日刊サイゾー トップ > カルチャー > 映画  > 共感度ほぼゼロの高所スリラー
バフィー吉川の「For More Movie Please!」#3

フォロワー6万人もネットがなけりゃ無力! 共感度ほぼゼロの高所スリラー『FALL/フォール』

フォロワー6万人もネットがなけりゃ無力! 共感度ほぼゼロの高所スリラー『FALL/フォール』の画像1
© 2022 FALL MOVIE PRODUCTIONS, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

バフィー吉川の「For More Movie Please!」
第3回目は『FALL/フォール』をget ready for movie!

 さまざまなシチュエーション・スリラーがある中で、ここまでストレートで自業自得なものがあっただろうか。600メートルの電波塔に登って戻れなくなってしまったというおバカな設定の映画『FALL/フォール』が2月4日より公開中だ。

 トラウマを克服させようとして、あえてトラウマ体験をさせるという明らかに間違った方法をとる友人も友人だが、それについていく主人公も主人公だ。ほかの方法がもっとあるように思えるのだが……。

フォロワー6万人もネットがなけりゃ無力! 共感度ほぼゼロの高所スリラー『FALL/フォール』の画像2
© 2022 FALL MOVIE PRODUCTIONS, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

 普通の感覚なら、数十メートルの電柱にすら登りたくない。ましてや600メートルもある電波塔に登ろうという発想がないだけに、主人公たちは、そもそもネジがぶっ飛んでいる状態だといえるだろう。

 入り口からして共感とは程遠いものになっているし、法に触れる迷惑行為以外の何ものでもない。高すぎて電波も届かず、食料もほとんどない中でどうサバイブするのか?! といった状況で心理描写が描かれるものの、事の発端を考えるとあまり集中できない。

 監督のスコット・マンと脚本のジョナサン・フランクによるコンビは、『タイム・トゥ・ラン』(15)や『レッド・ダイヤモンド』(2016)など「未体験ゾーンの映画たち」では常連のコンビであり、もともとシンプルな物語のB級作品が多く、そこまでストーリー性は期待できないかもしれないが、この題材で一本の映画を作ったことは、もはやリスペクトにも値するといえるだろう。

【ストーリー】
山でのフリークライミングの最中に夫・ダンを落下事故で亡くしたベッキーは、悲しみから抜け出せず1年が経とうとしていた。ある日、ベッキーを立ち直させようと親友のハンターが新たにクライミングの計画を立てる。今は使われていない地上600mのモンスター級のテレビ塔をターゲットとして選んだ彼女たちは、老朽化で足場が不安定になった梯子を登り続け、なんとか頂上へと到達することに成功する。そこでベッキーは夫の遺灰を空から撒くことで、彼を偲び、新たな1歩を踏み出す決意を示すが、それもつかの間、彼女たちに次々と困難が襲いかかる! 自分たちの持つ技術と知識をフル活用して、どうにかこの危機を抜け出そうとするが…高所で巻き起こる恐怖の数々にあなたは耐えられるか!?

描きたかったのは家族の大切さ……なのか?

フォロワー6万人もネットがなけりゃ無力! 共感度ほぼゼロの高所スリラー『FALL/フォール』の画像3
© 2022 FALL MOVIE PRODUCTIONS, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

『13日の金曜日』が若者の性の乱れを描いているし、『ハロウィン』も暴力性の連鎖を描いているなど、どんな時代でもホラーというものは常に作り手の嫌うものや社会問題を題材としてきた。そう考えると、最近のホラーやスリラーはYouTuberやインフルエンサーがターゲットになることが圧倒的に多くなってきている理由に気付くはず。

 つまり映画人たちは、口にこそ出さないだけで、そういった層を嫌っている人が多いのだろう。ホラーだけに限らず『ザ・メニュー』(22)や今月公開の『逆転のトライアングル』などを観てもそう感じる。

 ところが結局は、宣伝的にそういった層の力が必要不可欠になっている状況にもイラ立っているのだろう。またそれをYouTuberやインフルエンサーが何も違和感持たず宣伝しているのだから、改めて考えるとなかなかおかしな時代だ。

 SNS自体が悪いと思ってはいないだろうが、社会システムの一部として、日常的になり過ぎることで、実際の大切な人とネット上の見えないフォロワーを混合してしまうことへの危機感を持ってほしいと本作は言いたいのではないだろうか。

フォロワー6万人もネットがなけりゃ無力! 共感度ほぼゼロの高所スリラー『FALL/フォール』の画像4
© 2022 FALL MOVIE PRODUCTIONS, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

 ネットが繋がらなかったらインフルエンサーは無力。世界中の人々とアクセスできて、いくら数千、数万のフォロワーがいたとしても、結局頼りになるのは親族など本当に大切に思ってくれている人、隣にいつもいてくれて心配してくれている人。いつの時代も大切なのは家族や友人だという、人間関係の本質に戻ってくる。

 そこまで深く考えて制作しているかは疑問ではあるものの、最近は『ウォーキング・デッド』のニーガン役としてお馴染みのジェフリー・ディーン・モーガンが哀愁漂う渋い父親役を演じているのは見どころといえるだろう。

 

『FALL/フォール』
2023年2月3日(金)新宿バルト9ほか全国ロードショー

監督:スコット・マン
脚本:ジョナサン・フランク、スコット・マン
音楽:ティム・デスピック
編集:ロブ・ホール
撮影:マクレガー
プロダクションデザイン:スコット・ダニエル
製作:ジェームズ・ハリス、マーク・レーン、スコット・マン、クリスチャン・マーキュリー、デヴィッド・ハリング
出演:グレイス・フルトン、ヴァージニア・ガードナー、ジェフリー・ディーン・モーガン、メイソン・グッディングほか
2022年/アメリカ/英語/スコープサイズ/5.1ch/106分/原題:FALL
字幕翻訳:北村広子/配給:クロックワークス
公式サイト: https://klockworx-v.com/fall/ 

バフィー吉川(映画ライター・インド映画研究家)

毎週10本以上の新作映画を鑑賞する映画評論家・映画ライター。映画サイト「Buffys Movie & Money!」を運営するほか、ウェブメディアで映画コラム執筆中。NHK『ABUソングフェスティバル』選曲・VTR監修。著書に『発掘!未公開映画研究所』(つむぎ書房/2021年)。

Twitter:@MovieBuffys

Buffys Movie & Money!

ばふぃーよしかわ

最終更新:2023/03/03 20:17
ページ上部へ戻る

配給映画

トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • x
  • feed