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歴史エッセイスト・堀江宏樹の「大河ドラマ」勝手に放送講義

家康は「武田の女」にこだわった? 『どうする家康』に松姫は登場するか

家康が探させた「武田の女」を側室にした鳥居元忠

家康は「武田の女」にこだわった? 『どうする家康』に松姫は登場するかの画像2
千代(古川琴音)| ドラマ公式サイトより

 諸説あるものの、武田信玄の四女ともいわれる松姫(信松尼)といえば、悲劇的な逸話で知る人ぞ知る女性です。織田信長の嫡男・信忠と婚約していたものの、武田家と織田家が同盟を解消してしまい、婚約も解消されてしまいますが(婚約だけは解消されていなかったという説も)、その後しばらくして信忠が改めて松姫を迎えようとした矢先、本能寺の変で信忠も戦死してしまったので、2人は結ばれることはありませんでした。

 また松姫は、勝頼の時代になって戦国大名としての武田家が滅亡するという憂き目にも遭いました。姫は武田家の他の女性たちと共に八王子の地へと逃げ延び、勝頼が戦死した後も当地で身を隠すようにして暮らしました。そうして逃げ延びた松姫を、信忠は呼び寄せようとしていたのです。

 そんな松姫には「家康の側室にならないか」という話もあったようですが、おそらく家康に臣従した武田家の元重臣・穴山梅雪(信君・のぶただ)の配慮で、武田家に近かった親族衆の秋山家の娘で、於都摩(おつま)の方が松姫の身代わりに家康の側室になっています。

 於都摩の方は、現時点ではドラマには登場していないようですが、史実であれば、家康が秀吉に臣従した天正14年(1586年)の時点で、すでに家康の五男・福松丸(後の武田信吉)を授かっています。ですから、ドラマにおいて「武田の女」絡みのエピソードは、完全にドラマオリジナルのお話になる可能性が強い気がします。

 史実において、家康が武田家の血を引く女性を熱心に探し求めたことが知られているのは、天正10年(1582年)の武田家攻略当時の話でした。この時、鳥居元忠は「武田の家臣馬場美濃守氏勝(※信春という名でも呼ばれる)」の「女(むすめ)の美貌なるに心を寄せ」「之を拉し来つて妾とした」のだそうです。つまり、元忠は「徳川の一族家の女を娶り」……本来ならば元忠の身分では頭が上がらないような出自の正室を持っていたのに、あまりの美しさに馬場氏勝の娘に惚れて側室にし、家康に見つからないと嘘をついてまで隠し続けていたという話なんですね(以上、引用部は川崎浩良著『山形の歴史』から)。

 この事実を後に知らされた家康は、大笑いしながら元忠を許したそうですが、次回あらすじにある「家康が鳥居元忠に武田の女を探させ、元忠がその女を匿っている」というエピソードはこの話を参照したのではないかと思われますね。しかし、ドラマはこの元忠の側室エピソードからはすでに4~5年以上は経過しています。それゆえにドラマオリジナルの要素が強くなるとみられるのですが、ひょっとすると徳川家の庇護を受けた松姫の話にこの元忠のエピソードを混ぜるつもりなのかもしれません。

 次回の予告映像には、「歩き巫女」として信玄に仕えていた千代(古川琴音さん)の顔も久しぶりに見られました。となると、この千代こそが、松姫や、元忠の側室エピソードが取り入れられるキャラクターになるのではないか……とも考えられます。

 史実の松姫=信松尼の「その後」に話題を戻すと、八王子で生活していた彼女が徳川家から庇護を受けるようになったのは、家康が秀吉に臣従した数年後の天正19年(1591年)あたりからの話で、元・武田家家臣で、徳川家に主人替えをした大久保長安という人物が、家康から八王子に領地をいただいたことがきっかけとなりました。ドラマで鳥居元忠が匿っているのが千代だとしたら、千代は松姫を逃がすために尽力し、元忠が匿っていることが露見したことがきっかけとなって松姫が徳川家の庇護下に入る……ということになるのかもしれません。

 どのみち、史実の時系列とドラマの時系列に整合性はありません。しかし、先述したように、ドラマでは小松姫が「稲」ということになっていることから、松姫(あるいはそれに類似した存在)のエピソードが出てくる可能性は高く、ここに千代が再登場した本当の理由がある気がします。

 千代は、亡き瀬名姫(有村架純さん)を最終的には慕っていました。史実の家康は、ドラマでも後に登場する阿茶局をはじめ、武田家ゆかりの女性を側室にすることにこだわっていた節があり(武田の遺臣を先祖に持つ江戸学の祖・三田村鳶魚などは、それを家康による「女狩」と表現すらしています)、実際に家康が秀吉に臣従したドラマの時間軸の時点ですでに、於都摩(おつま)の方こと下山殿という「武田の女」を側室にして子ももうけていたわけですから、ドラマの家康が史実どおりの性格ならば、武田家と関わりの深い千代とねんごろになってもおかしくはないのかな、と考えてしまうのですが……。「武田の女を匿う」という鳥居元忠の側室エピソードを思わせる次回あらすじからすると、元忠が千代と恋仲になっているという予感もしますね。

 『どうする家康』は、瀬名姫をはじめ女性キャラクターにおけるドラマオリジナルの要素がおもしろいことになりやすい気がするので、今後の放送がより楽しみになってきました。

<過去記事はコチラ>

堀江宏樹(作家/歴史エッセイスト)

1977年、大阪府生まれ。作家・歴史エッセイスト。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業。日本・世界を問わず歴史のおもしろさを拾い上げる作風で幅広いファン層をもつ。原案監修をつとめるマンガ『La maquilleuse(ラ・マキユーズ)~ヴェルサイユの化粧師~』が無料公開中(KADOKAWA)。ほかの著書に『偉人の年収』(イースト・プレス)、『本当は怖い江戸徳川史』(三笠書房)など。最新刊は『隠されていた不都合な世界史』(三笠書房)。

Twitter:@horiehiroki

ほりえひろき

最終更新:2023/09/24 11:00
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