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バフィー吉川の「For More Movie Please!」#9

仮面ライダーが一番描くべきテーマをスルーしてしまった『シン・仮面ライダー』

仮面ライダーが一番描くべきテーマをスルーしてしまった『シン・仮面ライダー』の画像1
『シン・仮面ライダー』公式Twitter(@Shin_KR)より

バフィー吉川の「For More Movie Please!」
第9回目は『シン・仮面ライダー』をget ready for movie!

『シン・ゴジラ』(2016)、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(21)、『シン・ウルトラマン』(22)に続く「シン・ジャパン・ヒーローズ・ユニバース」の最終作となるといわれている『シン・仮面ライダー』がついに公開され、話題を呼んでいる。

 監督の庵野秀明といえば、クリエイターである以前に、アニメ・特撮オタク。『シン・ウルトラマン』ではディープな特撮オタクにしかわからないネタが敷き詰められており、“素人”は置き去りでも構わないというようなスタンスが逆にブランドして確立した作品といえるだろう。

 全体的な構成もダイジェストのようであるのは、70~80年代の「東映まんがまつり」や「東宝チャンピオンまつり」といった、多数のアニメや特撮を同時上映するものの中で、テレビ版を編集したものも新作に紛れて上映されていたこともあって、そういった上映スタイル、つまりテレビシリーズが実際にあって、その編集版であるかのように演出されているのだから、これもひとつのネタとして理解することで楽しむことができる。

 冒頭のクモオーグとの対決シーンでは、「仮面ライダー」第1話「怪奇蜘蛛男」のロケ地である奥多摩の小河内ダムをそのまま使用していることや、当時の特撮感を出すためのチープで雑なカメラアングル、「仮面ライダー」だけに限らず「ロボット刑事K」や「人造人間キカイダー」、「イナズマン」といった石ノ森章太郎作品ネタ、原作ネタなどがいたるところに散りばめられており、今作も特撮オタク熱量全開で素人に全く配慮しない作品となっている。

 それはそれで良いのだが、今作は「仮面ライダー」という作品を愛している人が作ったとは思えないほどに、決定的に欠けてしまっている部分があった……。

【ストーリー】
謎の女性緑川ルリ子を連れて謎の組織「SHOCKER」の追手から逃げることになった本郷猛。その中で、自分の体が何か別のものに変わっていることに気付き、さらに恩師である緑川博士によって改造人間にされてしまったことを告げられる。しかし脳は改造されていなかったことから、人間の時の意識が残っている本郷は、自分の置かれている立場に困惑しながらも、ルリ子を守り、SHOCKERと戦う運命に立ち向かうことになる……。

決定的に欠けていた「仮面ライダー」の重要なテーマ

 庵野秀明らしいオタクネタのオンパレードからは、特撮愛、仮面ライダー愛を感じるし、怪人のデザインは当時感を活かしつつも現代的でスタイリッシュになっていて、見ているだけで楽しい。

 だからこそ、「仮面ライダー」という作品を理解していると思っていた庵野監督が、重要なテーマをスルーしてしまっていることが悲しくてならない……。

 それは、人間ドラマがドライで機械的過ぎることだ。

『シン・ウルトラマン』の場合も、人間ドラマでいうと、かなりドライで機械的に仕上がりになっていたものの、それがなぜ通用したかというと、ウルトラマンは宇宙人だからである。つまりドライであることが、人間性を学ぶウルトラマンの視点としては、逆にリアルに感じてスルーされていた問題点だったのだ。だが、今回はそうはいかない。

 なぜなら、「仮面ライダー」という作品のメインテーマが、「改造人間であることの哀しみ」であるからだ。

 自分の意思とは関係なく、仮面ライダーに改造されてしまった本郷猛は、自分の呪われた運命に悩み、葛藤し、孤独感を抱えながら生きていく中で、正義のヒーローとして目覚めていく過程を描いている。それこそが「仮面ライダー」という作品が描こうとしていたことであった。

 しかし当時は、あくまで子ども番組という前提であることから、人間ドラマの部分はざっくりと描かれていた。そんな中でも、そういったテーマ性は感じられていたものだったが、今作には、それが全く感じられない。

 なぜなら主人公である本郷猛が改造人間であることをすんなりと受け入れてしまうからだ。全く描かれていないわけではないし、冒頭やセリフ内で多少触れられることはいるのだが、葛藤も何もないといった感じで、「仮面ライダー」という作品が何を描こうとしているのかを全くはき違えているようにしか思えないのである。

 オタクネタや構成がダイジェスト的なことは置いといて、まずそういった細かい演出をする前に、「仮面ライダー」という作品、特に1作目を現代に蘇らせるということは、当時したくてもできなかった、重圧な人間ドラマを、まず第一に取り入れるべき、取り入れないといけないのである。

『シン・仮面ライダー』という作品は、仮面ライダー愛は確かに詰まっているかもしれないが、何より魂がこもっていない。おもしろいとかつまらない以前に、やってはいけないことをやってしまった気がするのだ。

「仮面ライダー」を理解しているはずの庵野監督がこれを作ってしまったことは、悲しいとしか言いようがない……。

『シン・仮面ライダー』
脚本・監督:庵野秀明
出演:池松壮亮、浜辺美波、柄本佑、西野七瀬、塚本晋也、手塚とおる、松尾スズキ、森山未來ほか
原作:石ノ森章太郎 
制作:東映、シネバザール 
配給:東映
製作:「シン・仮面ライダー」製作委員会
映画公式サイト:https://shin-kamen-rider.jp 

バフィー吉川(映画ライター・インド映画研究家)

毎週10本以上の新作映画を鑑賞する映画評論家・映画ライター。映画サイト「Buffys Movie & Money!」を運営するほか、ウェブメディアで映画コラム執筆中。NHK『ABUソングフェスティバル』選曲・VTR監修。著書に『発掘!未公開映画研究所』(つむぎ書房/2021年)。

Twitter:@MovieBuffys

Buffys Movie & Money!

ばふぃーよしかわ

最終更新:2023/03/30 12:00
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