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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.31

萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』

tajomaru_01.jpg由緒ある良家の心優しい次男坊として生まれ育った畠山直光(小栗旬)は
許嫁の阿古姫(柴本幸)と駆け落ちするが、次々と理不尽な目に遭遇。
森の中で盗賊の多襄丸(松方弘樹)に襲われ、阿古姫を手込めにされる。
(C)2009「TAJOMARU」製作委員会

『クローズZERO』(07)、『クローズZEROII』(09)の大ヒットで若手俳優陣の筆頭格に躍り出た小栗旬。10月スタートの”月9″『東京DOGS』(フジテレビ系)の主演、2010年公開の『SURELY SOMEDAY(仮題)』での監督デビューも決まり、イケイケ状態にある彼の最新主演映画となるのが『TAJOMARU』だ。黒澤明監督、三船敏郎主演の法廷時代劇『羅生門』(50)と同じく芥川龍之介の短編小説『薮の中』が原作だが、本作は異常なまでに過剰なアクション時代劇としてアレンジされている。原作ではただの死体としてしか登場しない非力な侍が、本作では大盗賊・多襄丸から伝説の名刀・浪切の剣を譲渡され、戦乱の世を自由に生きる2代目多襄丸を名乗って大活躍するのだから、芥川龍之介も天国でビックリだろう。そして、特筆すべきは”永遠の不良貴公子”萩原健一の5年ぶりとなる映画復帰作であること。2代目多襄丸こと畠山直光を演じた小栗旬にとって、ショーケン、そして『仁義なき戦い』(73)で時代を築いた松方弘樹という大物俳優を迎え撃つ”試練の二番勝負!”という趣向の映画なのだ。

 萩原健一の後見人として瀬戸内寂聴がいるように、小栗旬の後見人として存在しているのが、『クローズZERO』2部作に続き本作も手掛けている山本又一朗プロデューサーだ。クランクインの2週間前に監督が決まったという本作は、『SF サムライ・フィクション』(98)の中野裕之監督のスタイリッシュな世界というよりは、山本又一朗プロデューサーの押し出しの強い人間味がより濃く出た作品といえる。脚本にはショーケンとは『太陽にほえろ!』『傷だらけの天使』(ともに日本テレビ系)からの付き合いになるベテラン・市川森一を起用し、山本又一朗プロデューサーも『あずみ』(03)、『あずみ2』(05)に続いて水島力也名義で共同執筆。『クローズZERO』での好演が評価されたやべきょうすけが盗賊仲間として小栗旬とつるむ様子は『クローズZERO』の源治と拳さんコンビのご先祖さまのエピソードのようであり、その一方で初代多襄丸役の松方弘樹、将軍・足利義政役のショーケンのそれぞれ浮世離れしたキャラクター造形は、今どきのシネコン向け映画ではお目にかかれない異彩を放つ。でもって主題歌はB’z。『ドラえもん』に出てくるジャイアンシチューを思わせる、何ともごった煮感が漂う異色作である。

tajomaru_02.jpg男色家という設定の足利義政を怪演した萩原健一。
2004年にプロデューサー恐喝未遂事件で逮捕された
ショーケンにとって、『天使の牙B.T.A.』(03)
以来となる映画復帰作だ。

 山本又一朗プロデューサーがどれだけ過剰な映画人かは、過去に製作した作品リストを眺めれば一目瞭然だ。皇居前でのロケ撮影を敢行した『太陽を盗んだ男』(79)、ジャック・ドゥミを監督に起用した実写版『ベルサイユのばら』(79)、噂の渦中にあった中森明菜と近藤真彦を共演させたスピリチュアル・ムービー『愛・旅立ち』(85)、カンヌ映画祭で最優秀芸術貢献賞を受賞しながら日本では未公開となったコッポラ&ルーカス製作総指揮『MISHIMA』(85)……どれも伝説と化しているカルト作品ばかりだ。近年は『あずみ』で北村龍平監督をメジャーシーンに引っ張り上げ、綾瀬はるかがロボットに扮した『僕の彼女はサイボーグ』(08)ではカク・ジェヨン監督と編集を巡って大ゲンカしている(その後、和解)。逆に監督とケンカにならなかったのは『クローズZERO』の三池崇史監督ぐらいらしい。メジャー系の映画で「何か奇妙」な作品を見つけたら、それは山本又一朗プロデューサーが噛んでいる可能性が高いといっていいだろう。

 山本又一朗プロデューサーは、小栗旬の所属する芸能&製作プロダクション「トライストーン」の代表取締役でもある。アクションの経験がなかった小栗旬は『クローズZERO』の撮影前、アクション指導のスタッフに「パンチを出すほうと逆の腕はどうすればいいんですか?」と尋ねるほど殺陣に関してはビギナーだったが、『クローズZERO』2部作に出演することでアクションのフォーマットを体得し、タフなイメージを身にまとうことに成功した。『クローズZERO』の三池監督に続き、本作ではショーケン、松方弘樹という不良の匂いがプンプンする大物たちをぶつけているのも、小栗旬にさらにワイルドな映画スターに育ってほしいという山本又一朗プロデューサーならではの親心だろう。

 黒澤明監督の『羅生門』では野性味たっぷりな多襄丸を三船敏郎が、殺される侍を『雨月物語』(53)、『浮雲』(55)の2枚目俳優・森雅之が演じている。今回の小栗旬演じる直光こと2代目多襄丸は、その2人を足して割ったキャラクターとなっている。「世界のミフネ」のメジャー級の豪快さと、作家・有島武郎の息子である森雅之の知的な雰囲気をひとりの俳優が併せ持てれば、こりゃすごいことですよ。

 足利義政を演じるために瀬戸内寂聴に髪を剃ってもらった萩原健一は、初共演となる小栗旬のことをこう評している。

「自分の出番の前に現場を視察したとき、わざわざ私のところまで来て、深々と頭を下げ、あいさつと握手をしてくれました。そのすぐ後に一緒にお茶を飲んだとき、私のほうからハリウッドに挑戦することを勧めました」

『226』(89)の撮影が迫っていたためにリドリー・スコット監督の『ブラック・レイン』(89)での殺し屋役を断ったショーケンの目には、品行方正な小栗旬の未来はどのように映っていたのだろうか。

 いろんな意味で面白いことになっている『TAJOMARU』だが、小栗旬演じる直光は初代多襄丸との大立ち回り、そして足利義政の吹っかける無理難題以上の難敵とも向き合わなくてはいけない。それは愛する女性・阿古姫(柴本幸)の心変わりというヤツだ。理屈で物事を考える男にとって、移り気な女心ほど不可解でミステリアスなものはないだろう。その道の大先輩である松方弘樹とショーケンは自由奔放に羽を伸ばし過ぎ、女性問題ではかなり痛い目に遭っている。小栗旬が2代目多襄丸のように自由に生きて、なおかつ愛を貫ければ、そりゃ本当にすごいよな。そのときこそ、仕事とプライベートを両立できる非不良系の新しいスターの誕生である。
(文=長野辰次)

tajomaru_03.jpg

『TAJOMARU』
原作/芥川龍之介
脚本/市川森一、水島力也
監督/中野裕之
出演/小栗旬、柴本幸、田中圭、やべきょうすけ、池内博之、本田博太郎、松方弘樹、近藤正臣、萩原健一
配給/ワーナー・ブラザーズ映画
9月12日(土)より丸の内ルーブル他全国ロードショー公開
http://www.tajomaru.jp

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ワイルドな小栗クンに失神寸前

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最終更新:2012/04/08 23:08
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