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沢尻エリカ被告に判決【神保哲生×宮台真司×松本俊彦】薬物事件をめぐる刑罰と報道の問題点

文=構成/橋川良寛・blueprint

国によって異なる「麻薬」の定義

神保 なるほど。そうすると結局、やはり社会的に「いただけないもの」である「麻薬」とは何か、という問題が出てくるわけですね。月並みですが、広辞苑で「麻薬」と引くと、「麻酔作用を持ち、常用すると習慣性となって中毒症状を起こす物質の総称。阿片・モルヒネ・コカインの類。麻酔薬として医療に使用するが、嗜好的乱用は大きな害があるので法律で規制」と書かれています。麻薬には法律的な定義があり、法律で麻薬に指定されているかどうかが第一義的な条件になりますが、広辞苑による一般的な定義にも『中毒症状』という言葉が出てきます。

松本 おそらくかなり苦しい思いをして書かれたもので、これは医学的な定義ではありません。法律でいう「麻薬」の元になるのは1961年、国連による麻薬に対する単一条約です。当初の議論の中では、アヘン類とコカイン類を麻薬として指定するはずだったのですが、直前になってアメリカが「大麻も入れてくれ」とゴリ押しをした経緯があります。結果として、国際的にはアヘン類とコカイン類と大麻が麻薬となっている。

 ただ、日本がそれに批准して国内でさまざまな法律を作るときに、そもそも大麻の乱用実態がなく、なかなか「麻薬」とすることができなかった。しかし、GHQから別の指導があり、その中で麻薬取締法ができてしまったんです。そこから、麻薬の定義も日本独自のものになっていきました。

神保 「麻薬」の意味しているところは、国によっても違うと。

松本 専門家の中でもさまざまです。古代ローマ皇帝や中国の皇帝たちも、アヘンなどを舐めながら仕事をしていたという歴史もあり、長い人類と薬物の歴史の中で、法と罰によって薬物をコントロールしようとする試みが実効性をもって本格的に行われた期間は、たかだか60年弱の間ですから。

宮台 戦時中は「猫目錠」=ヒロポンを使っていましたね。戦後も太宰治をはじめとする文人がやはり、ヒロポンを使っていました。

神保 昔は、徹夜で勉強するためにヒロポンを使ったそうですね。ヒロポンは商品名ですが、要するに覚醒剤です。かつて使われていたヒロポンと、今出回っているようなヘロインは、大きく違うものなんですか?

松本 もちろんです。法律ができて違法化されれば、販売者が変わります。それまでの薬局や病院から、やはり反社会勢力になる。そうなると、もっと売らんがために濃度は濃くなっていきます。だから規制されたあとに出回っている覚醒剤のほうが、かつてのヒロポンの時代よりも純度が高い。

神保 依存させるために。

松本 そういうことです。同様に、今アメリカで問題になっているフェンタニルのような合成麻薬のほうが、ヘロインに比べてもはるかに強い。規制されて、それをかいくぐって出てくるもののほうがやばいということです。

神保 麻薬を取り締まる国内の主な法律には「麻薬及び向精神薬取締法」「覚せい剤取締法」「大麻取締法」「あへん法」「毒物及び劇物取締法」「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(医薬品医療機器等法)」などがあります。

松本 日本の薬物に関する法律は奇妙で、増築を繰り返しているので統一が取れていないんです。例えば、麻薬及び向精神薬取締法では、麻薬の中毒者と認定された場合、医師は届け出をしなければいけません。しかし、覚醒剤については別立ての法律だから届け出の義務がない。とにかく抜け穴が多く、一貫性がないのが、日本の法律の特徴だと思います。

宮台 僕がかつて渋谷などをフィールドリサーチしていたころは、抗うつ剤のリタリンという薬が非常に流行しており、その後取り締まられました。どんな基準、どんな行政的な理由で、それまで網にかからなかったものを規制するのでしょうか?

