深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.566

国民的ヒーローが爆弾魔にされた実録冤罪事件! 名もなき英雄の墓標『リチャード・ジュエル』

五輪開催で盛り上がる米国・アトランタで起きた実話。爆弾を見つけた警備員のリチャード(ポール・ウォルター・ハウザー)は逆に爆弾魔扱いされるはめに。

 

 オリンピック開催で沸き返っていた1996年7月の米国・アトランタで、ひとりの警備員が公園にあった爆弾を見つけ、多くの人命を救った。一躍、彼は国民的ヒーローとして持ち上げられる。だが事件発生から3日後、FBIは彼を容疑者だと睨んでいるというスクープを地元の新聞が報じたことから、事態は一変。英雄から爆弾魔扱いするマスコミに追われるはめに陥った。クリント・イーストウッド監督の最新作『リチャード・ジュエル』(原題『RICHARD JEWELL』)は、冤罪によって生活を破壊された実在の人物にフォーカスを当てた実録ドラマだ。

 リチャード・ジュエル(ポール・ウォルター・ハウザー)は、警察官への強い憧れを持っていた真面目な青年だった。ジョージア州北部の町で副保安官を務めていたが、母親ボビ(キャシー・ベイツ)が入院することから退職し、アトランタにある自宅に戻ってきた。地元の大学で警備員として働くも、真面目な性格ゆえに飲酒運転していた学生を厳しく注意したところ、業務逸脱だとクレームをつけられ、解雇されてしまう。それでもリチャードは、いつかまた警察に復職したいという気持ちを胸に、近代五輪100周年を迎えたアトランタ五輪の開催で沸くオリンピック記念公園を警備する仕事に就く。

 多くの観客たちがライブイベントで盛り上がる記念公園を警備中だったリチャードは、ベンチ下に置かれた怪しいリュックを見つける。他の警備員たちはただの忘れ物だろうと気にしなかったが、リチャードは不審物を見つけたら警察に通報し、爆弾処理班に対処してもらうという規則に従う。リチャードの予感は的中、リュックの中身はパイプ爆弾だった。リチャードがいち早く気づいたお陰で、死者2名、負傷者100名以上を出したものの、多くの命を救うことになった。マスコミはリチャードのことを「国民的ヒーロー」と褒め称えた。

 女手ひとつでリチャードを育てた母親のボビも、テレビに映る息子が誇らしかった。2度の結婚生活に失敗したボビだったが、我が子が真っ直ぐに育ってくれたことを喜ぶ。リチャードには「本を出版しないか」というオファーも出版社から届く。ところがそんな幸せな時間はわずか3日間で終わり、天国から地獄への日々へと暗転してしまう。

 爆弾犯を追うFBIは、爆弾の第一発見者であるリチャードを容疑者として見ていた。自分で爆弾を仕掛け、注目を集めることを目論んだのだと。警察への復職を願っていたこと、大学の警備員の仕事を解雇されていたことも、リチャードにとってはマイナス要素となってしまう。FBIの捜査官トム(ジョン・ハム)からこの情報を入手した地元新聞社の女性記者キャシー(オリビア・ワイルド)は、裏付け取材することなく、そのままリチャードの実名入りでスクープ記事にしてしまう。リチャードは国民的ヒーローから一転、自作自演した醜悪な爆弾魔だとマスコミによって広められてしまう。

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