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日刊サイゾー「勘違いの地方創生」第8回

怒涛の旅行ブーム到来、コロナ禍で準備を怠った者は消えていく…

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 いま日本の各地で「地方創生」が注目を浴びている。だが、まだ大きな成功例はあまり耳にしない。「まちおこし」の枠を超えて地域経済を根本から立て直すような事例は、どうしたら生まれるのだろうか?

 本企画では、栃木県小山市にある白鴎大学で、都市戦略論やソーシャルデザイン、地域振興を中心とした研究を行う小笠原伸氏と、各地方が抱える問題の根幹には何があるのかを考えていく。

 第8回の今回は、この春に訪れるであろう観光ブームについて取り上げる。本連載では約1年半前、「新型コロナウイルス収束後には空前の観光ブームが巻き起こる」と予見していた。果たしてその頃から、各地域はどう変化してきたのか――。

――2021年11月の本連載で「ポスト新型コロナでとんでもない観光ブーム到来?」という記事を出しました。1年半近く経ち、このところ全国で観光客が増えつつあると報じられています。実際、東京でも特に新宿や渋谷を歩くと以前のように外国人観光客で混み合っているのを感じるようになりました。

小笠原 この春から、いよいよ全国各地でお客さんが急激に戻ってくるでしょう。当座の状況としては以前より感染者数が減って見えたりマスク着用が個人の判断に委ねられたり、こうしたムードの影響は大きいです。私はウイルス関係の専門家でも疫学者でもないので何が正しいかを判断できる立場にはありませんが、「そういうふうに見える」ことは非常に重要で、観光・旅行をしたいと考える人が出てくるのは当然です。

 ただ問題は、それを受け止める側の準備ができているかどうかです。

――以前の記事では、2021年春の時点で小笠原さんがかかわっている自治体には「これから観光が一気に盛り上がる」と伝えているとおっしゃっていました。その当時はどんな反応だったんでしょう?

小笠原 みなさん、非常に怪訝な顔をされていました。まだまん延防止等重点措置があったり「外出は控えましょう」といわれていましたから。そして2年たった今でも、若干首を傾げている感じは否めません。

――2020年夏にはGoToキャンペーンがあったり2022年秋にも旅行支援が行われたりと、国をあげて観光を盛り上げる動きは、この2年の間にもありました。それでもまだ実感は生まれていない?

小笠原 当時はキャンペーンを推進しようとすると感染者が増えるような状況がありましたから、懐疑的にならざるを得なかったんだと思います。国から支援が入ることになって「じゃあやろうか」と腰を上げた途端に感染者数が増えて「やっぱり中止です」ということが重なった。アクセルを踏みながらブレーキを踏むような事態が続けば、多くの人は疑心暗鬼になりますよね。

 この3年、観光業の方々は本当に大変だったと思います。仕事がないとなれば事業を縮小したり人員カットをせざるを得ないのは仕方のないことです。公的支援で食いつないだ事業者さんもたくさんいました。だからこそ、3年たって「さぁ、ここから状況が変わりますよ」となっても、まだ頭が追いつかない部分があるんじゃないでしょうか。人員確保を含めて、用意ができていないところも多いのではないかと危惧しています。

――人手不足の問題はすでに顕在化しているようですね。帝国データバンクが2023年1月に行ったアンケートでは、人手不足を感じている業種で「旅館・ホテル」がトップになっています。
https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/p230207.html

小笠原 そうですね。今年、観光業界の採用は空前の売り手市場といわれています。ただ、新卒採用された人たちが主役になるには数年かかります。その期間をどう乗り切るのか、心配なところではあります。

――当面の対策としてはどんなものが考えられるのでしょうか。

小笠原 ICTやロボット技術の活用など、たとえば非接触型の決済システムを導入することはすぐできますよね。以前から観光業をはじめとしたサービス業の世界はテクノロジーがなかなか入ってこないと指摘されていました。でもこれもこの数年でかなり事情が変わってきました。

