壮絶炎上ドラマ『聖者の行進』がブルーレイ化!! 野島伸司が参考にした障害者虐待事件とは……?

2019/04/02 16:00

『聖者の行進 Blu-ray BOX』(Happinet)

 平成時代のテレビドラマを振り返る際に、必ず名前が挙がるのが1990年代に大人気を博した野島伸司作品だ。彼が脚本を手掛けたフジテレビ系のドラマ『101回目のプロポーズ』(91年)や『ひとつ屋根の下』(93年)はそれぞれ最高視聴率36.7%、37.8%(ビデオリサーチ調べ、関東地区/以下同)と驚異的な数字を記録。コメディもので評価を得た野島作品は、TBS系のドラマ『高校教師』(93年)で近親相姦、『人間・失格』(94年)でイジメや自死といった過激な題材を扱うセンセーショナルな作風へと変わっていく。そんな過激路線のピークを極めたTBSの金曜ドラマ『聖者の行進』(98年)が、放送から21年の歳月を経てブルーレイBOXとしてソフト化された。

 いしだ壱成、酒井法子、広末涼子ら当時の売れっ子キャストに加え、雛形あきこ、松本莉緒(当時は松本恵)、安藤政信ら期待の若手俳優たちがそろった『聖者の行進』は、現在の地上波テレビでは考えられないほど強烈な内容だった。軽度の知的障害を持つ若者・永遠(いしだ壱成)らが住み込みで働くプラスチック工場が舞台だが、永遠たち従業員は雇用主である工場の社長(段田安則)や、その甥っ子(デビッド伊東)らに毎回のように暴行を受ける。さらに永遠たちと一緒に働く妙子(雛形あきこ)は、コスプレ好きな社長によってウェディングドレスなどに着替えさせられた上でレイプされるシーンが合計4回にわたって盛り込まれた。ヒロイン役の広末涼子がクライマックス前にフェードアウトしてしまったことを忘れるほど、刺激的なシーンの連続だった。

 平均視聴率20.3%という高い数字を残した『聖者の行進』だが、TBSには毎週放送後にクレームの電話が鳴り響いた。「週刊文春」(文藝春秋)は大型キャンペーン「テレビが病んでいる」を張り、いしだ壱成らが役づくりのために見学した都内の養護学校の教員が暴力的なドラマ内容に不満を持っていることを伝えている。TBSはマスコミや視聴者への対応に追われ、一部のスポンサーが企業名を番組テロップから外すという騒ぎに。今でいう“大炎上ドラマ”だった。

 放送時34歳だった脚本家の野島伸司が『聖者の行進』の企画を思いつき、ストーリーづくりのベースにしたのが、1995年に発覚した「水戸事件」と呼ばれるものだった。茨城県水戸市で段ボール工場を経営していた赤須社長は、知的障害者を積極的に採用していることで地元の名士として知られていた。ところが実際は、知的障害者の雇用は市からの助成金が目的。助成金が支払われる期間である1年半を過ぎると、工場で働く知的障害者たちは金属バットや椅子で殴られるなど激しい暴力を受け、退職することを余儀なくされていた。

 赤須社長が手に入れたのは、市からの助成金だけではなかった。工場で働く知的障害者には毎月3,000~5,000円が給料として支払われたが、彼らが自立することを願って工場へ送り出した家族には毎月3万円の寮費や寄付金が求められた。給料よりも家族が支払う金額のほうが遥かに多かった。ドラマでは社長から性的暴行を受けるのは雛形あきこだけだったが、実際の事件では女性従業員の多くが社長やその友人の性欲の犠牲となっていたことが『福祉を食う 虐待される障害者たち』(毎日新聞社)に書かれている。

 社長を訴えれば、知的障害者が働く場所がなくなってしまうため、被害者もその家族もなかなか事件化することができずにいた。また、警察も知的障害者から事実内容について聞き取り調査をすることに及び腰だった。横暴の限りを尽くした赤須社長は96年に逮捕されるものの、刑事裁判では詐欺罪・暴行罪・傷害罪のみを問われ、懲役3年執行猶予4年という実刑なしの軽い処分で許されてしまう。その判決内容に怒り、赤須社長らに詰め寄った支援者たちは、逆に器物破損や暴行などで実刑判決を喰らっている。非常に多くの問題を抱えた事件だった。『聖者の行進』の放映終了後も係争は続き、社長から性的暴行を受けた女性従業員たち3名による民事裁判が2004年まで行なわれた。

 水戸事件の発覚と同時期に、滋賀サン・グループ事件、白河育成園事件など日本各地で障害者たちが蹂躙されている事実が次々と明らかになり、11年になって「障害者虐待防止法」が成立することになる。『聖者の行進』が曲がりなりにも問題提起した知的障害者たちを取り巻く環境は、法律が整備されたことで変わったのだろうか。いや、残念ながらそうはならなかった。

 16年に神奈川県相模原市の知的障害者福祉施設「津久井やまゆり園」が元職員の男性(犯行時26歳)によって襲撃され、入所者19人が刺殺される残虐な事件が起きている。犯人逮捕後も亡くなった方たちの名前は公表されず、歪んだ思想を持つ犯人の主張ばかりが大きく報道されるという異常な事態となった。物議を醸した『聖者の行進』の放送から21年。知的障害者たちを取り巻く環境は、ますます厳しくなっていると言わざるをえない。
(文=長野辰次)

『聖者の行進』ブルーレイBOXは4月2日より発売。

最終更新:2019/04/02 16:00

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