松本 一応、麻薬指定に関しては部会のようなものがあり、実は僕も委員をしています。動物実験をやったり、あるいは海外で乱用実態があると認定されたものに関しては、かなり積極的に先回りして規制しているところがあります。その中で僕がいつも疑問に思うのは、動物実験でその物質の依存性や神経毒性を調べるときに、対照群が生理食塩水なんです。これでは、カフェインでもいろいろな結果が出てしまう。おそらく当局は、たくさん規制したい。規制利権というものがあり、予算獲得の根拠や省庁の実績になるということは、明らかにあるのだろうと感じています。

神保 もうひとつ薬物を作用別に分けると「中枢神経興奮系/覚醒剤、コカイン、たばこ(ニコチン)」「中枢神経抑制系/ヘロイン、モルヒネ、あへん、大麻、アルコール、向精神薬、有機溶剤」「幻覚系/LSD、マジックマッシュルーム、MDMA、2C-B」となります。意識を覚醒させるアッパー系と鎮痛効果を持つダウナー系に加えて、幻覚系の3種類があるのですね。

松本 よく「日本人は働き者で勤勉だからアッパー系の覚醒剤が好きなんだ」と言われますが、日本人がダウナー系のアルコールが好きで、体質的に飲めない人も飲んでいるし、海外から旅行に来た人は、年末の繁華街に行くとみんな驚きます。日本で覚醒剤が広がっている理由としては、まず戦後の復興期にみんな覚醒剤をきめて日夜働いたことがあるのではと思いますし、また昭和50年代の後半から、やはり反社会勢力が一生懸命営業していたということだと思います。ただ、実は最近の若い人たちはあまり使っていなくて、刑務所に入っている人たちがどんどん高齢化している。僕の外来に来る覚醒剤依存の患者さんたちも、平均年齢はやはり50代前半です。

神保 若い人は少ないんですか?

松本 若い子たちは大麻や市販薬、処方薬で来ています。ただ、それは薬を使う前からしんどくて、リストカットを繰り返しているような子たちですね。87年に麻薬・覚せい剤乱用防止センターというものができて、「ダメ。ゼッタイ。」キャンペーンを90年代前半にかけて激しく行い、薬物を使っている人に対する偏見やスティグマを強化することによって、若い子たちが手を出さなくなったというのはあると思います。

宮台 あれはやはり効いたんですね。

神保 テレビCMで「覚せい剤やめますか? それとも人間やめますか?」という衝撃的な標語が毎日のように流れていました。アメリカでも似た例があり、ニクソン政権は「麻薬戦争(War on Drugs)」を掲げ、麻薬を絶対悪として社会から隔離する政策をとった。これも、普通の人が麻薬に手を出さないようにする効果はありましたが、一方で、一度手を出してしまうと完全に社会から排除されてしまう原因にもなっています。

宮台 オランダの実験で、高校生を3つのグループに分け、ひとつのグループには「ダメ。ゼッタイ。」のような話をして、2つ目のグループには「なぜやってはいけないのか」という説教をし、3番目のグループには体験者を招いてしゃべらせる、というものがありました。追跡調査の結果、意外なことに、その後薬物に手を染めて抜けられなくなる人間がもっとも少ないのは3番目のグループで、実はもっとも多かったのが「ダメ。ゼッタイ。」のグループだったと。僕はDARCのレクチャーに出たことがありますが、やはり、最初に薬物による「いい体験」を聞き、そのあとにお釣りがくるくらい「悪い体験」を聞くというのは、かなり効果的だと思いました。

松本 おっしゃる通りです。僕自身、昔は「ダメ。ゼッタイ。」的な講演をして回った時期がありますが、アンケート調査をすると、9割の子たちは「絶対に薬物はやらない」と答えるのですが、残りの1割の子たちは「自分を傷つけるだけなんだから、やりたいやつは勝手にやればいい」と答えるんです。そして、その1割の子たちには自傷経験がある。大抵、アルコールもタバコも、市販薬の乱用も、アンセーフティなセックスもすでに経験している子が多くて、薬物乱用リスクが高い集団なのです。つまり、「ダメ。ゼッタイ。」というのは、おそらく薬物のリスクが一番高く、一番届けなければいけない子たちに届かない言葉なのだといえます。

 この言葉の大元は、国連が出した「Yes To Life, No To Drugs」です。これを「ダメ。ゼッタイ。」と訳したら、受験では絶対にバツですよね。つまり、人生にイエスと言えない子たちをどう支えるか、という視点なしに、ただ薬物のコントロールだけで対策をとろうとした日本の問題だと思います。

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