾した存在である」を挙げていることだ。

 それはまさに、暗殺者である一方で、鍼医者でもある主人公の梅安のことを指している。金をもらって人殺しをしているかと思いきや、人の命を救い慕われてもいる。これほどわかりやすく矛盾した存在もなかなかないだろう。

 だが、矛盾を抱えているのは彼だけではない。劇中には完全に悪党だと断言できる者もいるが、暗殺を依頼する者、普段から関係する者の多くは、善と悪の両面を持ち合わせた、やはり矛盾した存在に見えてくる。それでいて、彼ら彼女らの屈折した、しかし切実な気持ちは十分に理解できる。そのために、複雑なプロットが必要だったとわかるのだ。

悪人を殺してハッピーエンドにはしない意義

豊川悦司が惚れ惚れするほどの暗殺者に…『仕掛人・藤枝梅安』が描く人殺しの無常さの画像3
C)「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社

 当たり前のことだが、どれだけ美辞麗句を並べようとも、人殺しは正義などではない。いや本人が正義だと考えて人殺しをした(または頼んだ)としても、そこには苦々しさや後悔、はたまた人の怨念など、負の側面ばかりが残り続ける。

 『仕掛人・藤枝梅安』は、そうした面を持って「悪人を殺してハッピーエンド」には決してしない作品だ。人殺しはあくまで人殺し。一時的に恨みを晴らせたとしても、それで問題の根本的な解決になるはずもないし、そもそも肯定してはならない。それは、ある意味で無情ではあるが、ある意味では真実。劇中の江戸時代に限らず、テロリズムや軍事侵攻が起きる現代、元首相の暗殺事件が起きた日本でも、まったく他人事ではないことだ。

 もちろん、悪人を成敗してスカッと爽やかな気分になれるタイプの創作物があっても良い。だが、この映画『仕掛人・藤枝梅安』は良い意味で全く真逆だ。前述してきた複雑で矛盾した人の思いを描いた先にある、「人殺しという行為の無情さ」を描いたことにこそ、現代に蘇る意義を感じさせたのだ。

『2』はエンタメ性マシマシの内容に

豊川悦司が惚れ惚れするほどの暗殺者に…『仕掛人・藤枝梅安』が描く人殺しの無常さの画像4
C)「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社

 『仕掛人・藤枝梅安』は二部作であり、4月7日公開の『仕掛人・藤枝梅安2』へと続く。とはいえ、物語にははっきりと区切りがあり、どちらか1本だけで十分に楽しめるようになっている。

 『1』がゆったりしたテンポで紡ぐ複雑な会話劇中心の内容であったのに対し、この『2』は「相棒の復讐を手伝う」という、はじめはシンプルな物語。さらにキレのある剣劇シーンも増え、エンターテインメント性がかなりアップしていた。それでいて、人の愛憎渦巻く矛盾した思惑が絡む様や「人殺しという行為の無情さ」で両者は一致している。

 さらに、こちらでは椎名桔平、佐藤浩市、一ノ瀬颯が新たに参加し、さすがの存在感と演技を見せている。彼らの思惑や価値観がどのように交錯し、何が起きるのか。楽しみにしてほしい。

「必殺シリーズ」的なテレビアニメも放送中

 偶然というべきか、この『仕掛人・藤枝梅安』と同日公開の『「鬼滅の刃」上弦集結、そして刀鍛冶の里へ』は、「昔の日本で周りから虐げられてきた者たちを描く」「生かしてはおけない者(鬼)を殺す目的を持った者たちがその場所に赴く」ことが一致している。

 さらに余談だが、現在放送中のテレビアニメ『REVENGER(リベンジャー)』も「必殺シリーズ」的な内容で、やはり依頼を受けて暗殺に挑む様を、しかも「チームもの」として描く時代劇だったりする。

 こちらの脚本を手がけたのは『魔法少女まどか☆マギカ』などで知られる虚淵玄で、第1話のラストで実に「らしい」展開が待ち受けていた。こうした作品が同時多発的に世に送り出されるというのも面白い。ぜひ、見比べてみてほしい。

『仕掛人・藤枝梅安㊀㊁』
【第一作】2月3日(金)【第二作】4月7日(金)全国劇場で二部作連続公開
監督:河毛俊作
脚本:大森寿美男
豊川悦司 片岡愛之助 菅野美穂 / 天海祐希 / 佐藤浩市
C)「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社

ヒナタカ(映画ライター)

「ねとらぼ」「cinemas PLUS」「女子SPA!」「All About」などで執筆中の雑食系映画ライター。オールタイムベスト映画は『アイの歌声を聴かせて』。

Twitter:@HinatakaJeF

ひなたか

最終更新:2023/02/06 14:32
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