日刊サイゾー トップ > 連載・コラム >  パンドラ映画館  > 乱れ咲く”悪の華”ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』
深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.64

乱れ咲く”悪の華”ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』

『ゼブラーマン2』画像1.jpg思わず胸元に目が行ってしまう『ゼブラーマン ゼブラシティの逆襲』
のゼブラクイーン(仲里依紗)。『妖怪大戦争』の高橋真唯、
『神様のパズル』の谷村美月、『ヤッターマン』の深田恭子に続く、
セクシーヒロインだ。三池崇史監督、ありがとう!
(c)2010「ゼブラーマン ゼブラシティの逆襲」製作委員会

 ズンドコズンドコ、顔を黒塗りした仲里依紗が腰を振り振り、踊り狂う。『ゼブラーマン ゼブラシティの逆襲』のいちばんの見どころは、何といっても仲里依紗扮するゼブラクイーンが歌い踊る「ゼブラクイーンのテーマ」のPVシーンだろう。近未来の東京は新知事(ガダルカナル・タカ)によって”ゼブラシティ”と改名され、知事の娘・ゼブラクイーンが絶大な人気を誇っている。都民たちはカリスマアイドル・ゼブラクイーンの過激な言動に痺れっぱなしだ。三池崇史監督が創り出したゼブラシティは、ある意味、すごく平和な社会だ。リーダーシップの強い人間によって治められ、一般市民は何も考えなくていい。しかも、毎日朝と晩に”ゼブラタイム”が導入され、その5分間、ゼブラシティはルール無用の無法地帯となる。毎日、だんじり祭、御柱祭級の興奮が味わえるのだ。ゼブラシティは本能にいちばん忠実なヤツがいちばんエラい。ゼブラクイーンと一緒に踊れば、ズンドコズンドコ、不思議な陶酔感が体にみなぎる。

 前作『ゼブラーマン』(04)は哀川翔の主演作100本記念として、盟友・三池崇史監督、脚本に売れっ子・宮藤官九郎が起用されたメモリアルイベントとしての作品だったが、6年のブランクを経て製作された本作は、前作との関連性はかなり希薄。15年もの長い眠りから目覚めたダメ教師・新市(哀川翔)は自分がゼブラーマンだったという記憶を失い、奥さん(鈴木京香)もとっくに消えてしまった。続編というよりは三池監督の独自テイストが前面に押し出された、奇妙に捻れ曲がったワンダーランドとなっている。

 三池監督が創り出したダークな色彩のユートピア”ゼブラシティ”。『妖怪大戦争』(05)の高橋真唯、『神様のパズル』(08)の谷村美月、『ヤッターマン』(09)の深田恭子に続く、歪んだ楽園の新しい女王さまに抜擢されたのがアニメ&最新実写版『時をかける少女』のヒロイン・仲里依紗だ。『時かけ』公開の際の彼女に、ゼブラクイーン役についても聞いてみた。

「最初に謝っておきます、スミマセン! 『時をかける少女』を観てファンになってくれた人は『ゼブラーマン──』の私を観て、ショックを受けるかも。『ゼブラクイーンは私です』って言わないと分かんないですよね。自分でも分からないぐらいですから(苦笑)。『時かけ』のときもそうでしたけど、『ゼブラーマン──』もゼブラクイーンのキャラクターが私に憑依して、現場のことはあまり覚えてないんです……」

zebra01.jpg真っ白なゼブラーマン(哀川翔)と腹の底
まで真っ黒なゼブラクイーン(仲里依紗)が
激突! 2人がそろって、初めてシマシマに
なることにお互い気づいていない。

 劇中と違って、普段は腰の低い仲里依紗。仲里依紗ファンこそ、『時かけ』の清純ヒロインから、『ゼブラーマン ゼブラシティの逆襲』での”悪の華”への妖艶な変身ぶりを堪能してほしい。仲には自分は”アイドル”ではなく、”女優”であるという認識と覚悟がある。20歳ながら、確固たる職業意識を持っているアッパレな九州女だ。仲は、ある意味で素っ裸だ。一度身にまとったキャラクターのイメージを簡単に脱ぎ去って、新しい作品へと丸裸の状態で飛び込んでいく。役によって、監督によって、善にも悪にも染まってみせる。ひとつのイメージに固執しない柔軟さ、思いっきりの良さが、彼女の魅力だろう。

 それにしても、三池監督作品には”三池印”とでも呼ぶべき、グニョグニョとした原生動物のような奇妙なクリーチャーがやたらと登場する。『妖怪大戦争』では吉凶を予言する半人半牛の妖怪”くだん”が冒頭で生まれ、『極道恐怖大劇場 牛頭』(03)では吉野公佳の股間から未知なる生命体が現れる。『インプリント ぼっけぇ、きょうてえ』(04)の工藤夕貴は頭の中にキュートなモンスターを潜ませ、『ヤッターマン』の阿部サダヲは”泥棒の神様”ドクロベエのパカッと開いた頭の中から胎児のように這い出てきた。『神様のパズル』の谷村美月は新しい宇宙、新しい生命を誕生させようと壮大な実験に挑んだ。そして今回の『ゼブラーマン ゼブラシティの逆襲』でもゼブラーマンは巨大な遠心分離機に掛けられ、ゼブラーマンから奇妙な生命体が分離発生する。このグニョグニョした生命体の正体は一体何だろうか? 

