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社会がみえる映画レビュー#26

『ミンナのウタ』が『呪怨』以降の清水崇監督のベストを叩き出した理由

『ミンナのウタ』が『呪怨』以降の清水崇監督のベストを叩き出した理由の画像1
C) 2023「ミンナのウタ」製作委員会

 8月11日よりホラー映画『ミンナのウタ』が劇場公開中だ。先に申し上げておくと、本作は1999年製作のオリジナルビデオ版『呪怨』以降の清水崇監督のベスト。めちゃくちゃ恐ろしくて面白い、ジャパニーズホラーの新たな“正解”を叩き出した快作だった。

 目玉となっているのは、ダンス&ボーカルグループ「GENERATIONS from EXILE TRIBE」のメンバー7人が本人役で出演していること。だからこそ、もっとポップで穏やかな内容にもできそうなところだが、実際に出来上がった映画の怖さは“ガチ”だった。じわじわと恐怖が加速していく物語がよくできているし、人によっては本気で絶叫してしまうかもしれない、トラウマものの恐怖シーンも待ち受けていたのだ。

 なお、本作は公式サイト(https://movies.shochiku.co.jp/minnanouta/)の作りそのものが秀逸なので、ぜひ覗いてみて、驚いてほしい。映画本編のさらなる魅力を記していこう。

“音”と“声”による恐ろしさと、「清水崇監督史上最恐」を更新した“家の中”の恐怖

『ミンナのウタ』が『呪怨』以降の清水崇監督のベストを叩き出した理由の画像2
C) 2023「ミンナのウタ」製作委員会

 あらすじはこうだ。ラジオ番組のパーソナリティを務める小森隼は、倉庫で「ミンナノウタ」と書かれた古いカセットテープを発見し、収録中に不気味なノイズと少女の声を聞き、さらには行方不明となってしまう。元刑事の探偵は、GENERATIONSのメンバーたちに話を聞き、事態を解明しようするのだが……。

 本作の恐怖で重要となるのは“音”と“声”だ。今では若い人は存在自体を知らないかもしれないカセットテープに残された音は、ノイズが多く内容が不可解だからこそ恐怖を呼ぶし、それ以外の場面でも突発的に聞こえる声がとてつもなく恐ろしい。間違いなく、他に雑音が入らない、閉ざされた空間である劇場で観てこそ、真の恐怖を感じられる内容だろう。

 もちろん、ビジュアル面での恐ろしさも存分に感じられる。恐怖のシチュエーションそれぞれで「何が起こっているのか」がすぐにはわからないし、やはり不可解だからこその(少し笑ってもしまう)恐怖があるし、その後には“二段構え”とも言うべきさらなる仕掛けも用意されていたりするのだから。

 そして、恐怖が極に達するのは、“玄関”のシーンだ。もちろん、何が具体的に起こるかは秘密にしておくが、間違いなく「清水崇監督史上最恐」を更新していた。ここでもカセットテープのとある特徴が生かされていたのも秀逸であるし、『呪怨』シリーズでもおなじみの“家の中”の恐怖が劇的な進化を遂げたという感動すらあった。

GENERATIONSのメンバーが本人役で出演する意味

『ミンナのウタ』が『呪怨』以降の清水崇監督のベストを叩き出した理由の画像3
C) 2023「ミンナのウタ」製作委員会

 GENERATIONSのメンバーが本人役で出演するコンセプトにも、確かな意味がある。彼らは煌びやかなステージで、華やかな歌と踊りを披露する立場だ。対して、カセットテープに遺された声の主である少女の過去に隠された“夢と希望”は、そのようにパフォーマーとして成功しているGENERATIONSたちとの、残酷なまでの対比にもなっていた。

 実際に清水崇監督は、こうコメントをしている。「音楽業界で“夢と希望”を振りまき与えてきた彼らが、逆にその“夢と希望”よって振り回され、空回りし始めたら……と考え、過去の死した“夢と希望”の遺産《カセットテープ》を手にし、聴いたことから始めることにした」と。その構図には、GENERATIONSたちに憧れを抱くと同時に、うらやましく思う、いや少なからず嫉妬をも抱いている一部の観客の気持ちも、確実に投影されているのだ。

