深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.566

国民的ヒーローが爆弾魔にされた実録冤罪事件! 名もなき英雄の墓標『リチャード・ジュエル』

リチャードと「松本サリン事件」とのつながり

正式な捜査令状がないにもかかわらず、FBIはリチャードを誘導尋問しようとする。法の正義を信じるリチャードも、捜査協力を惜しまなかった。

 弁護士のワトソンが叱咤し、リチャードたちはマスコミや警察に対して反撃することになる。まずは母親ボビが矢面に立つ。マスメディアがぎっしり集まった会見場で、息子の無罪を主張するボビ。名女優キャシー・ベイツの独壇場だ。このときのスピーチは気をてらった内容ではない。シングルマザーとして勤勉に働いてきたこと、そして息子リチャードは無罪であると信じていることを訥々と語る。母親の貫禄の前に、それまで興味本位で記事を書き立てていた記者たちはたじろぐことになる。

 ボビが体を張った後は、リチャードの番だった。FBIの正式な取り調べに対し、それまで言いなりになっていたリチャードは、毅然とした態度で言い放つ。

「警備員たちは不審物を見つけても、今後は通報することをやめてしまうことになります。リチャード・ジュエルの二の舞になるのはごめんだって。法の執行官であるFBIのみなさんはそれでいいんでしょうか」

 事件から3カ月近くがたち、FBIはようやくリチャードは容疑者ではないことを認めた。マスコミはリチャードが容疑者だとセンセーショナルに報じたときとは違って、そのことは小さな記事でしか扱わなかった。そのため、リチャードのことを犯人だと思ったままの人が多かった。再就職もままならなかったリチャードは、1997年に来日し、熊井啓監督の実録映画『日本の黒い夏 冤罪』(00)のモデルとなった河野義行さんらと報道被害の実情を訴えるパネルディスカッションに参加している。

 爆弾事件の真犯人が逮捕されたのは03年になってからだった。狂信的なキリスト教原理主義者の仕業だった。ようやく無罪であることが証明されたリチャードだったが、07年に44歳の若さでその生涯を閉じている。

 自分の信じる正義を貫き、多くの人命を救った名もなき英雄がいた。映画『リチャード・ジュエル』は、映画スターではない、映画職人クリント・イーストウッドがつくった手づくりの墓標のような作品である。

『リチャード・ジュエル』
製作・監督/クリント・イーストウッド 原作/マリー・ブレナー 脚本/ビリー・レイ
出演/ポール・ウォルター・ハウザー、サム・ロックウェル、キャシー・ベイツ、オリビア・ワイルド、ジョン・ハム、ニナ・アリアンダ、イアン・ゴメス
配給/ワーナー・ブラザース映画 1月17日(金)より全国ロードショー
(c )2019 VILLAGE ROADSHOW FILMSBVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC
richard-jewell.jp

最終更新:2020/01/17 20:00
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