――チェックイン・チェックアウトを無人で済ませられるホテルチェーンが一気に増えましたね。利用しましたが、かなり楽だし便利だなという実感です。

小笠原 無人で時間をかけずにチェックイン・チェックアウトができるって、すごい価値ですよね。一方で、高級ホテルでは人間が全部やっている。人間が対応するのは確かに丁寧で上質でしかし一方で今やすごく高コストなサービスになっています。それを高付加価値と思う人もいるし、そうではないサービスがあってもいいんです、そこには正解がないわけですから。

 人口が減って人手不足が前面化する中で、今までのように人的資源を投入して事業を拡大していくことはもはや望めなくなっています。その状況下で「コロナ禍前のやり方を取り戻そう」としてしまうと非常にまずい。これはぜひ言っておきたいところです。3年前に戻そうとするのではなく、新しい価値を生むための取り組みがどれだけできているか。これが分水嶺になってきます。

星野リゾート、マリオット…体力と先見性を兼ね備えた事業者は何をしていたか

――苦境を強いられた3年の間に、新しい価値を生むことを見据えて準備できた観光事業者は存在するのでしょうか。

小笠原 星野リゾートはやはりすごいですよ。やらなきゃいけないことを着実にやっています。都市型ホテル「OMO5」を全国各地に着々と開業していますよね。あれはコロナ禍以降のマイクロツーリズムの隆盛を予見した動きを継続して取り組んでいるのでしょう。それから、マリオットが道の駅に併設したホテル事業を展開しているのもたいへん面白い動きだなと思って見ています。積水ハウスと組んで行っている「地方創生事業『Trip Base 道の駅プロジェクト』」ですね。これもコロナ禍でも順調に数を増やしています。つまるところ、体力があってビジョンがある方々が着々と積み上げてきたものが、この春にそろそろ芽を出すのかなと。

――2020年10月の開業以来、「フェアフィールド・バイ・マリオット」はかなりハイペースで増えていますね。今年だけでさらに7軒開業予定です。

https://www.sekisuihouse.co.jp/company/topics/topics_2021/20211029/

小笠原 「観光客を取り入れたいけど宿泊施設がない」という自治体さんは結構あるんです。そのときに、ノウハウも仕組みも全部持っていて後はハコをつくるだけの事業者さんの存在はありがたいでしょう。高速バスや自家用車で道の駅にアクセスしてもらってそこで飲食して、さらに泊まってもらって、地元に年間何千人も宿泊者数が増えましたとなれば、地域的にはたいへんハッピーです。

 ただ私としては、本来の地方創生の趣旨でいうならば、宿泊施設は地元の事業者さんがつくるのがセオリーだと考えています。

――以前の記事でも「いちばん手っ取り早いのは東京からホテルチェーンを誘致することだが、それでは結局地元に少しばかりの雇用が生まれるにすぎない」と指摘されていました。

小笠原 その通りです。地元に落ちるお金を考えるなら、地元の人たちがお金を出し合って小さくてもいいから自前で宿泊施設をつくったほうがいい。これは私がずっと繰り返し言っていることです。でも現実的には難しいでしょうね。ですので、道の駅にホテルチェーンを呼びたがる気持ちは非常によくわかります。

 一方で今、さまざまな地域で地元の皆さんが中心になって小さな宿泊施設が増えているという肌感覚もあるんです。これはまさに、地域の中でちゃんとお金を回していこうという考え方の現れだと思って見ています。

――ビフォアコロナ/アフターコロナで、地方創生の観点から観光という領域で最も大きな変化が起きるポイントはどこだと考えていますか?

小笠原 団体旅行というものはいよいよ消えるかもしれません。そうすると、何百人も泊まれる大きな温泉ホテルなどは必要性がなくなっていきますよね。代わりに、家族や友人同士などの少人数で、多少高くてもいいから小さくて素敵な宿に泊まって近くでご飯を食べて、というスタイルの旅行が増えていくと考えられます。

 でもこれって、コロナ禍以前から起きていた変化ですよね。団体旅行に行く機会は減り続けていたし、少人数でちょっといいものをという志向は高まっていた。これもまたこの連載で何度も言っている通り、コロナ禍は時計の針を思い切り進めたんです。その前から「これはもうそろそろダメだね」「ここは変えないといけない」となっていたものが消える速度を早めた。だから重要なのは、コロナ禍を経て新しく生まれ変われるかではなく、以前から変えなければいけなかったものをちゃんと刷新できているかだと思います。

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