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MACKA-CHIN×矢内絵奈『muon』が奏でた宇田川ラブストーリー

MACKA-CHIN×矢内絵奈『muon』が奏でた宇田川ラブストーリーの画像1
文=佐藤公郎(月刊サイゾー編集部)写真=井上琢也

 今年だけでもNITRO MICROPHONE UNDERGROUNDの12年ぶりとなるオリジナルアルバム『SE7EN』のリリース、自らが主宰する“アナログでの販売”に特化した〈雲見レコード〉の発足、MaL(PART2STYLE)とJUZU a.k.a. MOOCHYとのベースミュージック・ユニット〈ZEN RYDAZ〉としての活動、そして6年ぶりとなる新作『muon』を引っ提げてと、年の瀬に寅年年男の猛撃を仕掛けてきたMACKA-CHIN。

 そんな久方ぶりの新作のアートワークに据えられたのは、真っ白な雪山の景色。「なぜMACKA-CHINが雪山?」という疑問は追って解明するとして――その写真を提供したのは、渋谷宇田川町が“レコードの聖地”と言われた時代から「CISCO RECORDS」と「Manhattan Records」にて勤務した経歴を持ち、現在はそのバックグラウンドを生かし、音楽から得たインスピレーションをもとに風景写真を中心に撮影している写真家・矢内絵奈。

 このコラボレーションが生まれた背景はもちろん、猛撃を仕掛けたMACKA-CHINの雪山よろしく純真無垢な音楽への思いを、矢内氏同席の上で探索してみた。

――前作『MARIRIN CAFE BLUE』(16年)は“仮想カフェ”をイメージした作品で、『静かな月と夜』(14年)は“架空の映画のサウンドトラック”というコンセプトの作品で、MACKA-CHIN名義でのオリジナルアルバムは6年ぶりとなります。この流れを経て、どのようなアルバムの構想を練られたのでしょうか?

MACKA-CHIN 構想は簡単でしたよ。『静かな月と夜』がアンビエント・ヒップホップ、アブストラクト・ヒップホップだったんで、その第2章的な作品を作ろうという流れがあった。そもそも「静と動」で言ったら「静」が好きだから、コロナ禍で家の中にこもっていることも全然苦じゃなかったんですよ。その過程でZEN RYDAZのアルバムもあり、異種格闘技の仲間とグライムやドラムンベース、テクノ、ジャングル、ハウスの制作もあった。

 もともと「人と違うことをやりたい」っていう考えがあり、デビューアルバムからラップという手段を使ってヒップホップの可能性に挑戦したい、って部分が強いので、その延長に位置付けられるような姿勢を提示したかったんです。

 しかしですよ、ZEN RYDAZのメンバーから「散々ヘンなことやったんだから、普通にヒップホップのラップアルバムを作ったら?」と言われ、「えっ、俺もう走り始めちゃってるんですけど」で困ったなと。すでに出来上がっていたアンビエントやチルアウトのトラックにラップを乗せる感覚がなかったので、だったら……あえて乗せるか。そこで、昔から長い付き合いのある(リリース元のレーベルである)PヴァインのA&Rに聴いてもらい、『muon』の背景を作っていくことにしました。

MACKA-CHIN feat. 呂布カルマ「ODD RARE HALL」

MACKA-CHIN「雨、湯けむり」

ZEN RYDAZ feat. AZ3, EVO & KYOKO OIKAWA「KOKORO」

MACKA-CHIN×矢内絵奈『muon』が奏でた宇田川ラブストーリーの画像2

――マッカさん的に“あえて乗せる作業”は困難でしたか?

MACKA-CHIN 困難でした。ラップは自分を表現するためのパフォーマンスであるけど、MACKA-CHINという表現者としては、トラックメイキングもひとつの表現なんですよ。こと日本においては、まだインストゥルメンタル=トラックのみが評価されないというか、歌があって一緒に歌えて騒げる作品が求められるじゃないですか。極端な話、「ラップが乗っていない=インストは作品じゃない」といったようなね。そこはやっぱりテクノやハウスのインストで盛り上がるヨーロッパとは違う。そんな評価が難しいインストの上にラップを乗せていく作業、かつアンビエントやチルアウトといったドラムレスのスカスカなトラックだったりするので、あえて収録しない曲も7曲くらいはあったと思う。

――どのタイミングでシフトされたんですか?

MACKA-CHIN アルバム1曲目の「ホシトソラ」を作り終えたとき、「やっべ、もろヒップホップになっちゃった。これまでと違う感じの曲を作り始めちゃってるー」とか思ったタイミングで切り替えたと思う。

 でも、「マデイラ島」みたいな、どこでリズムを取ればいいのかわかんない曲も入っているし、なんていうのかなー……スタンリー・キューブリックの映画じゃないけど、ちょっとケミカルチックというか、温かくない感じ? インストって音のみの世界観に浸ることができるけど、人間のボーカルが入ってきた途端、その世界観を支配してしまうじゃないですか。切り替えたは切り替えたんだけど、ひたすら汗かきラップみたいなスタイルで曲を作っても全然合わない。なので、マッシブ・アタックとかの作品を聴き直し、「僕はド頭から作ろうとしている作品が狂っている」ってことをインプットして制作を続けていった形かな。

MACKA-CHIN「ホシトソラ」

――その過程があったからこそ、あえて収録しない曲も生まれたということなんですね。

MACKA-CHIN そんな感じだったから、難産といえば難産。捨てる曲は潔く捨てる。あきらめちゃった。

――ポジティブにあきらめられたんですね。

MACKA-CHIN ロンドン目指してたのにノルウェー着いちゃった、みたいな感じかな。結果的に「……ってことでノルウェーで終わりまーす。チャンネル登録よろしくお願いします!」みたいな。そもそもインストの作品を作り始めたのに、「ラップやったら?」と言われて、いざ入れ始めてみたらブレだしちゃってさ……ってこんなこと言って大丈夫かな(笑)。

――そこで気になるのが、『muon』のジャケット写真を提供した矢内絵奈さんが、どのタイミングで参加されたか? ということです。

MACKA-CHIN 矢内さんが撮る写真はホントたまらないの。キュンキュンしちゃう。まず先に話しておくと、インスタに投稿してる写真をダウンロードできるアプリがあるんだけど、もうひたすら保存しまくって。最初はCYBERJAPAN DANCERSの写真をダウンロードするとか下心でインストールしたアプリだったんだけど、いつの間にか矢内さんの風景写真だらけになって。その途中でケツとか出てきちゃうんで(フォルダは)矢内さんには見せられないんだけど。

――その話は矢内さん、ご存知でしたか?

矢内絵奈 初めて聞きました(笑)。

MACKA-CHIN×矢内絵奈『muon』が奏でた宇田川ラブストーリーの画像3

MACKA-CHIN 矢内さんの写真からビンビンにインスピレーションを受けていたので、一緒に作品を作りたい意志は堅かったんですよ。ただ、リスペクトでしかないから、友達ノリで仕事を依頼するのはイヤだったので、しっかりバジェットをキープしてからコンタクトを取りました。

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