 そして、GENERATIONSのメンバーが恐怖に慄く演技が抜群に上手く、それぞれの表情さえも怖い場面すらあった。加えて美術・撮影・編集も申し分がなく、キャストとスタッフが一丸となり、本気で怖いホラー映画をしっかりと作り上げたことを心から称賛したい。本作のために書き下ろされた「ミンナノウタ」も、少女の哀しさと“それだけでない”感情を表現した、しかもGENERATIONSらしいスタイリッシュさも発揮された、秀逸な主題歌だったと思う。

清水崇の投影(?)のマキタスポーツがポンコツかわいい

『ミンナのウタ』が『呪怨』以降の清水崇監督のベストを叩き出した理由の画像4
C) 2023「ミンナのウタ」製作委員会

 もうひとつ重要なのは、実質的な主役が「GENERATIONSのことをまるで知らない探偵のおじさん」であること。彼はガサツな性格で、メンバーそれぞれに話を聞くも、失礼にも名前を盛大に間違えたりして、他キャラクターから諌められることも多い。ともするとイライラばかりを抱いてしまいそうなところだが、不思議と感情移入してしまうのは、演じたマキタスポーツの愛嬌のおかげではないか。

 マキタスポーツは口コミで話題を集めた2022年公開の映画『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』でも無能なのに憎めない上司を演じていたが、今回の『ミンナのウタ』でも“ポンコツかわいい”印象がある。愛する娘への言動もいじらしいし、時にはしっかりとした推理と行動することも、それまでのギャップもあってかカッコよく見えてくる。このマキタスポーツを主人公とした映画をシリーズ化してほしいくらいだ。

 おそらく、このマキタスポーツには、少なからず清水崇監督本人の姿が投影されていると思う。何しろ、清水崇監督は企画を聞いた時に「GENERATIONSの10周年記念映画が俺のホラーでいいの?」と思ったものの、それでもせっかくのオリジナル作品であることを踏まえ、「初対面のGENERATIONSのメンバーそれぞれに挨拶を交わしつつ、関係性や各人のキャラクターをどう生かせるか?」を探って行ったらしい。

 初めこそ失礼ではないかという想いを抱えつつ、GENERATIONSのメンバーに話を聞いてホラー映画化へ取り組んだ清水崇監督の姿は、『ミンナのウタ』の劇中で彼らに不可解な出来事を聞いていく探偵役のマキタスポーツの姿の姿と重なっているというわけだ(もちろん実際の清水崇監督はメンバーの名前を間違えたりはせず、それぞれに真摯に話を聞いていただろう)。

 その後も、探偵役のマキタスポーツ=清水崇監督と変換しながら観ると、興味深いところがいくつかある。前述した“家の中(玄関)”の恐怖シーンは『呪怨』への“原点回帰”にも見えるし、その性格がガサツだったりするところも自己批判のようにも思えたのだ。

 もちろん、それらは筆者個人の勝手な見方。それを抜きにしても、シンプルでわかりやすくて恐ろしい、エンタメ性特化のホラーとして(人によっては怖すぎるかもしれないが)万人におすすめできる内容になっていたのが何よりも嬉しい。序盤のカラオケ映像など、さすがにどうかと思ってしまう演出もあるが、それも含めて楽しんでしまうのが吉。ぜひ、映画館でこそ、絶叫レベルの恐怖を楽しんでほしい。

『ミンナのウタ』 8月11日(金) 全国ロードショー
出演:GENERATIONS 白濱亜嵐 片寄涼太 小森隼 佐野玲於 関口メンディー 中務裕太 数原龍友  / 早見あかり / 穂紫朋子 天野はな 山川真里果 / マキタスポーツ
監督 :清水崇
脚本:角田ルミ 清水崇
音楽:小林うてな 南方裕里衣
主題歌 :「ミンナノウタ」GENERATIONS(rhythm zone / LDH JAPAN)
製作:「ミンナのウタ」製作委員会
製作幹事 :松竹 テレビ東京
企画・配給 :松竹
制作プロダクション : ブースタープロジェクト ”PEEK A BOO films”
C) 2023「ミンナのウタ」製作委員会

ヒナタカ(映画ライター)

「ねとらぼ」「cinemas PLUS」「女子SPA!」「All About」などで執筆中の雑食系映画ライター。オールタイムベスト映画は『アイの歌声を聴かせて』。

Twitter:@HinatakaJeF

ひなたか

最終更新:2023/08/14 19:00
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