 90年代にVシネを中心に、さまざまなジャンルの作品を職業監督として全力疾走状態で撮り続けた三池監督は、『オーディション』(00)、『殺し屋1』(01)のバイオレンス作品で作家性を高めた。Vシネながらカンヌ映画祭に出品された『牛頭』や”マスター・オブ・ホラー”として米国の有料テレビからの要請を受けて撮った『インプリント』あたりで、その表現スタイルはピークに達したといえるだろう。さらに『クローズZERO』(07)、『ヤッターマン』の大ヒットで、メジャー映画でも興行結果を残せるヒットメーカーとなっていく。

 Vシネ界で暴れ回る鬼才から、メジャーシーンへと浮上していった三池監督。作品スタイルにどのような違いが生じたかというと、Vシネ時代の作品が地下室で開かれる秘密のパーティーのような妖しさが漂っていたのに対し、予算が増えたメジャー作品は多くのキャストやスタッフを巻き込んだ”ケンカ祭り””闇祭り”へとスケールアップしていったように思う。そして、その”三池祭り”のご神体となっているのが、例のグニョグニョした生命体、神なのか悪魔なのか分別できない未分化のクリーチャーなのである。

 この”三池祭り”は映画館で入場料を払いさえすれば、誰でも参加できる。映画館の照明が消え、いよいよ闇祭りが始まる。祭りには善も悪もない。ただ、日頃溜め込んだ欲望の塊を気持ちよく吐き出すだけだ。ズンドコズンドコ、仲里依紗が扮するゼブラクイーンが歌い踊る。同じアホなら、踊らにゃソンソン。善か悪か分からない奇妙なご神体のある限り、三池祭りは終わらない。
(文=長野辰次)

zebra02.jpg
●『ゼブラーマン ゼブラシティの逆襲』
脚本/宮藤官九郎 監督/三池崇史 出演/哀川翔、仲里依紗、阿部力、井上正太、田中直樹(ココリコ)、ガダルカナル・タカ、スザンヌ、永野芽郁、中野英雄、水樹奈々、前田健、六平直政、木下ほうか、マメ山田、波岡一喜、生瀬勝久 配給/東映 5月1日(土)より全国ロードショー公開
<http://www.zeb2.jp>

仲 里依紗 × ゼブラクイーン 写真集

た、たまらん……。

amazon_associate_logo.jpg

●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX
[第63回] オタク王が見出した”夢と現実”の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』
[第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか?
[第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ!
[第60回]宮崎あおいの”映画代表作”が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』
[第59回]“おっぱいアート”は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』
[第58回]現代に甦った”梶原一騎ワールド”韓流ステゴロ映画『息もできない』
[第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』
[第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』
[第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』
[第54回] “空気を読む”若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は?
[第53回]社会の”生け贄”に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』
[第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? ”寅さん”の最期を描く『おとうと』
[第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』
[第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』
[第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』
[第48回]全米”オシャレ番長”ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』
[第47回]市川崑監督&水谷豊”幻の名作”『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化
[第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』
[第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!”神の子”の復活を追う『マラドーナ』
[第44回] 暴走する”システム”が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』
[第43回]“人は二度死ぬ”という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは?
[第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』
[第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』
[第40回]“涅槃の境地”のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』
[第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』
[第38回]海より深い”ドメスティック・ラブ”ポン・ジュノ監督『母なる証明』
[第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』
[第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』
[第35回]“負け組人生”から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』
[第34回]2兆円ペット産業の”開かずの間”に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』
[第33回]“女神降臨”ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』
[第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』
[第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』
[第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇
[第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』
[第28回]“おねマス”のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』
[第27回]究極料理を超えた”極地料理”に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』
[第26回]ハチは”失われた少年時代”のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊!
[第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』
[第24回]悪意と善意が反転する”仮想空間”細田守監督『サマーウォーズ』
[第23回]沖縄に”精霊が暮らす楽園”があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』
[第22回]“最強のライブバンド”の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』
[第21回]身長15mの”巨大娘”に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』
[第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』
[第19回]ケイト姐さんが”DTハンター”に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』
[第18回]1万枚の段ボールで建てた”夢の砦”男のロマンここにあり『築城せよ!』
[第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』
[第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡”脱力”劇場『インスタント沼』
[第15回]“裁判員制度”が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』
[第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』
[第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』
[第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』
[第11回]美人女優は”下ネタ”でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』
[第10回]ジャッキー・チェンの”暗黒面”? 中国で上映禁止『新宿インシデント』
[第9回]胸の谷間に”桃源郷”を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』
[第8回]“都市伝説”は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』
[第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』
[第6回]派遣の”叫び”がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』
[第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が”倒錯美”の世界へ
[第4回]フランス、中国、日本……世界各国のタブーを暴いた劇映画続々
[第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は……
[第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは”映画の神様”となった
[第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

最終更新:2012/04/08 23:01
ページ上部へ戻る

配給映画

トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • twitter
  • feed
特集

【4月開始の春ドラマ】放送日、視聴率・裏事情・忖度なしレビュー!

月9、日曜劇場、木曜劇場…スタート日一覧、最新情報公開中!
写真
インタビュー

『マツコの知らない世界』出演裏話

1月23日放送の『マツコの知らない世界』(T...…
写真
人気連載

『24時間テレビ』強行放送の日テレに反省の色ナシ

「愛は地球を救う」のキャッチフレーズで197...…
写真
イチオシ記事

バナナマン・設楽が語った「売れ方」の話

 ウエストランド・井口浩之ととろサーモン・久保田かずのぶというお笑い界きっての毒舌芸人2人によるトーク番組『耳の穴かっぽじって聞け!』(テレビ朝日...…
写真