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生きづらさを抱えた人の頼れる居場所のひとつ「自立訓練施設」ってどんなところ?

 令和5年版「障害者白書」によると、日本には436万人の身体障害者、109万4千人の知的障害者、614万8千人の精神障害者がおり、国民のおよそ9.2%が何らかの障害を有していることになるという。

 障害を持ちながら障害者雇用などの仕組みを使って働いている人も多くいるが、障害の程度やさまざまな理由でいまは働くことが困難な人のためにも、さまざまな施設が設けられている。
 今回紹介する「千代田区障害者自立訓練施設 ランパートアカデミー」もそんな施設のひとつだ。

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「ランパートアカデミー」の受付。最先端のオフィスのような雰囲気。

 自立訓練施設とは、障害者総合支援法という法律に定められている施設のひとつで、障害者が地域生活を送る上で、身体能力や生活能力の維持・向上を目的として設置されている。自立訓練は身体障害者を対象とした「機能訓練」と、知的障害・精神障害者を対象とした「生活訓練」に分けられるが、「ランパートアカデミー」は、「生活訓練」のほうで、通所者は精神障害者と軽度の知的障害者が中心。なかでもメインを占めるのが、統合失調症、うつ病、発達障害などを抱えた精神障害者だ。

「ランパートアカデミー」は、千代田区のオフィス街にあり、その内装も、最先端のお洒落なオフィスといった洗練された雰囲気だ。調理、刺しゅう、金銭管理、パソコンのスキルアップなどのプログラムを、利用者が自由に選んで体験できるようになっている。中には、独自にパソコンの動画編集などを学ぶ人もいる。化粧が苦手な女性のために、メイクの講座も行っており、メイクができるようになって人前に出る自信がついたという女性もいるという。

「人によって特性とか得意、不得意はみなさん違うので、個別にいろいろなカリキュラムを提供しています。集団で同じプログラムをやることが苦手な方は、個別にできるというところに魅力を感じて、うちを選んでくださるケースが多いですね」

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「ランパートアカデミー」マネージャーの中島絵里奈さん

 このように言うのは、施設を案内してくれたマネージャーの中島絵里奈さんだ。通所者は近隣の区のほか、神奈川県から通ってくる人もおり、20代30代の若い世代が中心。それまでひきこもりだったり、学生時代に精神疾患を発症して、まだ一般就労をすることは難しいが、一般就労にいたるまでのステップとして、さまざまな経験を積みたいと思ってやってくる人が多いという。訪問した時はちょうど、昼食とお茶の時間にあたっていて、利用者同士が談笑している様子を見ることができた。

「利用を希望する人はまず見学をしてもらい、生活する上で困ったことや、経験や趣味などの情報を面談でヒアリングしたうえで、希望すれば3回まで利用体験をすることができます。そのうえで通所することを決めていただくと、行政との手続きをした上で利用開始になります。障害者総合支援法という法律に基づいた施設なので、利用料は低めに定められており、住民税が非課税の人は無料で利用することができます。こちらに来る人の大部分はお仕事をしていないので、多くの人は無料で利用していることになります」(中島さん)

 ここに来るまでは、家以外に行く場所がなかったという人も多く、ランパートアカデミーに来て初めて居心地のいい居場所を確保できたという人も少なくない。もっとも、この施設は無期限に利用できるわけではなく、障害者総合支援法に基づいて、2年までの利用制限が設けられている。

「2年を過ぎるとこの施設は卒業し、次のステージへ行っていただくことになります。企業で働くのか、それともほかの道を見つけるのか。それを探すための場所がこのランパートアカデミーだということもできますね」(中島さん)

 さまざまな理由で働くことが簡単ではない若者は多いが、家に閉じこもる生活だと、家族との関係も険悪になりがちだ。外に居場所を確保することは、成長への第一ステップとして、多くの意味を持っている。自立とはひとりで生きていくことではなく、いざという時頼れる依存先をいくつも持つことだとよく言われるが、さまざまな困難を抱えた人の頼れる依存先のひとつとして、このような施設は多くの役割を果たしているに違いない。

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右から「ランパートアカデミー」の喜島隆大さん、大澤典子さん、中島絵里奈さん、伊藤健太郎さん

ランパートアカデミー
https://rampart-a.jp/

里中高志(ジャーナリスト)

フリージャーナリスト。精神保健福祉士。メンタルヘルスと宗教を得意分野とする。著書に『栗本薫と中島梓 世界最長の物語を書いた人』(早川書房)、『精神障害者枠で働く』(中央法規出版)、『触法精神障害者 医療観察法をめぐって』(中央公論新社)。

最終更新:2023/11/11 10:00
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